#030 ブレない”王者”の理由 Michael & Joanna Leunis

投稿者: | 2020年5月5日

2014年ダンスファン2月号に掲載されたマイケル&ジョアンナさんのインタビュー記事を記録します。ダンスに向き合う世界チャンピオンの考え方は、多くの競技選手の参考になることでしょう。

 


 

ブレない”王者”の理由
Michael & Joanna Leunis
挑戦者として臨んだインターナショナル2013

 

2012年のインターナショナル選手権でリカルド&ユリア組に王座を奪われたマイケル&ジョアンナ。リカルドたちの勝利を讃えるその顔に、わずかなこわばりを感じたのは気のせいでしょうか。新チャンピオンが優勝インタビューで、「マイケルたちがいたからこそ、ここまで来られた」と語ってから1年。挑戦者とし見事王座奪還したマイケル&ジョアンナに、一度タイトルを失った時の思いなどを含め、お話を伺いしました。これはダンスファンとDSIが共同で行なったダンスファン読者のための独占インタビューです。

(Interview: Marcin Stobrawa   Photos: Jacek Zielinski / The Polaks Questions & Translation: Makoto & Hisako Kammoto Coop/DSI)

 

 

― インターナショナル・チャンピオンの座奪還おめでとうございます。昨年優勝をリカルド&ユリア組にさらわれたときの思いも含めてお話をお聞かせください。

ジョアンナ 去年負けた時は当然辛かったわ。なにより「負ける」こと自体が嫌じゃないですか。でも、それによってとても大きなことを学んだと実感したし、あの後のUK選手権へ向け、とてもモチベーションが上がりました。私たちは競技選手ですから、当然、今回はインターのタイトルを取り返さなきゃと思うわけですが、でも一番大切にしているのは、自分たちにダンスに集中することです。私たちは常に進歩し続けていると感じていますし、また、そうあるために、ひとつひとつの試合に向けて明確な目標を立てています。でも、今年のインターは少し違った感じになりました。なにしろ、チャンピオンではなくチャレンジャーでしたから。そうした状況やストレスをうまく乗り越えられたのが良かったと思っています。タイトルはそのおまけ。ケーキの上の甘いところみたいなものなの。

マイケル 僕は結果にはそれほどこだわっていないんだ。今年のインターでチャレンジャーだったことも楽しかったし、新しいエネルギーも感じられたしね。結果、きっちりカムバックできてとても良かったと思っている。それに、何事もなかったという風に見せられたしね。自分たちのダンスは、自分たちの情熱はどうだったか、そういうことが総てであって、その結果が優勝でも準優勝でもたいしたことじゃない。いかなるときも自分たちを信じているからね。長年踊っている自分たちのスタイルのことも、芸術性を伝えられているかどうかということに関してもね。だから競技会の結果に左右される必要もないし、誰かに方向性を奪われることもない。自分たちが進むべき道が決まっているから、1位でも2位でも関係ないんだ。いつでもこのことを一番大切にし、結果を気にして踊っているんじゃないんだよ。DSI-TVで流れているインターの模様を見ると、きっと私たちが話していることが見えると思うよ。ご覧になって是非チェックしてみてください。

 

― お二人独自のスタイルを築き上げてきた背景に大変興味があります。練習や勉強に関するお話しをお聞かせください。

マイケル 定期的にジャズやコンテンポラリー、バレエなどジャンルの違うダンスに通っているけど、本当にたくさんの、そして様々なインスピレーションを受けているし、その中から素晴らしい振り付けのアイディアが湧いてきたりもするんだ。また、ダンスのルーツを探るなどラテン・アメリカンを更に深く勉強しているので、そうしたトータル的なものが今のスタイルに繋がっていると思う。コーチャーに関しては、実質的にはルート・バーメイ氏 (Prof. Dr. Ruud Vermeij)一人だけ。僕たちは色んな人の所へ行ったり、あれこれ目移りしたりするタイプじゃないからね。また、自分たちの武器は自分たちらしくあることと信じているので、彼には振り付けでも何でも相談し、私たちにベストなのは何かを話し合いで決めているよ。こうした彼とのチームワークの中に僕たちの最大の強みがあると思うけど、これ以上詳しいことは企業秘密と言うことで。(笑)

ジョアンナ 2年前キューバに行きました。この2月にも再訪しますが、踊りのルーツを探ることで新しい感覚とか競技会スタイルに取り入れられる雰囲気とか、非常に素晴らしいインスピレーションを受けています。そういう意味でもキューバは意義深い所です。私たちは本もよく読みます。例えば、ルートの本※1やマキシミリアンの本※2など、自分たちの踊りに関係する本は沢山読んでいます。新しい物ばかりではなく古い本も素晴らしいのです。そうそう、もう一冊素晴らしかった本にマッシモの本※3があります。私たちの周りに、こうした読者を元気づけ、モチベーションを上げさせる本があるなんて、私たちは幸せですね。

    • ※1 Thinking Sensing & Doing / Ruud Vermeij
    • ※2 Dance To Your Maximum / Maximiliaan Winkelhuis
    • ※3 Dancing Beyond The Physicality / Massimo Giorgianni(白夜書房から「ダンサーのためのメンタル・トレーニング」のタイトルで出版されています)

マイケル 僕は現代芸術にも興味があって、本でも音楽でも映画でも、現在の新しい物すべてから刺激を受けている。使い古されたものからじゃなく、今、身の周りで起きている新しいことからインスピレーションを受け、自分たちの踊りを「今」のものにしている。そして逆に、他ジャンルのダンサーたちや俳優さんのような人たちに、僕たちの踊りから何か学んでもらえるようなものを創り出したいんだ。現実からかけ離れたものではなく、繋がりあうものなら、例えば舞台や音楽、ミュージカルでもなんでもかんでも。

ジョアンナ ファッションの意味合いでも考えているのよ。というのも、このダンスの世界ってちょっと閉鎖的かも知れないじゃない。ファッショに関しても、すごくオープンというわけでもないので、私たちとしては、今の外界のデザイナーさんたちは何をしているかと、よく気をつけているの。コピーするとかじゃなくて、新しいアイディアを見つけるためにね。

 

― 自由時間では何をしていますか?

M& そんなもの、ないですよ。(大笑)

 

 

― 練習やレッスンで特に注意をしていることは?

ジョアンナ 動きに関して言えば、ある難易度の高い振り付けから次の芸術性の高い動きに移る間の、とにかく正しいバランスを探すこととコンビネーションを正確にすることかしら。習うことに関しては、複数の先生に習いに行っても、自分たちが明確な考えを持つようにしていること。だから、何をしたいか分からずにレッスンを受けに行くことはありません。先生が変われば、技術も教え方も変わりますからね。

マイケル どう練習するか、その練習方法をきちんと考える事も大切。僕たちに習いに来て、練習方法を教えてくれという人さえいますが、それじゃダメなんだ。僕たちはその日の練習で何をするか目的を明確にすることを大切にしているけど、これが非常に重要なんだ。時には振り付けに集中する必要もあります。ちょうどバレエのレッスンのように、体が覚え込むには繰り返すことが大切ですからね。その中には、絶対やらなければならないテクニックや、ありとあらゆることが含まれるわけですから。だから振り付けに集中することもあるし、ある時は特定の筋肉のことを考える。例えば脚部の筋肉という風に。そうしたときは、決めたことに集中して練習するんだ。そうすると、脳みそも鍛えられし考えるプロセスも鍛えられるので、本番ではそうしたことを考えなくても、きちんと表現できるようになっているんだ。

 

― メイン・コーチャーの魅力や、踊りに与える影響などについてお聞かせいただけませんか?

マイケル 確かにコーチャーにはルートがいるけれど、究極の所では、自分たちにとりベストの先生は自分たち自身なんだ。だからコーチャーや先生たちに依存しきらない。勿論、教えてもらうことや情報にはいつも感謝している。正直、僕たちは先生たちの話を良く聞く、誠実で非常にいい生徒だと思っているけれど、ダンスに関する最終決断は自分たちにかかっている。先生たちに頼り切っているダンサーがたくさんいるけれど、僕たちはレッスンを最大限に生かしつつも、最終決断は自分たちがすべきと信じている。さっきも話したけど、僕たちの一番の先生は僕たち自身なんだ。

 

― お二人にとりダンスの楽しさ、難しさ、奥深さ、そしてラテン・ダンスの本質とは?

ジョアンナ 楽しさは何と言っても二人で踊る所。それが私たちを魅了するのよ。つまり、一人ひとりのクオリティを表現でき、二人で情熱をシェアしつつも、そうしたものを他の人たちにも見てもらえる所にあります。難しい所といえば、様々なテクニックが求められることにあります。例えば足を正確に置く所や膝を伸ばす所などはバレエに近いものがある一方、ボディの使い方はジャズっぽいので、その二つの技術を同時に使いこなすのはとても難しいことです。5種目それぞれ違う雰囲気で踊るところも魅力ですね。一種類だけじゃないところは私の性に合っています。サンバ、ルンバ、チャチャ、パソ、ジャイブ ― 飽きが来ないです。

マイケル 先日、DSI-TVで2013年のインターで自分たちが踊った5種目を自分たちで講評するという面白い経験をさせてもらったんだ。大きな大会の後では欠かさず自分たちの踊りの見直しをしているけど、自分たちだけでやっていたことを、今度は視聴者に対しオープンにするのだから、面白いと思うよ。準備期間中のことや試合中の気持ち、各種目へのアプローチの仕方なども話しているしね。5種目それぞれに違う踊りだから、フロアに出て行く前に気持ちの整理・調整が必要なんだ。僕たちも早く見たいけど、企業秘密を喋り過ぎていないか心配だよ。(笑)

 

― 日本人ダンサーに欠けているものは? 何かアドバイスを。

マイケル 僕たちも沢山の日本人と仕事をしているけど、きちんと練習することが足りないと思う。

ジョアンナ でも、彼らも大変なのよ。だって、生活のために仕事をしなくちゃならないでしょ? 殆どの人は教室に雇われていて生徒さんを教えなくてはいけないから、日中練習する時間なんてない。やっと仕事を終え、さて練習という時間には疲れ切っているわ。そう考えると、日本におけるシステムがダンサーをサポートする形になっていないのかも知れないわね。

マイケル 日本人にも新しい世代のダンサーが出てきて、ブラックプールのU14でチャンピオンが生まれましたね。僕たちも二人を教えているけど、才能が半端じゃない。しかもあの年齢で、既にプロと同じように練習しているんだ。つまり、教育の違いだね。日本人ダンサーには才能があるけれど、その先どうなるかはどれだけ専念するか、どれだけ練習するかだね。その両方を実行した人には、間違いなく結果がついてくると思う。

 

― くだけた質問になりますが、マイケルは優勝インタビューで毎回冗談を飛ばしていますが、事前に考えているのですか? 普段の姿、そして練習中の姿は?

ジョアンナ 彼は練習中、ジョークなんてまったく言わないし、むしろ、狂ったように真剣そのもの。だから、彼のユーモアは生まれつきよ。ストリートボーイだったし、ああしたことがポンポン出てくるの。ジョークと共に目覚め、寝るときはどれが一番面白かったかなんて考えてるの。

 

― もう一つ、趣味で踊っている人たちへアドバイスをいただけませんか?

ジョアンナ 自分のダンス歴に応じた明確なプランを立て、自分の踊りのどこを改善したいかをしっかり考える事をお勧めするわ。例えば、振り付けを変えたいことかも知れないし、特定のテクニックをマスターしようとすることかも知れないし。何にしろ、プランを立てることが大切で、ただ踊りに行くようなことはお勧めしないわ。

マイケル 僕のアドバイスは練習を楽しむこと。例えば、疲れ切ったことさえ楽しんでしまう。踊りが心に安らぎをもたらすこともあるから、人は踊りに魅了され、踊って喜びを感じるのさ。体を動かすと深刻な問題すら忘れてしまう。僕が言う「楽しむ」とは、けっして「ハッハッハー」みたいなものじゃないよ。例えばパソは非常に攻撃的な踊りで、俗に言う愉快とか楽しいとかの真逆にあるけど、僕はパソを踊っていてハッピーな気分になるからね。つまり、外に見える楽しさじゃなく、自分の中に見出すハッピー、楽しさなんだ。

ジョアンナ そうした楽しみを他の人から与えてもらう魔法はないの。あなたを楽しく幸せにしてくれるのは、あなた自身にしかできないことよ。

 

― 現在取り掛かっていること、そして近い将来の計画は?

マイケル 今は、次のUK選手権に向けて集中している。それが結果としてフロアに現れるからね。何か新しいことを皆さんに見て頂きたいと思って、それを箱の中から探し出している所。インターナショナルのときより更に良くしたいとも思っていて、こうして過ごしている時間が実に楽しくて興奮してしまう。だから、「勝たなきゃ。結果最優先」に考えている訳じゃなく、今、集中していることを通して、いかに自分たちが向上するか、いかに自分たち自身にチャレンジできるか、いかにマイケル&ジョアンナを次のレベルに引き上げられるかだから、次の試合がとても楽しみなんだ。今度もDSI-TVがライブ放送するよね。つまり3大大会すべてをライブしてくれるのだから、めちゃくちゃ嬉しい。素晴らしい競技会の模様を世界中で観られるんだからね。日本の皆さんは勝敗だけではなく競技会全体を楽しんでいるから、ラテンが大好きな人は、この機会を見逃さないでね!

ジョアンナ マイケルが話した集中についてですが、次への準備とプランというのが一番重要、かつ、一番難しいのです。まず、充分に集中する時間があるかが問題になります。私たちは少なくとも2か月半かけて準備するようにしています。ディテールを深く追求し改善するための練習が体に浸み込み、表に現れるようになるにはその位必要だからです。既存の所から抜け出し、新しいアイディアや何かを出すにも、その位必要ですね。DSI-TVのライブは、実は私の父も楽しみにしているの。試合に行かれないけど自宅で見られると、興奮して喜んでいるわ。

(おわり)


 

関連動画

インタビュー中にキューバ訪問の話が出てきますが、偶然、マイケル&ジョアンナのキューバでの動画を見つけたので貼ります。

 

ハッピー・ダンシング!