前回はジェレミーさんの第1回記事から「パートナーは二人いる!」を紹介しました。今回はその続きに進みましょう。
私とダンスとアレクサンダー・テクニークと
AT06 動きの原理を知っていますか?
■動きの原理を知っていますか?
ここで、人間の体のすべての動きを司る原理についてですが、
•例えば、頭が脊椎の動きを支配していることを知っていますか?
•姿勢の問題は頑張るより頑張らない方が解決することを知っていますか?
•例えば、体は遺伝子学的に完璧な動きが出来るようになっているのを知っていますか?
もし、知らないものがありましたら、是非この先も読み進んでください。
(「ダンス ―― 遥かに上手くなるための秘訣」第1回記事から)
当時の私には「姿勢は頑張らない方が良い」というのは初耳だった気がします。
しかし、その2年後、オリバーの “The Irvine Legacy” を翻訳しているときに最低限の筋肉で立つという説明を見つけ、今では、それが真理以上の真理と確信するに至っています。その「アービン・レガシー」(「ビル&ボビー・アービンのダンス・テクニック」)から、その部分を紹介しましょう。
第1章 まっすぐ立ちましょう
ダンスに関する限り、どんな事をするにおいても、私達は自分の体を可能な限り完璧な形にしておかなければなりません。それは、正確にはどういう事を意味しているのでしょう?
完璧な形とは、最小限の筋肉を使いつつ安定していられる垂直な形の事です。では、安定はどうやって得られるのでしょう? 正しいポスチャーの基本の形は骨格から得られます。背骨を少し伸ばすことで、背骨を支える筋肉の働きを向上させ、かつ、最小の動きにすることができます。
背骨をできるだけ垂直にすることで、筋肉に余計な仕事をさせないで済みます。すると、訓練を受けている筋肉組織が自動的に体を支えようとする機能を引き継いでくれます。勿論、その時すでに使われている筋肉は使うことはできませんが。
良いダンスをしようと思ったなら、最低限の努力でポスチャーを作り、いつでも自分がしたい動きのために、必要な筋肉を自由に使えるようにしておくことが絶対条件となります。
そうしておけば、多少バランスを崩しても自動的にバランスを取り直せるからです ― 体が、バランスを保つための(正確には、倒れないように!です)助けを求めると、脳は他の筋肉に助けるよう指示するからです。
しかし、そうした事態が起こると、私達の動きは非常に制限されてしまいます。助けに出動させられる筋肉は、本来、回転やスウェイや方向転換、それから、ボディ・ライズする時に必要な体の中からの動きに使いたいのですから。
(翻訳:神元誠・久子)
ジェレミーさんの記事の続きを読んでいきましょう。アレクサンダーがこの原理を発見した経緯が書かれています。
フレデリック・マサイアス・アレクサンダー
1889年、オーストラリアのメルボルンに名の知れた俳優がおりました。彼は、仕事中に声が出なくなってしまったのですが、おかしなことに、日常の会話でその問題は起こりませんでした。
そこで、俳優の仕事が続けられるよう、医者や発声の先生など、頼りになりそうな人なら誰彼なしに尋ね歩いたのですが、思うような成果は得られず、遂に彼は、人に頼らず自分で解決しようと決心したのでした。そして考えたことは、ステージ上で声が出なくなるのは、自分が体に対して何かおかしなことをしているからではないかということでした。そこで、鏡を取り出し自分の姿を観察してみると、驚いたことに、舞台の上の姿は普段話すときとはまるで違う姿をしていることに気づいたのです。舞台では首を引いて押し下げ、胸を張り、背中を縮め、脚部に力を入れているのでした。
フレデリック・マサイアス・アレクサンダー(Frederick Matthias Alexander 1869-1955)という名のこの俳優は、10年にわたり3つの鏡を使いつつ何千時間も費やした結果、自分の体を司る幾つかの原理を発見しました。そこで、現在、世界的に認められているアレクサンダー・テクニークをつくることにしました。今日では36カ国以上の国々で数千人の先生が教えています。
1973年のことです。ノーベル医学賞を受賞したニコラス・ティンバーゲン(Nicholas Tinbergen)氏は、その授賞スピーチの中でアレクサンダーの発見について次のように語りました。
「医学的訓練を受けていない一人の男が示した洞察力、知性、そして、粘り強さの話は、医学研究、及び実施に関する最高の発見のひとつです」と。
では、アレクサンダーが発見したものとは何だったのでしょう?
ボディ・チャンスの7つの原理
ここに私が分類した7つの原理があります。これを組み合わせることでもっとも簡単でもっとも複雑な人間の動きを理解することができます。これらは100年以上も前に発見されたことですが、それが最近の、特に神経科学の分野に於ける科学者達によって立証されているのです。あなたたちダンサーは特にそうした科学を知る必要はありませんが、体をコントロールするこのボディ・チャンスの原理を知っておくとよいでしょう。優れたダンサーは自然にそうしたことを理解しているのです。その原理とは――
1. すべての動きは相互依存の関係にある。
2. 有害な動きは概ね知らないうちに行われている。
3. 動きは健康や精神状態に大きな影響を及ぼす。
4. 頭部の動きは脊椎運動を支配する。
5. 動きは古い感覚に支配されている。新しい考えで動くことはまれである。
6. 動きは緊張を減らすことで変わる。増やしてではない。
7. 私たちの運動感覚は体内で調整される。
(「ダンス ―― 遥かに上手くなるための秘訣」第1回記事から)
(つづく)
「私とダンスとアレクサンダー・テクニークと」目次
- AT01 不思議な出会い
- AT02 潜入調査開始!
- AT03 ショッキングな体験
- AT04 筋肉を意識的に解放する
- AT05 パートナーは二人必要?
- AT06 動きの原理を知っていますか?
- AT07 あらゆる動きはどこかに影響を与えている
- AT08 原理2と3
- AT09 頭部の動きは脊椎運動を支配する
- AT10 私も魔法を手に入れました!
- AT11 良く出来たときは案外変に感じる
- AT12 頑張らなくていい
- AT13 頑張らなくていい例文
- AT14 当てにならない感覚
- AT15 7つの古典的な誤り
- AT16 自分を世界の中心に置く
- AT17 内なるダンスに向けて
- AT18 協調運動
- AT19 動的な動き
- AT20 力まないダンサー
- AT21 さあ、実験!
- AT22 背骨の可動範囲
- AT23 失われた第6感
- AT24 判断基準が自分にある危険性
- AT25 最終話 難しいのはあなたの古い習慣
- AT26 ダンサーのためのアレクサンダー・テクニーク