MT23 第4章 心のあり方 /③内なる描写(前半)

投稿者: | 2020年3月3日

「ダンサーのためのメンタル・トレーニング」(マッシモ・ジョルジアンニ著/神元誠・久子翻訳/白夜書房 原書名:DANCING BEYOND THE PHYSICALITY)を紹介します。

■目次

 

MT23 第4章 心のあり方 /③内なる描写(前半)
Inner Representations

 

今、私が踊っていると仮定しましょう。そして踊っている間中、失敗するところを頭に描いているとしたらどうでしょう? 観衆やコーチャーは自分の悪いところや間違いにきっと気づくに違いないと必要以上に心配したり、自分でも嫌いなところ、悪いところばかりが踊りに出てしまっているところをイメージして踊っているとしたら、どのような結果を望めば良いのでしょう? 当然ですが、良い結果は得られません。習慣的にイメージしていることより良い結果は望めないのです。ですから、私たちが最初にすべきことは、そうした心の中に描くイメージを変えることなのです。描くイメージを、自分が自分自身に見せたい姿に変えることなのです。

 

自分自身に注意を向けるときは、成功とか絶え間なく成長する理想的な自己イメージが心の中で構築されなくてはなりません。つまり、自分自身が向上するには、自分自身を見つめて、どんなふうに見える自分が好きかというところからスタートすることです。どんな自分になりたいか、それを心の中にイメージする訓練をします。見たくない自分、なりたくない自分をイメージしてはいけません。こうなりたいという自分をイメージし、心はそれを実現するように働いてくれると信じて行なうのです。

 

 

ここで私が本で読んだちょっとしたお話をしましょう。ある場面に遭遇したとき、自分が抱く想像(イメージ)の仕方次第で全く違ったものが表に現われる、ということが理解してもらえることでしょう。

 

あなたの奥さん(あるいは夫)の帰宅が、いつもより3 時間も遅かったとします。彼女が帰ってきたときに取るあなたの態度には、あなたの心の状態が映し出されますから、帰宅が遅れた彼女をどのように心に描くかによって、それに相応した態度が現われます。

あなたはこう考えます ― もしかすると、彼女はひどい事故に遭遇したかもしれないと。一瞬そう思いますが、次の瞬間、それならば、病院から電話があって良かったはずだと思うわけです。そして、事故でなくて良かったと思い、彼女を優しく抱きしめると、あなたの心配は消え去ります。しかし、あなたはこうも考えるかもしれません ― もしかして奥さんが車の中かホテルで浮気をしていたに違いないと。そう想像すると、あなたの心の中はどうなるでしょう? そして、彼女が家に入ってきたときにあなたが取る態度は? 危ない、危ない!

 

ここで明確になることは、ある状況をイメージするにも、自分が何をイメージしたいと思うか、その気持ちの持ち方が大きく影響しているということです。

 

例えばダンスにおいて、パートナーのことを、あるいは自分自身に対して、向上心がないとか、理解力がないとか、モチベーションが足りないとか、そうしたことを常々心に描いているとしたらどうなるでしょう。そうした思いから生まれる心の状態や、表に現われる態度がどうなるかは容易に想像がつきます。良い結果を残せなかったときの私の競技会を

 

思い出すと、心に描いた自分の姿そのままが現実となっていました。つまり、想像していたことが現実となったのです。しかし、有難いことに、このことは反対の方向にも作用します。つまり、肯定的な姿をイメージすると、結果も肯定的なものになるのです。

 

 何を心に描くか、それが違いをもたらします! 

 

例えば、素晴らしい回転やルンバ・ウォークをイメージしたとしましょう。この場合、練習の成果をきちんと出し、覚えた様々なムーブメントを混ぜて踊るところをイメージすることも、反対に、失敗の不安からムーブメントを忘れるという否定的なイメージをすることもできますが、こうした異なるイメージはどのような結果をもたらすと思いますか? 

 

同じ結果にならないことは疑いようもありません。しかも、観ている側にとっても、あなたの踊りが違って見えることでしょう。有難いことに、心に描く映像は自分の都合の良いように作り描いて構わないということです。脳の中には、感覚経路から入ってきた外部刺激を集積するメカニズムがあるので、それを最大限に利用するというわけです。事実、私たち人間の脳には五感、即ち、味覚、視覚、嗅覚、聴覚、そして触覚を通して感じたことを変える能力が備わっています。

 

私たちの行動の大部分はVAKと呼ばれる三つの代表システムによって決定されています。VAKとは視覚(Visual)、聴覚(Auditory)、そして、触覚、味覚、臭覚をひとつにまとめた身体感覚(Kinesthetic)の頭文字を取ったものです。この三つの代表システムが五感を統括するチャンネルを作り、外部刺激を管理しています。刺激が外部から入ってくると、一般化、歪曲、抹消などのフィルターにかけられた後、代理システム特有の言語、即ち、イメージ(V)、音声(A)、感覚(K)となって脳に提供されます。

 

内なる描写は、イメージや音声、それに外的経験に直面したときに脳が呼び起こす感覚が統合されて、内なる結果として起こるものです。ここで帰宅が遅かった奥さんの話に戻りますが、あのとき、二通りのことを想像し、そして二通りの心の状態が起こりました。ひとつの同じ状況が二つの異なるイメージを作り出し、心の中の会話も、夫婦の会話も、感じ方も違ったものになったわけですが、そのことから今後ある状況になったとき、あるいはある体験をしたとき、あなたが抱くイメージはあなた次第で変わるということが理解できたと思います。

 

ですから、あなたはいつでも自分の心のあり方を、自分の将来にとって好ましい方向に、役に立つ方向に築き上げていくことができるのです。

 


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