前回の「原理4.頭部の動きは脊椎運動を支配する」の部分を読み、頭からライズする考え方を紹介しましたが、「これって、ヘッド・リードに通じるのじゃない?」と考えた人もいたと思います。私も同感です。ヘッド・リードについては、「ミルコのレクチャー “Our Ballroom” (2009) 」の中に次のような説明があります。
私とダンスとアレクサンダー・テクニークと
AT11 良く出来たときは案外変に感じる
■ミルコのレクチャー “Our Ballroom” (2009)
長い間ダンスをしていて解ったことは、ちょっとした小さなことがダンスの質やレベルの向上にとても重要だということです。そこで、今朝のこのレクチャーでは、ひとつのことに触れてみようと思います。それをすれば、他のことも良くなるからです。(中略)
今日はヘッドの使い方に焦点を当ててお話をしましょう。
まず、頭(頭脳)を使うこと。つまり、何をすべきかを考えるのはとても大切です。そして、なぜそれをしなければいけないかを。最近、ただただ踊りを真似しているカップルをたくさん見かけますが、そうしたカップルは動きの起こりについて考えることなく真似しています。ですから、頭を使おう、考えようというのです。
二つ目に、頭が背骨の上に位置することを理解しなければなりません。つまり、首に直接くっついているのではありません。もちろん首につながってはいますが、首は筋肉で、頭 は背骨の最上部につながっているのです。
また、ダンスにおいては背骨の大元を動かすこと重要です。つまりヒップのことで、ヒップからスイングやスウェイ、そしてムーブメントが創りだされるのです。同様のムーブメントをヘッド・ウェイトを使って作ることも重要です。
(Mirko Gozzoli & Alessia Betti)
さて、本題のジェレミーさんの話に入りましょう。初めに7つの原理を抑えておきましょう。
ボディ・チャンスの7つの原理 1. すべての動きは相互依存の関係にある。 |
ダンス――遥かにうまくなるための秘訣(2回目記事より)
原理5.動きは古い感覚に支配されている。新しい考えで動くことは稀である
この5つ目の原理の背後にあるもの―― つまり、あなたのあらゆる行動はあなたの感覚に支配されているということ――を知ると、本当に驚かれることでしょう。
前回同様、食べ物との関係で考えてみると…
例えば、私たちは砂糖を使った食べ物は体に良くないと分かつてはいますが、でも大好きです。(注:ここでは「分かっている」が「考え」に、「大好き」が「感覚」に相当します)。
さて、あなたの場合はどうでしょう? どれだけ「感覚」を捨てて「考え」に従っていますか?
新しい動きを試みるのは、これと何ら変わりありません。始めは新しい方法でやってみようと思い、練習を繰り返すうちに何度か上手くできたと思えることがあっても、その内、それが以前の動きと大差ないことに気づくのです。
なぜなら、新しい考えに従ったつもりでも、実際にはそうしていなかつたからなのです。
新しいことをしたつもりでも、実際にはしていない―― それに気づかないまま、以前と同じことを繰り返しているのです。
原理2の「有害な動きは概ね知らないうちに行われている」に気づかないため、自分では違うようにしているつもりなのに、「なぜ同じことを繰り返すのか」と先生に叱られる羽目となります。
具体例を挙げてみましょう。
先生に「背中を伸ばして」と言われたとします。そこで、私たちは「真っすぐと感じる」ように立ちますが、感覚で「まっすぐに」立ったつもりでも、鏡を見て「真っすぐではない」自分に驚いてしまうことがあります。
真っすぐの筈が、イメージより後ろに倒れていた――という風に。
繰り返しになりますが、先生が教える新しいアイディアを受け入れようとしても、基本的には、古い感覚がそれを邪魔してしまうものなのです。
では、いったい今までと同じ感覚が支配する中で、新しいやり方を「どのように」実行することができるのでしょう?
新しいアイデイアが実行できているかどうかを知るには、以前と同じようなテンションが入っていないかどうか、以前のように苦しくないかどうか、それをチェックすることなのです。
新しい感覚で動くというのは実に驚くべき体験です。その感覚は、しばしば違った物に感じられ、非常にショツクを覚えることでしょう。
それは、新鮮、かつ、予想だにしなかった感覚で、自分では「おかしい」と感じることが、見ている人には「すごく良く」見えるのですから。
(「ダンス――遥かに上手くなるための秘訣」第2回記事から)
その昔、妻がロンドンでダンスを習っていたとき、何度か泣きながらフラットに帰って来たことがありました。
話を聞くと、あることができず、先生に「どうしてできないのだ」と責められ、「No」と言われ続けているときに、突然「今のはOK、今のは良かった」と言われたそうです。
「『なぜできない』と言われ続けるのも辛いけれど、『今のはOK』と言われても、何が悪くて何が良かったのか分からない」と泣くのです。
皆さんにも似た経験があると思います。自分では「やってる」積りなのに、パートナーや先生の目にはそのように映っていないということが。そうすると、「自分の感覚が当てにならない」と思うか、「パートナーや先生の方がおかしい」と考えるかのどちらかしかありませんが、さて、あなたはどちらを選びますか?
(つづく)
「私とダンスとアレクサンダー・テクニークと」目次
- AT01 不思議な出会い
- AT02 潜入調査開始!
- AT03 ショッキングな体験
- AT04 筋肉を意識的に解放する
- AT05 パートナーは二人必要?
- AT06 動きの原理を知っていますか?
- AT07 あらゆる動きはどこかに影響を与えている
- AT08 原理2と3
- AT09 頭部の動きは脊椎運動を支配する
- AT10 私も魔法を手に入れました!
- AT11 良く出来たときは案外変に感じる
- AT12 頑張らなくていい
- AT13 頑張らなくていい例文
- AT14 当てにならない感覚
- AT15 7つの古典的な誤り
- AT16 自分を世界の中心に置く
- AT17 内なるダンスに向けて
- AT18 協調運動
- AT19 動的な動き
- AT20 力まないダンサー
- AT21 さあ、実験!
- AT22 背骨の可動範囲
- AT23 失われた第6感
- AT24 判断基準が自分にある危険性
- AT25 最終話 難しいのはあなたの古い習慣
- AT26 ダンサーのためのアレクサンダー・テクニーク