「正しいホールドはない」と考えています。なぜなら、もし唯一の「正しい」ホールドがあるなら、それを覚えた入門者は世界チャンピオンと同じホールドをしていることになります。本当にそうなってるでしょうか?
#024 ホールドの話
正しいホールドはない
私の中に「正しいホールド」はありません。でも、「適切で綺麗なホールド」はあります。
ホールドで私が考えることは、
- ホールドは、その人の踊りのレベルと共に進化し続ける。
- ホールドがその人の踊りを引き上げることがある。
- ホールドはその人の踊りを邪魔することがある ―― などです。
あるとき、遠方の知人から質問のメールが寄せられました。
「サークルの先生から受けたワルツのホールドの説明がしっくり来ない。正しいホールドはどうすればよいのでしょう?」
拙署「魔法の言葉」の中に「ダメな踊りはない」と書きましたが、それと同じで、私の考えの中に「正しいホールド」はありません。「正しい」と表現すると、「唯一無二」で「それしかない」イメージを持ちますが、ホールドは変化するものです。レベルにより変化し、トップ・ダンサーのホールドでさえ、時代とともに変化していますから、「そこにはその人の動きに最適のホールドがある」と考えるのが適切な気がします。
この質問の返信に、次の話を加えました。
▽先日、仕事の関係であるスタジオを訪問すると、世界チャンピオンのミルコがレッスンをしている真っ最中でした。レッスンを受けているのは日本の有名なトップ・ダンサー。驚いたことに、ミルコがホールドの注意を何度か繰り返したことです。
▽男性左手のグリップ、右手の形と当て方。しかし、それを直すと、カップルの踊りがグーンと音を立てて良くなったのです。流石です! トップ・ダンサーであっても、ホールドを直されると、より美しく、動きに結びつくホールドに変わる。しかも、動きも激変!
それ程、ホールドは大切なのですね。
この日本人カップルのように、世界のトップ・ダンサーのレッスンを頻繁に受けられる人たちは幸いです。常に最高のレッスンを受けられるのですから。同じ環境にいない私たちはどうしたら良いのでしょう? 大丈夫です。工夫次第で同じような環境を得ることが出来ます。それはチャンピオン達のレッスン・ビデオの活用です。
レッスン・ビデオの中でホールドの説明に出合ったら、「知ってる」と済まさず、10回も20回もよーく観て、「このチャンピオンはプロも対象に語っている筈なのに、ホールドのような基本的な話をする理由は何故だろう?」と考えてみることです。そして、チャンピオンの形を研究すればマンツーマンに限りなく近い収穫が得られる筈です。
また、ビデオのカバー写真一枚も無駄にはできません。プロのカメラマンが撮り、厳選された何枚もの中から、ダンサー自信も納得したものが使われているのですから!
ホールドは案外踊りの邪魔をする
実は「ホールドは案外踊りの邪魔をする」ことがあります。それを実験で試してみましょう。
- いつものように踊り、踊りやすさ/踊りにくさを観察します。
- 次に、ホールドを小さめにして踊り、先ほどの踊りと比較します。
もし動きが改善されたなら、それは、それまでのホールドが動きを邪魔していた証拠。つまり、それは「動きに連動する適切なホールドでなかった」ことになります。
“The Irvine Legacy” (邦題「ビル&ボビー・アービンのダンス・テクニック」)の中で著者のオリバーは次のように書いています。
よく見られる興味深い現象は、プラクティス・ホールドで(ちょっと抱き合うように)踊っている時には、色んなステップがうまくできているにも拘らず、普通のホールドになるとうまくいかなくなるケースがあることです。
原文を紹介しましょう。
Quite an interesting phenomenon is often seen: when dancing in practice hold – more of an embrace – many steps work quite well, whilst they often fail to do so in a regular hold.
以上、ホールドを考えるときの材料になれば幸いです。
ハッピー・ダンシング!