2014年ダンスファン11月号に掲載されたセルゲイ&メリアのインタビュー記事を記録します。この記事はダンスファンとDSI社が共同でおこなったダンスファン読者のための独占インタビューです。
(インタビュー/文:神元誠・久子 写真撮影:神保敬治)
(以下はインタビューの書下ろし。記事に含まれない面白い話もあります)
これまでの軌跡をたどる
引退記念インタビュー
Sergey Sourkov and Agnieszka Melnicka
2014年ダンスファン11月号
2001年のアマチュア時代にパートナーを組み、2006年にプロ転向。常に世界のトップ・ダンサーとして活躍してきた二人は、今年のブラックプールで突然の引退表明をしました。パートナーを組んで13年、そして結婚して5年目を迎えたお二人に心境を伺いました。
(インタビュー/文:神元誠・久子 写真撮影:神保敬治)
■ 思い出の地、ブラックプールで ■
― 結婚して5年目ですが、ご感想は?
セルゲイ(以下S):今の所いい感じだよ。結婚して5年だけど、カップルを組んでからは長いからね。それも昨日のことのようだよ。
― 「なぜ、世界のトップで円熟した踊りをしているこの時期に引退か」と驚いているファンがたくさんいると思うのですが。いつ決心したのかも含めて教えていただけませんか?
メリア(以下M):それについてお話しできることは、私たちにとり一番適切な時だったということで、それ以外はとてもプライベートな事なので、誰にもお話ししていないのです。ごめんなさいね。
S:大して話すこともないんだ。競技生活を送っていると、誰にでも「もういいだろう」と靴を脱ぎ、新しい優先事項に取り組もうとする時期が来るものだからね。コンペは十分過ぎる程しましたからね。ということで、この先はダンス以外のことなら何でも聞いてください(大笑)。
― こちらの質問する計画が大幅に狂ってしまいました。どこからスタートしましょう(笑)。メリアはポーランド出身でセルゲイはロシア。普段の会話は何語ですか?
S:メリアのロシア語の方が僕のポーランド語よりずっとうまいので、ロシア語で会話しています。彼女は会話だけじゃなく、ロシア語の読み書きもできるんだ。
М:バレエや演劇と言ったロシアの文化がとても好きでしたので、学生時代にほんの少しロシア語を習いました。知り合った当初、私はロシア語ができなかったし、セルゲイは英語ができなくて意思疎通が本当に大変でした。辞書を引き引きって感じで(笑)。
S:でも、ダンスに関して言えば、言葉が通じないので、その分ボディで伝え合おうとして、ある意味、とても良かった部分もあります。
М:私たちはロシア代表として踊ってきましたので、仕事でロシアやウクライナに行っても、ロシア語ができて非常に良かったです。ロシア語でレッスンもできますし、一度はインタビューをロシア語で受けたこともありますよ。
― それは凄いですね。では、喧嘩は何語で?
М:ロシア語、ポーランド語、英語、混ぜ混ぜよ(笑)!
S:外国語だと、なにを言われても、ダメージが少なくて便利なんだよね。組んだばかりの頃はよく喧嘩した。だけど、お互いのことが段々わかり、言葉が通じ始めてくると喧嘩が減って、話し合いになっていった。二人で共通の目標に向かって進もうとするのだから、ぶつかり合って熱を帯びた話しになるのは当然だし、そうした中から共通の認識が生れるわけだしね。お互いが気を遣い過ぎて言いたいことも言わないようだと、成長もできないと思うよ。そういう「いい子ちゃんスタイル」は信じてないんだ。話し合い、意見を言い合うことで、何かを見つけることができるのだから。
― 全くその通りだと思います。で、最近で一番激しい話し合いをしたのは?
М:昨日よ(笑)! リハーサルで彼が私にタイミングが違うと言ってきたの。私はあなたが違うと言って言い合いに。ビデオを撮ってホテルで見たら、やっぱり私が正しかったのよ!(大笑)
S:そうなんだよ…(笑)。彼女はすごく記憶力が良くてね。それは僕にも生徒にも、どの人にとって不幸なことなんだ。3年前にしたレッスンのことまで覚えているんだから、勝ち目が薄いんだよね。自分が正しいとどこかで思っていても、言い合いになると、結局は負けちゃうのさ。
― 男性が感覚的なのに対し、女性は技術に対してより正確に踊る傾向がある気がしますが…。
М:そうは思わないわ。なぜなら、セルゲイと踊っているから言うのじゃないけど、彼はものすごく優れたダンサーで、踊りもものすごく正確なのよ。二人に関して言えば、感覚的なのは私の方ね。
― 私の負けです(笑)。
S:僕たちの育ったダンスの環境の違い、つまり、国とか文化の違いもあると思う。だから二人で踊り始めた時は本当に大変だった。あまりにも違い過ぎていたからね。お互いに育った環境もそうだけど、ダンスに対する考え方も違ったし。でもそれは悪いことじゃない。二人の考え方を融合させて、こうしてダンスの旅を続けて来られたのだから。メリアが言うように彼女の方が感覚的であり、感情のこもった踊りをする。僕の方は振り付け全般に責任を持つ形だね。
― 最後の競技会をブラックプールに選んだ理由は?
S:子供の時に始めて優勝した思い出の場所だし、広いフロアも会場の堂々とした雰囲気も大好きだし。しかもファイナルになると観衆が全員立ち上がって応援してくれるし、ビル・アービンの司会の場面は今も目に焼き付いているし ― ブラックプールはそうした思い出もあり、最高に魅力的な場所なので、引退はブラックプールでと決めていた。でも、ごく少数のプログラムの関係者にしか知らせていなかったんだ。メリアの特別な場所はUK選手権だけどね。
М:どの選手権も好きよ。でもUKの思い出がすごく強いの。ダンスを始め、イギリスに行くお金もなかった頃、私の先生が見せてくれたビデオがUK選手権だったの。それを見て、コールされて、あのステージ上から出てくるのが私の夢になったの。
― 試合中はどんなことを考えていましたか?
S:いろんな感情が湧いてこなかったと言うと嘘になるけど、試合に集中するようにしていました。
― そしてファイナルのジャイブが終わると、マーカスから紹介がありました。
М:引退のアナウンスの後でルンバを踊らせてもらったけど、本当に特別の感じがしたわ。偉大なダンサーたちが行なってきたことを私たちもさせてもらったのですから。あの場にいた観衆の皆さん、長年私たちをサポートしてきて下さった人たち、そして、司会のマーカスにも、こんなに素晴らしい思い出を作って下さって、本当に感謝しているわ。
― (ブラックプールで引退されたとき)マーカスが読み上げたお二人のメッセージ(以下)が素敵でした。
~ ブラックプールで読み上げられた二人のメッセージ ~
この特別な旅が終わろうとしているこの瞬間、その気持ちを伝える言葉が見つかりません。
二人の人生はダンスという空気を呼吸をしているようなものでした。
私たちはとてもとてもラッキーでした。なぜなら途方もなく優れた先生たちにめぐり逢い、親切な友人に囲まれ、素晴らしい観衆の人たちがいたのですから。そうした皆さんに、心からお礼申し上げます。
二人には涙があり笑いがありました。悲しみがあり、喜びもありました。そして、輝かしい瞬間の経験も。そうした総てが経験として刻み込まれています。
作家のガブリエル・ガルシア・マルケスはこう書いています ― 人生で何が起こったかは問題ではない。あなたが何を記憶するか、どのように記憶するかが問題なのだ、と。
私たちは今、この輝かしいフロアを去りますが、後悔はありません。ここで繰り広げられた数々の思い出を忘れることはないでしょう。そしてそれが、とてもとても有難く思います。ありがとうございます。
セルゲイ&メリア
― ガブリエルは一月前の4月17日に他界されていますが、それを偲ぶ意味合いで彼の言葉を引用されたのですか?
М:そうではなく、彼の作品、そして、彼のこの言葉が純粋に好きだったからよ。
S:私たちの、一つの旅の終わりにふさわしい言葉だと思います。全部、彼女が書いたんだよ。完璧だよ。
М:完璧じゃないけれど、頑張って書いたわ。
― そして引退された今のお気持ちは?
S:それも良く聞かれるけど、前と同じ。まだ時間が経っていないし、レクチャーもショーもいろいろ予定がはいっていて、やることは以前と同じだからね。あと半年もすれば、気持ちの変化が現れるかも知れないね。
М:競技会に出なくなったけれど、ショーのための練習は続けているし、今のレベルを維持するためにも、貪欲にレッスンも受け続けているのよ。だから結構暇がないの。この夏のホリデーは到底無理。秋になったら、もしかすると休めるかもしれないわね。だから、引退した感情は、来年のUKや全英選手権を観客として訪れた時に湧いてくるかも知れないわね。
S:引退は赤ちゃんができたからと勘ぐっている人もいるけど、そんな暇がないのが分かって貰えたと思うよ。家族を持つにはそれなりの準備が必要だしね。だから、直前の目標はワールド・スーパースターズのことになるわね。
― お二人の踊りを見ていて、いつも衣装が奇抜と感じていますが。
М: ファッションに興味があるので、衣装は全部私のデザインよ。その私のアイディアや気持ちを完璧にくみ取って仕上げてくれるのがDSIで、デザイナーのビッキー・には素晴らしい創造力があります。彼女のチームは本当に凄い。更に有難いことに、スーツでもジャケットでも、何一つ反対しないでやり遂げてくれて、DSIのスポンサーには心から感謝しています。
S:彼女のアイディアは結構奇抜だから、作る側はけっこう根性もいると思うよ(笑)。しかも頻繁に新しいのを作りたがるしね(大笑)。
― あの大人気番組「ストリクトリー・カム・ダンシング」で衣装を任されているのも、そうした技術力があるからでしょうね。
S:その通りだね。メリアの使った衣装が半年後の番組で使われたりもしているんだ。実は僕の衣装もデザインしているんだよ。
― 男性のも?!
S:パンツは違うけどね(笑)。彼女のデザインしたドレスだけじゃなく、僕のシャツも結構コピーされている位なんだ。僕はその才能を認めているから一切口を挟まない。例え色が気に入らないときでも、彼女のイメージを理解するようにしているんだ。もし、自分で決めていたら、いつもいつも黒になってしまうだろうしね。
― 記憶に残る試合を挙げるとしたら?
М:今年のUK。去年ブラックプールの後、ちょっとやりたいことがあって踊りを中断していたの。そうした総てが一つの踊りとなって出た感じがしたわ。音楽は最高だし、私たちがフロアに戻ったことに対する観衆のリアクションにも驚かされたわ。それに、アマチュアで初めてファイナルに残ったのも、ターンプロしてすぐにファイナルに入ったのもUKという特別な思いでもあるから、今年のUKでは、素晴らしい時間を過ごせて本当に幸せだったわ。
S:誰にとっても最初にファイナル入りした試合は印象的だろうね。ひとつの大きな山を乗り越えるようなものだから。
自分たちにとって初めてのワールド・スーパースターズもそう。ブラックプールでファイナル入りしていない時に招待を受けたのだからね。
М:あの時はとても緊張したわ。あのドアが開くときは毎回緊張しますけどね。雰囲気はいいし、音楽も良くて、とてもプロフェッショナルな仕事をしているし、出演者は世界最高の人たちですからね。ダッチ・オープンも凄いのよ。みんなマラカスを鳴らしたりして盛り上がるから。
S:そう考えて行くと、一つに絞るのは難しいね。どの試合にもそこだけの特別な思い出があるからね。武道館の思い出もありますよ。マニラから飛行機に乗ったんだけど、ニュースになったくらい乱気流で大揺れして、飛行機を降りたらフラフラの状態。
М:そのまま翌日は試合。でも、それまでで一番いい踊りができたのよ(大笑)!
S:飛行機のおかげさ。あまりにもひどいコンディションで、やけくそだったのが良かったんだ(大笑)。
― 風邪で熱を出してフラフラで出場したら、今までで一番良い成績を取ったというような話は良く聞きますからね。
S:それは言えてるよ!
― ブラックプールではコングレスにも出ていますね。
М:この5年位毎年レクチャーをしています。これが本当に大変でストレスなのよ(笑)。
― レクチャーする人は皆さん、そうおっしゃっているみたいですね(笑)。
М:ブラックプールは名のある大会なので試合に集中したいのに! 歴代の有名なコーチャーやダンサーたちがレクチャーをしているので、とても名誉あることなんだけど、本当にストレスになるのよ。あの30分が!
― 結構楽しんでいるように見えますが…
S:正直、そんなこと全然ない(大笑)! 現役ダンサーは話すのも下手だし、ましてや僕たちは外国語で話さなくてはならない。たった30分と思うかも知れないけど、何時間にも感じられるんだ。そのための準備もあるし、チームマッチもあるから、下手すると試合への集中が切れてしまいそうになる。本当に注意が必要なんだ。
― 来年はリラックスしてできますね、きっと。
М:ずっとましになるでしょうね(笑)。
― コーチャーたちとのチームワークについて教えてください。
М:コーチャーたちにも恵まれていて、最後の5年のチームは特にそう思います。すごく助けてもらいましたし、アイディアも出してくださいました。もし不安に思えることが出てきても、先生に対する信頼はゆるぎないものでしたし、彼らとオープンに話し合いをしてきました。
S:もし自分の先生に疑問を抱くようなことがあったら。それは決してよいことではありません。私たちは全面的に信頼していましたので、言好きじゃないと思ったことでも、言われたことは必ずやるようにしました。自分たちのために考えてくれていることですから。そしていつも良い結果に繋がりました。
― 振り付けはどなたが?
S:僕は振り付けを考えるのが好きだから、プロになってからは僕が5種目ぜんぶ作っています。時の助けてもらうこともありますけどね。振り付けは、それなりの理由があって、変更のための変更になっては意味がないと思っている。だから僕たちのパソの大元の振り付けは長い間殆ど同じなんだ。
М:振り付けに対する考え方は人それぞれだと思うの。私たちが考えることは、自分たちに滅茶苦茶すごい究極の振り付けは必要じゃないということ、そして、自分たちの振り付けの中で何を表現するかを考えているの。ストーリー性とか男と女とか、ボディの表現や考えの表現などのことを。そうしたことに関心があるの。あなたはコーヒー、セルゲイはコーク、私はオレンジジュースを飲んでいるけど、誰が正しいということがないように、色々あるから踊り手の個性が表れるし、見ている人たちも楽しい。
■ 踊りが革命的に変わったのは、英語が分かるようになったから ■
― 日本選手にアドバイスをお願いします。
М:難しいわね。何組か教えているけど、頻繁に継続的じゃないので、私たちの意見を充分に伝え切れない。私たちも年2回位しか日本に来ないので、ショーの合間にしか教えられないのよ。また、イギリスの3大大会前に教わりたいと言われても、自分たちの練習もあるから断ってきたわ。これからは違うと思うけど。
S:コミュニケーションが取れないという問題が結構あるね。言葉が通じないとどうしようもないのに、殆どの人はほんの少しの英語しか話せない。僕たちの日本語はゼロ以下、マイナス10くらいだしね(大笑)。ただ踊って見せることはできても、そのカップルによって伝えたいことは当然変わるので、やはり英語でコミュニケーションが取れるようにするのが、上達の必須条件だと思う。僕たちもお互いに意志疎通ができるようになって、ダンスが上手くなっていった。
М:英語は最低条件になるわね。
S:僕も最初は英語が全然ダメだったけど、だんだんコーチャーたちの話が深く分かってくるようになると、踊りが革命的に変わっていったからね。
― コーチャーの言いたいことが理解できないまま踊っているだけでは、限界があるということですね。
М:そう。ラインのこともスペースのことも踊りにハートを注入するにも、そういうあらゆることをコーチャーが伝えるにはコミュニケーションを介するより他ないですからね。深い所を理解しないで、踊りだけをコピーしても、それは外側だけで中身のない物になるわね。
S:きっと外人コーチャーの誰に聞いても「英語を勉強しなさい」と同じ答えが返ってくると思うよ。
М:英語もあるけれど、日本の人はダンスを始めるのが遅いのも、世界で上位に入っていけない原因の一つね。大学辺りから始めたのでは無理もないわ。ロシア、ポーランド、ウクライナでは、セルゲイみたく6歳くらいから始めているのですから。 子供たちは吸収が早いので、大人になって初めて、彼らに追いつくのは大変だもの。日本でも子供の頃から始めるようにすると、強くなる可能性が出て来るわね。だって、日本のバレエ・ダンサーたちは、あんなにも世界で活躍しているじゃない!日本人はきちんとやる性格なので、小さい時から始め、英語を使えるようにして行くと、きっと大きな可能性が広がってくると思うわ。
S:日本にはとても美しく素晴らしい芸術文化があるので、そうした背景も役に立つと思う。
■ 歴史を引き継いでいまがあり、未来がある ■
― ラテンを踊ろうとした理由は何ですか? そしてその魅力とは?
М:子供の頃は、ラテンもスタンダードも両方とも踊っていたのよ。
S:でも僕は、あの同じポジションでいるのが、どうにも嫌でね。アクティブに動き回っている子供だったので、ラテンの方が向いていたのさ。より自由に感じたしね。
М:ボールルームの人が効いたら怒るかもしれないけど、ボールルームよりフリーに踊れ、表現できる部分が多いのが魅力ね。そんなことを言ってしまったけど、マーカス&カレンや他のトップ・ダンサーたちの踊りは素晴らしかったし、そうそう、去年のワールド・スーパースターのマッシモたちのショーには感動して泣いてしまったわ。
― マッシモたちが戻ってきたという感じですね!
S:本当にそう。ボールルームも変化してきているけど、ラテンの場合は、服装、踊りのスタイル、振り付け、音楽、あらゆる点で変化が著しくて、10年も経つと大きく違っている。しかも、衣装の選択肢が広いし、自由度が高いのも魅力だ。それに、これは人から聞いた話だけど、競技としてのラテンはボールルーム程歴史がないんだね。ブラックプールではジェネラル・ダンスでしかなかったみたいだ。
― ラテンが競技種目になったのは、確か1953年のインターナショナルからでした。1950年に出版されたアレックス・ムーアの「ボールルーム・ダンス」には、ルンバがポピュラー・ダンスとして紹介されていて、写真は燕尾服にロング・ドレスですから! 一方、ジェフリー・ハーン氏は彼のテキストの中で「ラテン・アメリカン・ダンスは成熟した」とまで書いている位です。お二人はその真ん中にいるのです!
S:それはうれしい。でも、その時代その時代で最高の踊りがあったんだ。ウォルター・レアード、ドニー&ゲイナー、ブライアン&カルメン、名前を挙げたらきりがないけど、そうした人たちはそれぞれの時代で凄かったし、しかも、みんな個性的でしたね。そうした歴史を引き継いで今の僕たちがいるんだ。
― 私たちには今の凄いレベルの上を想像するのが難しいです。振り付けにしても、スピードにしても。
S:でも、音楽より早くは踊れないからね(大笑)。次の世代になったら、また別の最高のものが出てくるのさ。
М:今の若者たちの踊りを見ていると、体はしっかりしているし、スピードはあるし、振り付けも凄い。でも、ダンスというものを考えると、何かが足りない。多くのことを見失っている気がするのも事実よ。そういうことをもう一度考える転機に来ているのかも知れないわね。往年の偉大なダンサーたちの踊りを見ても、ショーを見ても、心に響くものがありましたから。スピードだけではどうしようもないのだから。
― それはボールルームでも同じで、シンコペーションを多用し、とにかくこっちからあっちまで早く行こうとする。目的が動くことで踊りじゃないように思います。
М:まったく同感よ。
S:フィガーの特性も音楽性も失ってしまうのは、あまりにもスピードを求め過ぎているのが理由にある。ダンスの本質は音楽を感じて、動きを通して自分を表現することだからね。でも、さっきも話したけど、次の世代の人たちが音楽性とか何かを変えて別の最高の踊りを見せてくれると思う。それを期待したいね。世界の環境で変わっていくからね。人々の生活のテンポがのんびりしていた頃にはそのような踊りが、そして車のスピードが向上し、インターネットの接続も早くなってと、世の中がどんどん早くなっていく中で、ダンスもスピード化してきたと思うから、世の中がどう変わるか。そして次の世代の踊りを牽引する人がきっと出てくる。もしかすると、もうどこかにいるのかも知れないね。
― では、最後の質問です。もし、セルゲイ&メリアの踊りを一言で表現するなら、どんな言葉になるでしょう?
S:一言だったら、「セルゲイ&メリア」と答えるね(笑)!
― 負けました(笑)! 昨日、ブライアン&カルメンが去年のロンドン・ボールでチャチャを踊っている映像を見た所です。引退してから何年も経っているのに素晴らしい踊りでした。ブライアンたちのようなレジェンドへの旅に出たお二人をこころから祝福したいと思います。
(おわり)
(インタビュー/文:神元誠・久子 写真撮影:神保敬治)
ハッピー・ダンシング!