踊っていて、軽い人もいれば重い人もいます。では、「重い」「軽い」は体重の問題でしょうか? そうも一概には言えないようです。ここで紹介する一人の女性との話は、男性にも役立つことでしょう。
私はどうして重いの?(その1)
ずいぶん前の話ですが、顔見知りで仲良しの人とダンスパブで踊る機会がありました。彼女は個人レッスンに通ってもいないのに、すごく上手です。でもその日は彼女らしからず、ちょっと重かったので、踊りの終わりに、「あー、重かった!」とふざけると、彼女もふざけて床に崩れ落ち、そして「重いのね!」と泣く演技で周囲の笑いを取りました。こんな風に和やかに楽しく踊れるのは幸せなことです。
椅子に座ると彼女は、「どうして重いんでしょう?」と真顔で問いかけてきたので、会場に置いてあった本のページを開いて渡すと、両隣の人たちと真剣に読み始めました。
暫くして再び踊りのお誘いすると、「分かったわ!」とニコニコしています。そこからこんな会話が続きました。
「何が原因だったの?」
「私はそっくり返っていたのね」
「そっくり返ると、どうして重いの?」
「……バランスが後ろにいくから」
「バランスが後ろになる原因は?」
「足が……男性に近すぎる!!」
「そう! これで問題解決! さあ、踊りましょう!」
踊り終えると、彼女は飛び上がらんばかりに、いえ、文字通り何度も飛び跳ねて喜びを表現しました。自分のバランスで踊ると、どれだけ軽く、どれだけ踊りやすくなるかを実感できたのです。勿論、リードとフォローの関係も1曲目のときよりずっと良くなっていました。
帰るときも、彼女は小躍りを続けていました。私もうれしくて小躍りです。上手な人がまた上手になったのですから!
私はどうして重いの……(その2)
重くなる原因はバック・バランスだけではありません。そこで、彼女が読んだ本に書かれていることを紹介しましょう。
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■重くなる原因
踊りにおける「重い」「軽い」は体重と関係ありません。体重が100㌔でも、自分の責任のもとに自力で体を運んでいる限り「重く」なりません。相手に対して重くなる原因はいくつか考えられます。次に挙げるリストのひとつひとつをチェックしてください。きっと即座に解決すると思います。
1.肘が下がるとホールドは「重く」なります。
自分の肘は自分の責任で適切な高さに持ち上げましょう。男性にしがみついていませんか?
2.胸の両脇が緩んでいると「重い」です。
両肘を上げていても、まだホールドが重い人は、両脇をグッと持ち上げ(伸ばし)ましょう。これに気をつけるとかなり改善されます。
3.トウの使い方が弱いと「重く」なります。
フットワークが(TH)のステップで、TからHへ下りる時間が早すぎると、相手に対してボディが重くなります。(TH)のステップとは、例えばワルツのウィスクの最終歩があります。タンゴの後退のステップ(厳密に言うとTHではなくBですが)でも、ヒールに下りるのが早いと重くなります。
対処法として、「深さの知れない泥沼に足を入れる気持ちでステップしてごらん」と私たちはアドバイスしています。必ず慎重にステップをするようになりますから。
4.ボディ(上体)が倒れていると確実に「重い」です。
大きなホールドをしようとしすぎて、自分のバランスにいないことに気づかない女性を多く見かけますが、重くて危ないです。こうした女性の多くは、「そっくり返るような」上体を作ろうとし、両足を男性の足のすぐ近くに置こうとする心理が働いているようです。自分ひとりで動いてもだいじょうぶな形を作りましょう。
5.(H)や(HT)の前進ステップを(B)や(T)で出ると「重い」です。
これが原因で生じる重さはいろいろありますので、初心者はとにかくフットワークに気をつけることを最優先させましょう。良く動ける人の中にもこの誤ったフットワークで踊っている人がたくさんいます。
例えば、恋人と歩いているとしましょう。もし、相手の人がケガもしていないのに、片足だけつま先で歩いていると、手をつないでいるだけでも「おかしい」と感じるはずです。ナチュラルでないのですから。その歩き方だけで、恋心が醒めてしまうかもしれません。誤ったフットワークとは、そうしたものなのです。
少しでも軽やかな踊りを目指す人は、「動けているからいい」という考えは即刻捨てましょう。これを読んでくださった初・中級レベルの人が、本書を通じてフットワークの勉強をするようになることを願ってやみません。
(出典:「パーティーはおまかせ」(神元誠・久子著/白夜書房)から。一部書き直しあり)
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バック・バランスから解放されると
踊りは自由になります。
体重は重くも軽くもできます。
重くなる原因を探りましょう。
ハッピー・ダンシング!