MT46 第11章 挑戦する勇気/①挑戦することの利点

投稿者: | 2020年3月24日

「ダンサーのためのメンタル・トレーニング」(マッシモ・ジョルジアンニ著/神元誠・久子翻訳/白夜書房 原書名:DANCING BEYOND THE PHYSICALITY)を紹介します。

■目次

 

MT46 第11章 挑戦する勇気
The Courage to Dare

 

したいことがあったが、する勇気がなかったという経験はありませんか? でも、そのとき、あなたは心底それがしたいと思っていたのでしょうか? 

思っていたけれど、誰かに言われたことがあなたのやる気を削いでしまったのでしょうか? こんな動きをしてみたいとか、こんなテンポで動いたら面白いだろうと思ったけれど、実行する勇気がなかったことはありませんか? 

あなたが考えていたことと全く同じことを他のカップルがしてしまったために、自分が尻込みしてしまったことはありませんか?

これらは、自分の可能性を求めることをせず、いつもの生活に甘んじている例です。間違いをするのが怖いからです。自分のやりたいことに敢えて挑戦するのが怖いのです。自分のアイディアを実行することに馴れていないダンサーもいますが、そうした人たちはある種の障害を抱えているようなものです。ダンス人生を通して、ずっと他の人たちのアイディアを使い、すでにあるものをそのままコピーしているだけなのですから。

 

 

 

MT46 第11章 挑戦する勇気
①挑戦することの利点
What Good Does Daring Do?

 

敢えて何かに挑戦してみることには、自分の限界を決めなくて良い、慣習に頼らなくて良いというメリットがありますが、何にもまして、楽しいのがいいじゃないですか。私が「敢えて行なう勇気を持て」と言うとき、真に意味するところは、自分の意志や願望を消し去ってはいけない、ということです。

 

「これをやりたい。でも、できない」

「どうして?」

「きっと受け入れられないから。みんながこう言っているから…」

 

ナンセンス! 自分の夢を、自分のインスピンレーションを、自分のアイディアを信じなくてどうするのですか。絶対できると信じなさい。それがすでにできたところをイメージしなさい。どうせリスクを冒すなら、他の人ではなく、自分が決めたことをやる方がいいじゃないですか。

 

人からアドバイスを受けるときは、あなたが心の底から信用している人に限り、誰かれ際限なく他の人の影響を受けないようにしなさい。すると、あなたの中に強さと威厳が湧いてきます。必ずや自分に対する幸せを感じ、自分で決めることができる自分が好きになります。そうしたことを繰り返していると、自分の中で物事を決定する力が強化されていきます。そうなると、もはや限界は関係なくなります。自分で感じ取りなさい。そして決心し、行動に移しなさい。考えを現実のものに、目に見える形の疑う余地のないものにしてしまいなさい。私は、こうした考え方はれっきとした芸術の一部と考えます。自分の考えがどこにもなく、他の人たちの考えばかりを使っているだけでは、中途半端な芸術家としか言えないでしょう。

 

振り付けをしているとき、私は時々、ステップを教えずに、そのカップルが何をしたいかと尋ねることがあります。そのカップルが何か即興で行なうことを観察しながら、その即興部分をどう解釈して踊ったのかと質問をしたりします。そのようにして、ダンサーに自分たちの考えを取り入れるように促していくと、非常に興味深いことが起こります。最も興味深いのは、カップルが踊っているとき、新しく作ったステップとか、その解釈の仕方というものが、彼らの踊りに似合っているのが見えてくることです。

 

 

進歩は挑戦する勇気の中にある。
体の中から湧きあがる指令に従い表現する勇気の中に進歩がある。
(M. ジョルジアンニ)

 

 

あなたが、観客に見せたいと思うアイディアを持つことが、情熱を深める最初の一歩です。多分に今までそうしたことをしたことがない人にとり、これはとても意義深い瞬間です。考えてもごらんなさい。今まで自分の考えを披露しようと思ったことがないのですから。それを考えると私も興奮してしまいます。そうなれば、もはや挑戦ではなくなります。表現の過程を解放するだけなのです。

 

まだ疑っている人は、誰か信じられる人で、あなたのアイディアを手伝ってくれる人に相談してみてください。その場合でも、多くの人にアドバイスを求めるのは避けるべきでしょう。なぜなら、問題は解決せずに混乱し、当初のアイディアの話がどこにいったか分からなくなってしまう恐れがあるからです。

 

ダンサーであるなら、私が今述べてきたような考え方ができるようにならなければいけないと思っています。なぜなら、それができるようになったダンサーたちの踊りは、何から何まで他の人の踊りを真似ているダンサーたちとは違ったスタイルの、個性溢れる踊りになるからです。それは見ている側にも伝わってきます。

 

人間には生まれつき他の人と同じ行動を取ろうとする能力が備わっています。例えば、同じような歩き方をするとか、あるいは、同じような話し方や同じような服装をしたりします。しかし、気をつけなくてはなりません。ダンスでは他のカップルから学ぶことはできても、学んだことを自分の体で表現しなくてはならないのですから。そうしなければ、本物にはならないではないですか。

 

見て確かめ、感じて確かめ、それから最後に自分の体で演じるのです。あなたにも、かつて、何かしたかったことがあり、しかし、理由は何であれ、それをする勇気がなかったという経験があると思いますが、いまここで、「どうしてできなかったのか?」と問いかけるところから再スタートしなければなりません。もちろん、それを実行していたらどうなっていたかと思うのは大切なことです。私は、思いついたことは何でもかんでもやりなさいと話しているのではありません。良いセンスを磨いて欲しいのであって、派手な、過度の飾りつけをして欲しいわけではありません。求めるのは洗練さであって粗雑ではありません。気品を持って挑戦することを学んでください。

 

ある日、レストランで食事をしていたときの話ですが、私はイタリアンのトマトソースのパスタを注文しました。典型的な料理ですから、パスタ、トマト、バジル、ガーリック少々、オリーブオイル、それに少々のパルミジャーノチーズが入っています。しかし、そのときの料理で奇抜だったのは、何とシェフが、ひとつまみの挽いたコーヒーを加えたのです。それはそれは、形容の仕方が分からない程、私にはとても素晴らしく思えました。

 

そのシェフは、典型的なトマトソースパスタのレシピに思い切った試みをしたのです。私にはそれが大成功だったと思いますが、シェフにしてみるとすべてが、計算づくめだったのです。その加えられたコーヒーの量はまさに考え尽された最適の量でした。ひとつかみだったらどうしようもありませんからね! シェフはお客さんの立場に立って適量を考えたのですが、それこそ、何か新しいことに挑戦するときのやり方なのです。あなたと新しいものを結びつけるやり方、そして、それを自分のものにしてしまうやり方なのです。このシェフのやり方はダンスにも言えます。上品に挑戦しなくてはなりません。ここで別の質問が湧いてきます。「でも、人それぞれ好みがちがうのでは?」と。正解です!

 

ダンスにはいくつかのルールがあります。私はそれらのルールは美しいと思っていますが、次のようなものです。

 

・パートナーとパラレルにいること

・テンポを合わせること

・ 観客が見ているイリュージョン、即ち、誰がアクションを起こし誰がリアクションしているかという理に叶った動きのイリュージョンを消し去らないようにすること

・ 男性は品のあるスーツを着こなし、女性は魅力的なドレスに身をまとうこと、などです。

 

 

もし、こうしたルールをしっかり守る人であれば、私は「しっかり挑戦しなさい!」と励ますことでしょう。今までとは違うリズムを実験したり、スペースの使い方やステップを変えたりしてみるのです。人から言われた範囲だけに留まっていてはいけません。

 

現在私たちが使っているステップも、誰かが作ったということを忘れてはなりません。それでしたら、あなたが作ってもいいではありませんか。

 

 

人生には負えないリスクもあるが、
負わないことによるリスクもある。
(P. ドラッカー*)

■ ピーター・ドラッカー(Peter F Drucker /ピーター・ファーディナンド・ドラッカー 1909 – 2005):オーストリア・ウィーン生まれの経営学者。

 


(「MT46 第11章 挑戦する勇気」つづく)