KD27 北国ダンサー物語 3章第10話 隣の人が入会

投稿者: | 2023年12月30日

3章第10話 隣の人が入会

 

 青い空に青い海、暑すぎない気温にさらっとした空気、8月のこの街は最高です。その街を行き交う高齢者たちは皆、元気溌剌オロナミンC。中でもサークルメンバーの後姿は若者と見間違えるほどです。ダンスのお陰で細胞が若返っているのでしょう。

 そんな8月のある日の公民館、準備体操が始まろうとしている時に恵美ちゃんが「ちょっといいですか」と話し始めました。みんなは、また誰かがケガしたのかと心配しましたが、今回は違ったようです。

 

恵 美: こないだ隣の奥さんとおしゃべりしていたらさ、「あんたイギリスに行くんだったら一緒に連れてってー」て言うんだわ。子供の頃からの仲良しなんだけど、それって、できる?

寿 美: いいじゃない! ホテルの部屋もあるわよね。

 

千 葉: 大丈夫。二人一部屋で一応8部屋仮予約しているから。

恵 美: そしてね…

 

千 葉: そして? 胸騒ぎするなぁ。

恵 美: そして、言うのよ。「高校時代にはフォークダンス部にいたから」って偉そうに…

 

寿 美: それって、もしかしたら…

恵 美: 困っちゃうわよね。「隅っこで立ってるだけでもいいから、一緒に出られないかしら」って。昨日の夜、また家まで来てさー「明日のサークルできいてくれ」って言うじゃない。仕方ないから、「いちおう聞いちゃるね」って約束しちゃったからさ。

 

全 員: ええええー!

恵 美: いや、私もさ、「ムリ。人数も振り付けも決まっているし」って言ったんだけど、「立ってるだけでいいんだから聞くだけ聞いてみてよ」ってしつこいの。私があんまりにもキラキラ美しく輝いてるから、羨ましくなったんでないかい。

 

千 葉: 良く分かんない部分もあるけど、今度連れてきたら?なんか閃くかもしれないからさ。

恵 美: もう、来てるのよ!

 

全 員: はやっ!!

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 そして、恵美ちゃんはホールの外から隣人を連れてきて紹介しました。

 

恵 美: 紹介します。おとなりの千恵子さんです

千 葉: こんにちは! なに千恵子さんですか?

 

都 成: 都成千恵子です。

千 葉: えっ、隣に住んでいる都成さん?

 

さとし: 離れていてもおとなりさん?

都 成: あははー。紛らわしいですけど、よろしくお願いします! 本当にわがまま言ってすみません。本当にフロアの隅に立っているだけでいいんです。一緒にやらせてください。でも、「踊れ」と言われたら頑張って練習します!

と、軽快な素振りでアピールしました。

 

恵 美: やめて! それって、殆ど「踊らせろ!」て言ってるようなものじゃない。

 恵美ちゃんの旦那さんの佐藤さんも「先生、すみません。近所づきあいって難しいものですね」と、微妙な謝り方をしましたが、こんなことが言えるのですから、とても仲良しなのが良く分かります。

 すると千葉ちゃんが腕を組んで話しました。

 

千 葉: じゃあ千恵子さんには殆んど立っているカフェ・バーのオーナー役をしてもらいましょう。チャミちゃん先生、交代してあげて。

寿 美: そしたら私は何するの?

 

千 葉: 悪いけど、外れて貰う。

全 員: えええー!!

 

千 葉: はいはい、文句は言わない! それからチャミちゃん先生、都成さんに誓約書を書いてもらって。

寿 美: はーい。

 流石に、キラキラ美しく輝いてる恵美ちゃんからこの話は聞いていなかったようで、誓約書を受け取った都成さんは目を丸くして驚いています。そこに、恵美ちゃんが恩着せがましい説明を加えました。


恵 美
: 守れないと、みんなに迷惑かかるんだから、ほんと、気をつけてね。私も連れてきた責任あるんだからね。それから、守れなかったときは、海に流されることになっているからね。もう、流された人いるし…。

(一人目が流された様子)

 

都 成: えええー!!

 
 こういう感じで、隣の千恵子さんが無事入会したのでした。

 

 千葉ちゃんはこれから、どのようにオーナー役の踊りを入れるか考えなくてはなりませんが、それまでは、ブラックプールに行かれない人たちと一緒に、女性のパートをしっかり覚えてもらうことになります。しかし、初日で都成さんの覚えが早いことが分かると、連れてきた恵美ちゃんも満足げでした。

 

「北国ダンサー物語」(作:神元 誠)