「ダンサーのためのメンタル・トレーニング」(マッシモ・ジョルジアンニ著/神元誠・久子翻訳/白夜書房 原書名:DANCING BEYOND THE PHYSICALITY)を紹介します。
MT49 第12章 理解することが初めの一歩/
①意識できるようにする
Acquiring Awareness
次の4 段階があることに気づくことが重要です。
①理解する → ②実験する → ③反復練習する → ④デモンストレーションする →
この4 段階のうちのどれが一番あなたの役に立ちそうですか? また、あなたが一番慣れ親しんでいるのはどれでしょう? それを考え、最も効果が上がるバランスの良い順番に変えてください。私たちが一人一人違うように、ダンサーによって、この4 段階の理解の仕方も違えば、どれかひとつが非常に分かりやすいということも起こります。
私はデモンストレーションが大好きなダンサーたちを目にしてきました。そうした人たちは、デモの内容を充分に理解もせず、実験もせずに本番に入ってしまいます。そうかと思えば、必要以上に理解しようとして、デモンストレーションそのものへの注意をあまり払えない人たちもいます。そうした人たちが取るべき望ましい方法は、外側から攻めることだと思います。つまり、最初に理解することから始まり、次に体の中に入っていって実験をします。それから繰り返し、繰り返し、繰り返し練習した後で、観客の前でのデモンストレーションをすることです。
4 段階を振り返り、自分がどの段階に多くのエネルギーを注ぐのが有益かを判断してください。自分のダンスにはどこの強化が必要かをしっかり認識することが大切です。楽な方向に流れてはいけません。
① 理解する
大切なムーブメントができるようになるために、最初にすべきことは「理解すること」です。体を使って何かの動きを起こそうとするときには、その動きがナチュラルに見えるようにするための、特別な知識が必要になることを理解してください。
実際のところ、ある種の状況下やムーブメントにおいてはさほどナチュラルに見えないものもあります。二人がそこにいるだけで、自然な振舞を調整している物理的習慣が変わってしまうのですから。日ごろ、後退の動きなど滅多にしませんが、ダンスでは、後退の動きは随所に出てきます。そして、女性には後退の動きが多く出てきます。二人の腕の動き方も決してナチュラルとは言えません。二人の体は通常、対照的な動きをしていますが(一人が行なうことに対して、もう一人が反対の方向へと同量の動きを起こしてバランスを取っています)、スタンダードでは、非対称的な形になりますから、これもナチュラルとは言い難いです。
このように、何をするかを理解し、なぜ物理的なルールがあるのか、そうしたことを考えることが総合的なプロセスをより容易にしてくれます。そうしたルールの中にはナチュラルとは言えないものもあるかもしれませんが、慣れることにより、すべてが楽に行なえるようになることでしょう。
② 実験する
なぜある種の物理的ムーブメントを起こす必要があるのか、そうしたことが理解できたら、次に大切なことは、それを実際の動きに使ってみることです。学習したことを動きの中で実験するのです。理解したことが形となって現われなくてはなりません。ちょうど、頭の中(体の上部)に宿った考えが、だんだんと、その下にある体のあらゆるパーツに下っていき、想像上の旅を続けるようなものです。
この過程で、ダンサーはある種の感動を経験することでしょう。それはまるで、自分の考えという着物をまとうような感覚であり、言葉が形を変えて体の表現となって現われるようなものだからです。こうした実験をしていると、身体に馴染んでいないムーブメントは難しく思えるときがあります。しかし、その段階では、そのことを深く考える必要はありません。その代わり、身体が与えてくれる新しい可能性に対して気持ちをオープンにしておくことが大切です。
③ 反復練習
理解し、実験したなら、次は反復練習です。学習したことが体に馴染むまで、繰り返し練習しなければなりません。反復練習は疲れきるまで、やればやるほど、学習したことは体に吸収される可能性が高まります。この段階で大切なことは、汗です。汗をかいて、かいて、かきまくることです。人間は、往々にして怠け者にできています。しかし、ダンスで成功したいと思う者には、この特質はまったく使えません。
④ デモンストレーション
最後の段階にきましたが、あなたの進行を知るには第三者の目が必要になってきます。この段階にくると、最初は単純に言葉でしかなかったことがあなたの体というツールを通して、視覚化されるのです。言葉は一貫性をもった素材なので、こうしたプロセスを理解しておくことは大切なことです。なぜなら、時々最初の理解と実験の二つを忘れて、物真似しているだけで満足してしまうからです。しかし、その違いは非常に大きく、人真似には虚しさが残ります。そこには理解もなければ、人とは違う個性の感覚も存在しないからです。
しかしながら、最初の3 段階をしっかり行なっておくと、満足感が訪れるでしょう。表現しようとしたことと実際の演技の間に、真の調和が現われるからです。思考と行動が合体するからです。さあ、あなたはこの4 段階をどの順序で使いますか? なぜなら、使う順序はダンスの経験を積んでいく間に変わるものだからです。
自分がどの段階にあるかまだ分からない人は、私が示した順番で行ないなさい。そうすると、あなたの学習度はより深く、学習スピードはより速くなることでしょう。
私たちダンサーは、自分の肉体をツールとします。
私たちの目的は、それを使ってリズムを奏でることです。
(M. ジョルジアンニ)
まとめ
1, 理解していることと、身体が動くことは別々な要素です。
2, 考え・着想を主張しなさい。
3, 理解することが初めの一歩です。
4, 献身すること、犠牲を払うこと、反復すること、こうしたことは物事を習う上では重要な意味を持ちます。
5, ダンサーの体は彼の芸術のツールである。
6, ダンサーは観る者の五感を育まなくてはならない。
7, ダンスは私たちの目に、耳に、そして心に喜びを与える。
8, 次の4 段階に気づくことが重要です。①理解する → ②実験する → ③反復練習する → ④デモンストレーションする、です。この4 段階のうちでどれが一番あなたの役に立ちそうか、また、一番馴れ親しんでいるのはどれかを考え、最も効果が上がる順序に変えなさい。
(「MT49 第12章 理解することが初めの一歩/①意識できるようにする)
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