MT50 終わりによせて

投稿者: | 2020年3月28日

「ダンサーのためのメンタル・トレーニング」(マッシモ・ジョルジアンニ著/神元誠・久子翻訳/白夜書房 原書名:DANCING BEYOND THE PHYSICALITY)を紹介します。(最終回)

■目次

 

 

MT50 終わりによせて
Epilogue

 

共に歩んできた旅も、終点に辿りつきました。これまで読んで頂いたことが、あなたの役に立つことを願っています。そして、あなたのパフォーマンス向上に役立つツール、スキル、そしてアイディアを提供できていたなら幸いです。この本を閉じた後で大切なことは、本の内容に頷くことではなく、学習したことを実行に移すことです。一番大切なことは、日々練習し、小さな歩みを進めていくことで、それが変化と進展をもたらす方法と私は考えます。成功は皆さんの手の届くところにあるのですが、そこに到達できるのは、行動を起こし、考えを実行に移し、一歩踏み出した人たちです。ないものねだりで時間を浪費している暇があったら、まずは行動を起こしましょう。

 

今までに聞いてきた否定的な魔法の言葉を信じてはいけません。なぜ美しいものは美しく、美しくないものは美しくないのでしょう? なぜ、ある人には才能があり、他の人にはないと思うのでしょう? なぜ、この人は理知的で、あの人は理知的でないと思うのでしょう? 私には、そうした考えは、誰かがどこかで話したために人の心の中にできてしまったのだと思います。残念なことに、他人のそうした考えや意見を自分の中に住まわせないようにすることは、いつも可能というわけではありませんので、その結果、自分の中に馬鹿げた限界が出来上がってしまうのです。

 

ここに私の大好きな実話があります。超現実主義のサルバドル・ダリの本で見つけた一節なのですが、ある人が彼に質問を投げかけたというのです。「あなたはいつ、自分が天才と気づいたのですか?」 そこでダリは答えました。「まず自分に天才だと語りかけたのです。それを何度も何度も繰り返しているうちに、今の自分になりました」 ― と。ダリが使った魔法の言葉はうまく働きましたが、それは肯定的なものだったからです。このように、魔法の言葉は何もマイナス面だけで働くわけではありませんから、自分が最も望む形の魔法の言葉を選択すれば良いのです。それは自分次第ですし、それを選択することは簡単なことです。自分に向けて建設的な考えを与え続ければ、あなたが歩む道はなだらかなものになるでしょう。

 

ダンサーには、失敗をしたときに何の言い訳もできないという不安を隠そうとする傾向があるのは分かりますが、だからといって、あなたが内部に保有するクオリティを示すことを恐れてはいけません。それでは、自分ができることに対しても責任を取らないという、おかしなゲームになってしまいます。成功を収めるに従い、人はより多くのことを私たちに求め、それに対し私たちは、トップに居続けるために更に多くのエネルギーを費やしますが、それが、最高の演技ができない原因となります。なぜ私たちは自ら全力を尽くすことをせず、代わりに言い訳を探すのでしょう。言い訳をせずに、強い決意を持って断固として物事に向き合えばいいではありませんか。

 

本書を通し、あなたはモチベーションが高まる考え方をすること、および、モチベーションが下がる考えを排除していくことで、精神状態、内なる描写、あるいは、実際に起こす行動に雲泥の差が起こることを学びました。また、信念が持つ力についてもお話ししました。もし建設的な信念を抱いたなら勝利を手にすることができることを、そして、もしそれが否定的な信念ならば、間違いなく敗北に陥ることを。私たちには信念を抱く力があります。物事を変える力があります。そしてそれらは、私たちが心の底から抱く願望の成就に役立つことを忘れないでください。確信は未来へと進む原動力です。ゴールを描きましょう。そしてゴールの線を越えた自分の姿を心に描きましょう。困難なことに気持ちを集中させる必要は何もないのです。

 

魔法のような考え方をする重要性についても見てきました。私たちが目にするものは受け取り方で変わりますから、今見ているものをどう解釈すべきかを考えましょう。すべては自分の心の目に依るのですから。私はマジックという言葉が大好きです。なぜなら、私たちがしていること自体がマジックなのですから。ただ私たちは、時々、そこにマジックが存在していることを忘れてしまいます。私たち自身がマジックだということを忘れるときがあるのです。私たちがマジックの存在に気づかなくても、私たちはマジックを必要としていますし、マジックに出会うことが私たちの生活で重要なことに変わりはありません。

 

自分の欲求を満たすと、心穏やかな幸せな気持ちになります。欲求を満たさないと、人とぶつかったり、人に冷淡になったりしてしまいます。

 

確実性、多様性、重要性、愛情、成長、そして貢献などの欲求を満たすには、建設的な方法を選択しなくてはなりません。欲求を頻繁に満たしていくことで、私たちは大きな発展を遂げることができます。それは間違いなくパフォーマンス向上のための絶対必要条件です。私にとって練習時間は、それまでにできていたことを更にどれくらい上手にできるようになるかを確かめる良い時間でした。私は上達を確認できる瞬間が好きなのです。

 

言葉の持つ力の話もしました。この「力」という言葉は、まさに的を射ています。自分に対する、あるいは、他の人たちに対する話し方には、想像もできない程の力が宿っているからです。それゆえに、日々の暮らしの中で、やる気をなくすような言葉や、有害な言葉や表現を使わないように意識しなくてはなりません。そうしたことを習慣にして頭の中からすっかりなくさなくてはなりません。その代わり、素敵な魔法の言葉を使うようにするのです。素敵な言葉を使うのは、慣れないうちは馬鹿げて思えるかもしれませんね ― 失礼、「馬鹿げた」も有害な表現でした。

 

言葉には私たちの心のあり方や行動やムーブメントに、あるいは、パートナーとの関係やパフォーマンスにも影響を与える力があります。必要なものはすでに私たちの中に持っていることを思い出しましょう。すでに持っているのですから、私たちがすることは、ただそれが、表に出てこられる表現となるよう、ドアを開けておくことなのです。疑いのバリケードを築いてはなりません。していることがうまくいくだろうか、などと疑いを持つとうまくいくはずはありませんし、そうした疑いを受け入れてはいけません。必要なものはすでに自分の中にあるということを信じ切ることができた途端、どれほど多くのことを表現できるかを知ることになるでしょう。

 

希望することに集中しなさい。望まないことに集中しないことです。あなたが到達したい目標に焦点を当てなさい。競技会で結果を出せずに家に帰ってくるところを想像するよりも、競技会でどう踊ろうかと懸命に考えるほうが良いのです。いずれにしても、日々、より良いものを求めつつ自分が持つベストを尽くさなくてはなりません。そうすることが、変化を起こす唯一の方法なのです。

 

私たちが住むダンスの世界の美しい点は、日々、向上の努力をする中で、自分たちのことをより深く知ることにあります。思っていた以上のことができて驚くところにあります。そう考えると、私もこの本で書ききれなかったことがどの位あっただろうと思ってしまいます。どの位あるか、その答えが出てくるまで探し続けたいと思います。

 

この本を読んでくださってありがとうございます。そして、あなたのダンスのお役に立つことを心の底から願っています。もしお役に立ったなら、どうぞお便りをください。建設的なフィードバックはいつでも歓迎しています。あなたの探求が成就しますように。

 


(「ダンサーのためのメンタル・トレーニング」完)

 

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