KD19 北国ダンサー物語 3章第2話 新年会でチャミちゃん怒鳴る

投稿者: | 2023年11月29日

 3章第2話 新年会でチャミちゃん怒鳴る

 

 

 2018年1月4日(木)。

 いつもの「いらっしゃい」に集合したいつものメンバーは、落ち着く場所があるのでしょうか、いつもの並びで席に着きました。流石に、お父さんをなくした昭ちゃんは「おれ、やめとくわ」と欠席しましたけどね。

 そして、いつものように、まずはビール片手に乾杯すると、いつものように、さとしちゃんが話し始めました。

画像

 

さとし: 他でもないんだけど、今回は、千葉ちゃんたちが黒池町に戻って初めての正月なので、まあ、久しぶりにみんなで飲もうかって訳です。

純 子: こないだも、やったわよーーー!(笑)

加 藤: で、みんなで飲んでいると、いつも、「みんなでなんかやりたいなー」って話が出るのですが…


寿 美
: 待って!その台詞、去年の4月と同じよ! もう、みんなでダンスやってきたし、確か、フォーメーションというのまでやったわよね!

 

ミッチ: そこなんですが、奥さん。ま、ひとつ、お話をお聞きくださいませんでしょうか。

 ミッチは江戸時代の商人のような仕草で話したので、この見え見えの演技にみんなは大笑いしています。
 

 

寿 美: なによ、急に言葉遣い変えちゃって!

ミッチ: 去年、大変な興奮を味わっちゃったものですから、また、あんなことやってもいいなーって…

玲 子: できれば、もっと大きな舞台でって…。

寿 美: あーら、玲子ちゃんまで。ちょっと動けるようになっただけなのに、もう、いっぱしなダンサーみたいね。

玲 子: お蔭様で。私たち、あなた達の教え子なものですから…。それに、ねっ。

と、ミッチに話を振った。

 

ミッチ: あの興奮を味あわせたあなたたちにも責任があると思うのであります…
 

 まるで責任を取れと脅迫しているようなミッチの発言にみんなは、また大笑いした。周りのお客さんは「この人たち、よく笑うなー」と言う目で見ています。
 

 みんながわいわいやっている間、千葉の心は会話から一人外れています。主役を寿美に盗られたからではありません。彼女は東京から、知り合いのいないこんな片田舎に連れてこられたのだから、むしろ、みんなと楽しくやれているなら、千葉ちゃんに取り、これ以上、喜ばしいことはありません。
 
 しかし、比較的お喋りの千葉ちゃんが口を開かなかったのは、ひとり考えを巡らしていたからでした。

 

 その千葉ちゃんが口を開いたのは、ボーっとしている千葉ちゃんが心配になって、みんなが彼の顔を覗きこんだ時のことでした。

 

千 葉:あのさー。

 それに続いた彼の話は誰も想像していないものでした。
 

千 葉: それなら、こんなのはどうだろう?


さとし
: なによ。

千 葉: 1年半かけて貯金して旅行に行く。

寿 美: どこに?

千 葉: ブラックプール。

全 員: えええー!!

 

画像

 

さとし: それって、最初にお前のとこで見せてもらったDVDのとこか?

千 葉: うん。そこでは、世界で一番古く、一番大きなダンスの祭典が毎年5月の末にかけて行われる。どうせなら、みんなで貯金してイギリスまで行って踊るってのは、どう?

 

寿 美: 観戦して、ダンスタイムで踊るってこと?

  突然の提案に、寿美でさえ驚いている。

 

千 葉: うん。北海道から余り出たことのない者たちが海外に行くだけでもすごいじゃん。しかも、ダンスの本場イギリスまで行き、しかも、そこのダンスタイムで踊るのさ。帰りにはロンドン見物もしてさ。

さとし: そんな世界最高の競技会を見ても、何にもわからんと思うけど、ロンドンは行ってみたいなあ!千葉ちゃんとチャミちゃん先生が通訳やってくれれば、心配いらないしな。俺は賛成だなー。な、佳純?

 

佳 純:行こう、行こう!

ミッチ: 俺も賛成。修学旅行の気分だな!

河 合: 外国に修学旅行に行く学校もあるみたいだから、じゃあ、俺たちのは高齢者修学旅行だなー。行ってみたいなー。
 

 みんなが賛成の意を示したのを確認すると、千葉からもう一言続いた。

 

千 葉: 実を言うと、もちょっとした考えがあるんだ。
 
 千葉が声を潜めてそう話すと、みんなの顔が一つの輪になった。そして、話を聞き終わると、寿美が鬼の形相で怒りの声を上げた!

 

寿 美: バカ言わないで! そんな事できる訳ないでしょ!

 

「北国ダンサー物語」(作:神元 誠)

 

【前へ】<<