#031 ダンスは男と女のゲーム Massimo & Alessia

投稿者: | 2020年5月6日

2013年ダンスファン11月号に掲載されたマッシモ・ジョルジアンニとアレッシア・マンフレディーニさんのインタビュー記事を記録します。「日本人の皆さんがセクシーじゃないというのではありませんが、それを表現しないでおこう、隠そうとしているのです。しかし、ダンスは男と女の色っぽいゲームなのです」 ―― あなたはどう受け止めますか?

(Interview & Text/神元誠・久子 Photography/澤田博之)

 

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  • 以下はインタビューの書下ろし。記事に含まれない話もあります。

 

 

このインタビューは今年6月22日、23日の2日間にわたりJDSFダンススポーツトレーニングセンター(東京都江東区有明)行われたマッシモ・ジョルジアンニ主催のワークショップ、WorkAsFire(ワークアズファイア)の終了直後に行なわれたものです。

 

 

エネルギーを与え合うワークショップの魅力

 ― 昨年日本で初めて開かれたWAFのワークショップを見学させていただきましたが、2回目となる今年は実際に参加させていただき、競技会に無縁の私たちですが非常に勉強になりました。素晴らしいワークショップをありがとうございます。

マッシモ(M): 体験と見学はまるで違いますから、あなた達も実際に体験したことでより詳しく、より深くワークショップを感じることができたと思います。今年は昨年よりも多くの参加者があり、私たちはまずそのことに対して感謝したいと思います。おかげで今回のワークショップには昨年よりずっと大きなエネルギーがありました。

アレッシア(A): なぜなら、ワークショップには参加者同士がお互いにエネルギーを与え合うという大きな要素があるからです。与え合う中で助け合っているとも言えます。私は大きなエネルギー、パワー、情熱などを強く感じました。

M: 大きなパワーがあり、ワークショップの間中、参加していたカップルたちには自信と信頼がみなぎっていました。そうしたものは、自分たちの中だけで増幅するのは、なかなか難しいのです。しかし、参加している周りの人たちが変化していくのを目の当たりにすると、自分たちも他の人たちと同じように変化している、進歩していることが実感できるのです。他の人たちを見ることで、自分たちに対する自信や確信が持てるようになるのです。ワークショップにおけるその意義は決して小さくはありません。

 

 

日本人よ、もっと自分を出せ

 ― 「百聞は一見にしかず。見ることは信じることなり」ですね。日本のダンサーが世界で戦うようになる、さらには、世界の頂点に立つためには、何が必要ですか?

M: 私がいつも日本人に対して感じることは、控えめすぎるということです。「大人しい」、「遠慮深い」と表現しても良いかも知れません。皆さん一様に、他の人の邪魔をしてはいけないと考えたり、あるいは、他の人たちより努力しなければいけないなどと考えたりしているように見受けられます。でも、本当にそうしなければならないのでしょうか。私たちは皆同じ要素からできた人間で、違う点といえば、国籍が違ったり、住んでいる所の環境や文化が違ったりはしますが、そんなことは構わないのです。あなたが手に入れたい、到達したいと思う事に向かってどんどん進んで行って構わないのです。競技会に出るには競技会のルールがありますから、国籍に関係なく、皆、順守しなければいけませんが、そうした以外の所では、もっと自分を出して構わないのです。

A: 私がもう一つ感じることは、日本人の皆さんは他の国の人達と比べ、体を触れ合うことに抵抗をもっていることです。それは、日本には肉体よりも精神面に重きを置く文化があるからではないかと思います。それはとても素晴らしいことですが、私たちのダンスにおいては、実際に体を使っているわけですから、日本人ダンサーはもっともっと肉体面で強くならなくてはならないと思います。ジムに通って体を鍛えなさいというのではありません。私が言いたい強さとは、体と体が触れ合いながら踊るそのフィジカル・コンタクトの中から、踊りが体を通して伝いかける感情や思いをしっかり掴み取ることで、そうした訓練と経験を重ねていくと、日本人は目標に到達することができると思います。ダンスに必要な精神面では非常に高いレベルにいるのですから、それに見合う肉体面でのバランスを取ることが大切です。

 

 

そこに一滴のセクシーさが求められる

M: アレッシアの話を聞いてふと思ったのですが、自分のダンスのスタイルをきちんと認識することも、とても大切です。このスタイルにはセクシーさというものが大きく関わってきます。日本人の皆さんがセクシーじゃないというのではありませんが、それを表現しないでおこう、隠そうとしているのです。しかし、ダンスは男と女の色っぽいゲームなのです。よって、その中に一滴のセクシーさ、色っぽさ、あるいは官能的な部分が求められるのです。日本の皆さんはそれを恥じらったり躊躇したりしないでください。私たち人間が必要としているものが踊りの中に欲しいのです。ダンスは男と女のゲームなのですから、競技会ではそうした表現を見たいのです。

A: そうね。ワークショップの中で私たちのキュー(合図)に合わせ、体が感じるままに動かす練習や、どんどん相手を変えながら男女関係なく、大げさなくらいに大きなハグしあう練習もしましたが、それは既存の自分から抜け出すことによって、踊りの中に真のフィジカル・コンタクトを表現できるようにしたいからなのです。イタリアではまったくの一般人を対象にした団体コースもあり、そこではもっと自分自身を好きになる、良く思えるようになることを目的にしています。イタリア人ですからハグなどは日常的なことですが、それ故に形式に陥っている点もあります。ですから、形式から抜け出すために、集まった人同士オーバーにアクションする訓練をしています。

M: そこではダンスのワークショップ同様にスタッカート、混乱、混合、継続、静寂、そうしたキューをヒントに体を動かす練習もするのですが、皆さん、実生活に戻った家庭でも職場でもとても役に立っていると言います。

A: 私たちが大好きなキューの一つにファイアもあります。この言葉が好きなのは、消え入るような小さな火から大きな炎まで、ファイアから様々なイメージを持つことができるからです。火がともされた、あるいは、消された瞬間の刺激もあります。そのように感じられる諸々のことを日常生活でも、ダンサーは特にダンスの中でも関連づけるようにすることが大切なことです。皆さんもできると信じています。

M: なぜなら総ての動きにはエネルギーが存在し、ダンスの一歩一歩の中にもエネルギーがあるからです。こうした訓練が一般の人たちやソシアルダンサーの人たちにも効果的なのは、慣れ親しんだお決まりの生活パターンから抜け出せるからです。彼らにはファイアのような刺激が必要なのです。自然なこととして人は皆、年を取るにしたがい、だんだん動かなくなります。人は放っておくと、休みたい、のんびりしたいと思うようになってしまうので、そこにファイアを注入するのです。

A: ファイアからは大きなエネルギーや他の要素も感じることができます。いろんな色もイメージできます。赤、青、オレンジ、黄色などなど。今回のワークショップでは皆さんに刺激を与え続けはっぱをかけましたが、皆さんがアップアップしてはいけないので、敢えてファイアは使いませんでした。なるべくシンプルなことで、きちんと効果が出るようにしたのです。

 

 

できた部分をまず認識しよう。その先も必ずできるから!

 ― 私たちの目にも、の効果ははっきり観て取れました。最後に行なった競技会形式の中で、参加者たちは必死に踊りつつ、あなたたちの指示通りに表現できていました。特に最初の2曲目までは素晴らしい反応をしていたのが良く分りました。

M: 前半は素晴らしく良くできていました。まずは、「できていた」この事実を認識することが大切です。後半は全神経をキューに向けることができなくなったり、疲れから思うように動けなかったりした部分もありましたが、そうしたことは競技会の中で必ず出くわすことです。だからこそ、こうした練習を繰り返ししておくことが大切なのです。必ずできるようになりますから。

 

 ― お二人の掛け声でダンサーたちは疲れた体を動かせるようになるのですから、まさに「魔法の言葉」に思えました。こうした練習の意義はとても大きいと思います。特にマッシモさんたちのような人が指導し、キューを出すと意義はとても大きいと思います。

M: 驕っているように響くかもしれませんが、私もそう思っています。

A: 決して驕りではないと思うわ。私たちはこのワークアズファイアを通して、世界中のダンサーたちがそうしたことができるようになって欲しいと思っているのですから。更に、もっと「心」の部分に触れて欲しい、もっと「肉体」という部分を知って欲しい、そのために私たちが良い影響を与えていきたいとを思っている訳ですから。世界中には、素晴らしい技術を持っていても、フロアの上でプレゼンテーション(自分の表現)ができない ― そうしたダンサーがたくさんいます。彼らは余りにもステップの事や技術のこと、あるいはシェイプのことに頭がとらわれ過ぎているからです。それ自体は決して悪いことではありませんが、それだけでは不十分です。私たちがワークショップで目指すのは、そうした彼らの中からもっと人間的なものを引き出すことなのです。

 

 

踊り自体に求められる音楽性

 ― 良く分る気がします。私たちはお二人の現役時代の踊りを生で見る機会はありませんでしたが、初めてDVDで見た時、ハートのある踊りにとても感動しました。決して本を翻訳させて頂いたからとか、ワークショップに参加したから言うのではありませんが(笑)、ハートを感じ、音楽性を感じ、そして、メッセージを感じたのです。そこで改めてお聞きしたいのですが、お二人にとり、ダンスにおける音楽性(ミュージカリティ)とは何でしょう?

M: 「音楽性は信じる事である」ということです。そこに音楽がある事、そして、あなた自身に音楽のセンスがあると信じることです。これがものすごく大切です。そして、音楽に触れ、音楽と繋がり、音楽が何を伝えようとしているか理解すること。それが出来たら次は、理解したことを行なうことです。

 

 ― そのためには、じっくり音楽を聞く時間を設けなくてはいけませんか?

M:  実のところ私たちは音楽をかけないで練習する時間が沢山あります。音楽のない所での踊りそのものの中に音楽性がなければ、音楽があっても音楽性はなかなか出てこないものだと思っているからです。つまりあなたのボディが音楽を感じ、ボディの中に音楽性がなくてはならないのです。私が思う音楽とはコネクションです。ピアノがあり、バイオリンがあり、トランペットがあり、そうしたものが合わさってひとつの音楽ができるように、私たちが踊る時、男性も女性も、お互いのダンスをしつつも、二人の動きを明確に一つにつなげなくてはなりません。そうした作業をする上で、音楽は時として邪魔になることがありますから、ある程度までは音楽なしで創り上げる方が良いのです。そうすると音楽が入ってきたとき、より大きな喜びを感じ、より音楽性を表現できるのです。

A:  勿論、初心者だとステップとか体重移動などが大きな問題でしょうから無理だとしても、あるレベルに達しているダンサーなら、音楽がない時にも、その中で何ができるか、音楽性の事は考えていなければいけません。

M: 音楽性を表現しようとした時、行っているステップに対する呼吸はとても重要ですから、そのことも頭に入れておいてください。日常生活では、呼吸の仕方など考えたりしませんが、ダンスでは呼吸に対する意識を持たなくてはなりません。例えばワルツのナチュラル・ターンを踊る時とタンゴのリンクでは呼吸のしかたは全く違います。それほど動きに大きな違いをもたらします。

 

 

私の中に自由を感じ、相手に自由を与えること

 ― アレッシアさんが考える理想の女性ダンサーとは?

A: いい質問だけどむずかしいわね(笑)。理想の女性とは、彼女自身がアクティブであること。でも、男性と踊っている時には決して自分から決定を下さないこと・・・かしら。女性の積極性は男性のリードの前に来ることはなく、常に後なの。そして男性から伝わるメッセージに対して敏感であり、メッセージの大きさを的確に把握し、リアクションとしてのアクションに置き換えることができることかしら。

これは私個人の価値観で、他の人もそうであれとは言いませんが、私は男性がやりたいことを、できるだけきちんとやらせてあげるようにすることが大切だと思っています。「それでは自分の事が何もできず、女性は満足できないではないか」、ということではありません。私が踊りながら考えていることは、自分を表現することと同時に、彼がしたいことをさせてあげることです。このことは自分の中で大きな価値をもっていて、満足感や充実感が得られます。そうすると、自分の中に自由を感じ、相手に対して「したいことをしていいのよ」と思える余裕が得られるのです。女性が男性に服従するということではありません。自分が何をしたいか、そして、何をしているかをしっかり認識している訳ですから、私の中にはワークショップの主題でもあった I AM をしっかり感じることができます。彼が何を表現したいか、私に対して何を伝えたいかを感じ取ることは、女性の私としては、とても重要に思えます。

 

 

 

 

私たちの喜びはここにある

 ― 時間も押し迫ってきましたので、新しく出された小さな本 “iPractice with MAGBook” (ダンス・パフォーマンスを向上させる7つのヒント/A6サイズ、約90ページ)についてお聞かせください。

A: 今度の本は二人で書きました。パートを決めて原稿を書き、二人で話し合って作ったのです。私たちが世界を回って教えている時、実に多くのカップルが練習よりも喧嘩に長い時間を費やしているのを見てきました。喧嘩には二つの大きな原因があります。一つは計画性がないこと、もう一つは、相手の話をさえぎってしまう習慣です。逆に言えば、相手の話がきちんと聞け、計画性があれば練習時間を有益に使えるわけです。考えてもごらんなさい、カップルが一番費やしているのは競技会ではなく練習時間なのですから、そこを生産的にしなければなりません。そこで、そのための7つのアドバイスを書き、靴袋の中にでもどこにでも入れて持ち運べるよう、この小さなサイズにしたのです。

M: 主観的と客観的の違いも学んでほしいと思います。話す側は客観的な話しをしても、聞く側が個人的に非難されたと主観的に受け止めてしまうと、そこで無用な問題が発生します。客観的な話題には客観的な話し合いがされるべきですから。

 

 

 

 

  ― では最後に、先の「ダンサーのためのメンタル・トレーニング」の読者に対してメッセージをいただけませんか?

A: この本はマッシモが一人で書いたものなので一読者としてのコメントになりますが(笑)、そこに書かれている通り、ダンスとは決して肉体の部分だけではありません。勿論、肉体はとても重要であるに違いありませんが、見えないエネルギーの部分も同様に重要な要素であるのも事実です。しかし、それを忘れ、ないがしろにしているダンサーたちがとても多く、踊りが粗末になっていることを残念に思います。皆さんが、そうならないよう、何度も本を読み返してくださるとうれしいです。

 

 ― まったくダンスをしない兄に翻訳本を送った所、「この本はダンサーだけではなく、あらゆる人に役立つと思う」と電話してきてくれました。

M: それは嬉しい話です。実際の所、私は今、一般の人たちのための本を書き始めた所です。ダンサーだけではなく、普通に会社勤めしている人たちや、家事をしている人たちなど、いろんな人と「技術ではなく人間的な部分」で接することができる ― それが私たちの喜びなのです。 

 (インタビュー&文:神元誠・久子)

 

ハッピー・ダンシング!