MT26 第5章 言葉の力(後半)

投稿者: | 2020年3月5日

「ダンサーのためのメンタル・トレーニング」(マッシモ・ジョルジアンニ著/神元誠・久子翻訳/白夜書房 原書名:DANCING BEYOND THE PHYSICALITY)を紹介します。

 

■目次

MT26 第5章 言葉の力(後半)
The Power of Words

 

私たちは誰しも、自分の言葉が精神に影響を与えることを経験しています。そうした言葉は、私たちの中に深く沈み、私たちの行動も、意見も、感じ方も全く違うものにしてしまい、時に、心の底に根付いていた確信までも変えてしまいます。両親から受ける言葉、友人や先生から受ける言葉により、自分自身が持つ自分のイメージや価値を変えられてしまい、遂には、行動や信念まで変わってしまうことさえあります。

 

マーチン・ルーサー・キング牧師は「私には夢がある」と語りました。彼のこの言葉に、何百万もの人たちが心を動かされました。たった数語を使っただけで、彼は一国の夢を作ったのです。チャーチルは第二次大戦中、ナチスと戦う国民に向け、「血と汗と涙」と語りました。この3語で国民に再び勇気を目覚めさせたのです。

 

こうした言葉が、いかに国民感情をひとつにまとめたか、そしていかに国民に集団行動を取らせる強い心を与えたかを考えてみてください。感情は、とてつもなく大きな困難を乗り越える強い力を持っているのです。

 

こうした例から分かるように、慎重に選んだ言葉を用いて表現すると、それにより、自分自身に変革が起こり、パートナーにも自分たちの経歴にも違いをもたらします。

 

言葉とは、人間が使用する最も強力な薬である。

(R. キップリング*)

■ ラドヤード・キップリング(Rudyard Kipling 1865 – 1936):イギリスの小説家、詩人で、イギリス統治下のインドを舞台にした作品や児童文学で知られる。代表作に小説『ジャングル・ブック』、『少年キム』など。1907 年にノーベル文学賞を受賞。

 

すでに述べたように、言葉は、自分の心の状態や考え、あるいは、経験と通じ合っていますので、頻繁に使用する言葉はなんであれ、現実のものとなるのです。その基本的なメカニズムをお話ししましょう。

 

人間の脳は五感を通して刺激と感動を受け取ります。五感を通して受け取った刺激や感動は一連のフィルターにかけられた後、イメージ、感情、身体的感覚、あるいは心の中の会話といったものからなる心的描写(心の中で見えるもの)に変換されます。こうした心的描写が言葉を構成します。つまり、刺激の源である外部のできごとが直接的影響を及ぼして、顕在意識下である種の心的状態を引き起こしたときに用いられる言葉は、先の心的描写から成り立っています。よって、喜び、恐怖、興奮、パニックなどは、置かれた状況の中で自分が自分自身に語りかける言葉から出てくるものなのです。

 

そうはいっても、その状況下で受け止めたことを、別の形で表現することもできるのです。競技会で思ったような結果を残せないカップルを例に見てみましょう。もっと率直に言うと、これは悪い結果しか残せないカップルの例です。

 

・あるカップルはこう叫ぶかもしれません ― 「絶対無理だ」。

・別のカップルはこう言うかもしれません ― 「難しい…」。

・ でも、もう一組のカップルはこう自問するかもしれません ― 「どうすれば、次はもっと良くなれるのだろう」と。

 

私の個人的な経験からすると、思ったような結果が得られなかったとき、その90%の場合は自分の欠点を見つけていたときでした。「もっと、自分にできることはないか?」と考えるべきだったのです。実際、今の私は、ダンサーはもっとそうした取り組み方に重きを置くべきだと確信しています。もし、ダンサーが自分の体とパフォーマンスから良い結果を得ようとするなら、また、ダンサーがより完成された踊りを目指すのであるなら、常にそうした自問をすべきなのです。

 

ここに覚えておきたい基本ルールがあります。それは、どのような場面にも適する言葉を選べば、その言葉は神経系統に影響を与え、その結果、どのような場面にも対応できるようになるということです。

 

言葉が心の状態を支配するなら、私たちはできる限り否定的な感情を減らし、肯定的な感情を増大するように、使う言葉をもっと感情のこもったものに変えれば良いのです。なにも私は、うまくいかないと分かり切っていることに対しても肯定的な表現をしなければいけない、と言っているのではありません。むしろ、コインに裏と表があるように、両面を見つめることが、より生産的だと言いたいのです。

もし、片面を見て改善しなければならないと感じたなら、その問題を乗り越えられなくなってしまう程大きくしない方が良いのです。ですから、次のような言葉は、上達する可能性を排除してしまうので使わないように気をつけましょう。

 

「私にはできない」

「絶対うまくいかない」

「自分には、それができる才能がない」

「自分はそれに値しない」

「不可能さ」

 

何事につけ、上達する上では大なり小なりの困難が付きまとうものです。しかし、それでも私が言いたいことは、積極的な態度を取り続けることが非常に重要だということです。私は、人生で不可能はないと信じたいです。ただ、心の底からそれを望まなくてはなりません。自分の経験から私は、目標達成にふさわしい言葉を選ぶと、目標に到達すべき可能性が開ける、と言うことができます。

 

さっそく、自分自身と対話をして自分を高揚させるようにしてみましょう。自分自身に、自分はどうなりたいかと伝えなさい。自分自身に、自分はどうなりたくないかを伝えなさい。しかも、声に出して。

 

― 私たちは言葉を介して、心と対話をしています。

― 常に、熱心に言葉にしていることは実現します。

― 力を奪うような言葉は、別の言葉に変えなさい。

 

 


(「MT26 第5章 言葉の力(後半) 」つづく)