KD08 北国ダンサー物語 2章1話 千葉家に再び集合

投稿者: | 2023年10月27日

うまくテスト期間をクリアした元3年F組の連中。この第2章では、いよいよ「黒池ダンスサークル」の本格的な活動に入って行きます。しかし、なんといっても、この自信過剰でおちゃらけた連中のことですから、これからも、これまで以上におかしな話が出てくる予感がします。(作者より)

2章1話 千葉家に再び集合

千 葉: 随分来たな。

さとし: 昨日のメンバー全員来ちゃった。チャミちゃん先生、飲み物は河合が買って、もうすぐ来るから心配いらないからね。

寿 美: あら、ありがとう。助かるわー。

さとし: ほら、みんな入れ入れ。狭いけど我慢してくれ。

千 葉: おいおい。ま、その通りだ。

 

皆が、狭い部屋に詰まると;ー

千 葉:さっそくだけど、CDとDVD。新しいのはないけど、適当に選んで持って行って。本も少しあるよ。

 千葉がそう言って段ボールを開くと、みんなは目を輝かせて物色し始めた。

 

 

■見知らぬ男が

 少しすると、インターフォンが鳴った。寿美が元気よく「はーい! どーぞー、入ってー!」と応えたのだが、入ってきた人物に全員固まった。

 それは、それは待っていた河合ではなく見知らぬ男がそーっと入ってきたのだ。その男も怯えた顔でこちらを見つめながら、小さな声を絞り出したた。 

 

郵便配達: あのー… (怯えている)

寿 美: あらー、てっきりお友達かと思って、ごめんなさい!

 

爆笑が起きた。

 

郵便配達: 変、変だと思ったのですが、あんまりにも勢いよく言われたので…。(まだ、若干怯えている)

千 葉: 済みませんね。うちのやつ、時々、こうしたチョンボするんですよ。ビックリしたしょ?

郵便配達: ど、どうなるか、おっかなかったです。

 

  部屋中に大笑いが起こる中、再び玄関の音がして河合が入ってきた。

 

河 合: 文次、お前、何やってんだ?

郵便配達: いや、あの、その。

さとし: 知ってんの?

河 合: 遠戚よ。お前、ここで何してんのさ。

郵便配達: だって、ピンポンしたら、奥さんが勢いよく「入て!」って言うもんだから、催眠術にかかったみたいになってさ。俺も、おっかしいと思ったけど、書留届けなきゃって思ってさ。

 

再び起きた大爆笑が収まるのに、しばらく時間が掛かった。

 

河 合: こいつ、おれの縁戚の樋口って言うんです。ほら、お前も挨拶しろ。

文 次: 樋山文次です。こんな経験初めてです。今後もないと思います。

 

(爆笑)

 

【人物紹介】樋山文次:河合義昭の縁戚。1977年生まれなので元3年F組の連中より27歳も若い。今は奥さんの悠理さんと二人暮らし。

 

文 次: これは何の集まりっすか?

河 合: 俺たちよ、社交ダンスを始めてさ、その集まりよ。

文 次: 社交ダンスかぁ。憧れるなぁ。僕も参加させてくれないですかね。

寿 美: ぜひどうぞ。でも、練習時間が火・土の昼間なの。お仕事中じゃない?

文 次: ですよね…。すんません、変なこと言い出して。

美 和: いっそ、練習時間を夜にしちゃえば?

恵 美: 賛成。その方が一日を有効に使えるしね。

ヤ ス: そうするべか。人が増えればもっと面白いしな。

寿 美: じゃあ、火・土の夜7時~9時にしましょう。わたしのおっちょこちょいから男性一人ゲット。大したもんね!

文 次: 嫁さんも連れてきます!

寿 美: 二人ゲット! しかもすごい若者よ。平均年齢がグンと下がるわ!

さとし: チャミちゃん先生、それにしても、もう少し用心したほうがいいですよ。合言葉とか決めますか?

 

 

■合言葉


寿 美
: 合言葉?

さとし: ピンポン鳴ったら、「合言葉を言え。ツル…」

 

 と話し始めると、ミッチがすかさず口を挟んだ。

 

ミッチ: そして「カメ」? ばかか。そんなもん、その辺のカラスだって答えるべや。

さとし: じゃなくって、「ツルはせんべい」って言うんだ。

ミッチ: ばかか、「ツルは千年」だべ。

さとし: そしたら、「カメは万年」だべや? それだって、その辺の猫にもバレバレだ。聞けって。そうじゃなくて「ツルは煎餅」って言うのさ。

ミッチ: なんだそれ? で、答えは?

さとし: かめませんねん。

 

  大爆笑が起きた。

 

 

■フォーメーションを提案

千 葉: 決まりだ! 次から使う。あーあ、笑い過ぎて忘れるところだったけど、これからステップも増やしていくけどさ、フォーメーションの練習もしたらどうかなって、家で話し合っていたんだ。

さとし: それ、なに?

寿 美: 例えば6組とか8組が隊形の変化やパートナ―・チェンジしながら踊るの 。

さとし: よくわかんないけど、俺たちなら何でもこなせるから、やってやってもいいぞ!

千 葉: たかだか8回で、たいした自信だな。

寿 美: やる前からだったわよ。

さとし: まあまあ。それとさ、ネットで観たんだけど、女に何かかっこつけさすやつ、あるっしょ。

寿 美: ライン・フィガーね。こんなのでしょ?

 

 と、二人で幾つか見せる。

画像
こんな感じで。

 


さとし
: それ。な、女たちだって、やりたいべ。

佳 純: やりたーい!!

恵 美: 綺麗な私たちが、もっと綺麗に見えちゃうわね!

千 葉: それのコメントは控えるけど、一つ二つはやろう。じゃあ、毎回時間を割いて、フォーメーションの練習も、ということで。

 こうして、一つのフォーメーションも仕上げることになった。サークル活動で踊れるようになるのも、「みんなで何かをすること」には違いないが、それだけでは、「みんなで何かを作り上げる」ものにはならない。だから、フォーメーションをして、みんなで一つになろう、というのが考えだった。

 

寿 美: はクリスマス・シーズンね。旭川なら暮れに大きなクリスマス・パーティーがあるはずだから、フォーメーションができたなら、披露させてもらうというのは、どう?

河 合: みんなの前で踊るってことか? それ、すごくない?

寿 美: あなた、どこか当たってみて。

千 葉: オーケー。じゃあ、決まりってことで。フォーメーションの種目は僕らに一任させてくれ。面白くなってきたぞ!急いで振り付け考えるか!

文 次: せっかくですから、公民館とかにポスター貼って会員募集してはどうですか?

河 合: いいな。よし、お前に任せた。詳細は後から知らせるから、作って、配達中にでも貼っておけ。そろそろ仕事に戻れ。

文 次: おおーっ、忘れてた!

 こうして黒池町のダンス活動が本格モードに入りかけたのは、どことなく初夏の陽射しが感じ始められた頃でした。でも、その前に旭川に行かなくてはね。

 

「北国ダンサー物語」(作:神元 誠)

 

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