KD36 北国ダンサー物語 5章第2話 出発!

投稿者: | 2024年2月24日

5章第2話 出発!

 遂にブラックプールに行く日がやってきました。

 去年の新年会で居酒屋「いらっしゃい」に集まったとき、みんなはクリスマスパーティーで踊ったフォーメーションの感激に浸りながら「またあんなことをやりたい」、「できればもっと大きな舞台で」と言い出したのを受け、千葉ちゃんが一つの考えを示した所、余りにも突拍子もない話だったので、寿美ちゃんが「そんな事できる訳ないでしょ!」と怒鳴ったのは無理のないことでした。

 

 あれから早1年5カ月。いま、みんなはホーツク紋別空港にいます。本当にこの日が来たことを信じられない気持ちで搭乗手続きを済ませると、見送りに来た恵美ちゃんの旦那さんと昭ちゃんと興奮気味に談笑しています。

 やがて搭乗時間となり、みんなは出発ロビーを抜けて飛行機へと歩き出しました。そして、少し歩いたところで振り返ると、空港ビルの屋上に「頑張れ黒池ダンサー!」の横断幕がなびいているではありませんか!

 

 

恵 美: 旦那と昭ちゃんが手を振ってるわ。

美 和: 館長もいるわよ! 

ヤ ス: あの警察官もいる! なんで!

さとし: あの旅人も! なんでだ!

 

 屋上から「行ってらっしゃい!」の大声が聞こえます。メンバーたちも大きく手を振り、深くお辞儀をしました。なぜか涙を流す人もいました。

 

 今日は羽田経由で成田に行き、周辺のホテルで1泊します。翌朝、ブラックプールに近いマンチェスター空港に向けて飛び立ちました。飛行時間は17時間以上かかります。海外旅行が初めての人も多く、しかも、しょっぱなからこの長旅ですから、誰も体調を崩すことなく元気で到着できるか心配でしたが、幸いなことに、そんな心配は無用で終わりました。

 

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 マンチェスター空港を出ると、そこには予約した小型バスが待っていました。荷物を積み込み、全員乗ったのを確認するとドライバーはブラックプールに向けて走り出しました。長時間飛行機の中にいたので、「やっぱり地上がいいね!」などとみんなで話していると、バスがスピードを少し落としながら、対向車線で事故が起きているとドライバーが教えてくれました。

 

さとし: さっそく事故かい。結構大きいな。

ヤ ス: あそこに死体が見えるぞ。

文 次: ほんとだ。

悠 里: いやだ!見ないようにしよ。

良 子: それがいいわよ。 気持ち悪いもの。

 

 事故現場を通り過ぎると、良子ちゃんがぽつんと言いました。

 

良 子: ふと思ったんだけど、「死体」と「遺体」ってどう違うのかしら?

悠 里: ほんとだ。ニュースでは「死体」って言うのが多いんじゃない?

美 和: わたし的には「遺体」っていうと、死んだ人に敬意を払っている感じがしてる。でも、本当はどう違うのかしら?

 

千 葉: 知らんの?

全 員: 知ってるの?

千 葉: うん。

全 員: なに?

 

千 葉: あんまり教えたくないなー。

良 子: 勿体ぶらないで言いなさいよ。

千 葉: 仕方ないなー。教えちゃるか。「したい」は男で、「いたい」は女だよ。

 

 数秒間、バスの中は理解不能の沈黙が訪れ、それから大爆笑が起きました。

 

男 性: そりゃ、いい!

女 性: あんた、ばっかじゃない!

千 葉: 恐縮です。

 

 そうこうしているうちに、バスはホテルに到着しました。遂に黒池ダンスサークルはブラックプールにやってきたのです。

 

 ホテルは大会会場(ウィンターガーデン)から歩いて5分の便利な所なので、ロビーには、一目でダンサーと分かる人たちが散見されます。ここには3日間泊まります。今日はのんびり過ごして時差ボケ解消に努め、明日の準決勝、あさって最終日の決勝を観戦しつつ、ダンスタイムで踊ることにしています。

 

 千葉ちゃんが一人一人のチェックインを手伝っている傍で、寿美ちゃんはしきりに首をひねり、何かを考えている様子です。

 

寿 美: ちょっと待って…、今思ったけど、美和ちゃん、幸ちゃんのフランスのマラソンて、いつだっけ?

美 和: 26日の日曜日です。もう終わってますが、それから何かかんかしてから、確か30日の便でフランスから帰国するはずでよす。

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寿 美: 明日じゃない。幸ちゃん、こっちに来てくれないかしら? 来てくれたら最終日のチャンスを狙えるかも知れないわ。

さとし: そしたら千葉ちゃんの気持ち悪い女装を見なくて済むしな。

寿 美: 美和ちゃん、連絡取れる?

 

美 和: ええ、でも、来てくれるにしても、航空券とか別途お金がすごくかかっちゃうんじゃない?

寿 美: そんなこと、言っていられないわ。主人が集めた会費を当てにしましょう(笑)

ミッチ: チャミちゃん先生、素晴らしい!

美 和: それは素敵な考えね。今すぐします!

千 葉: ちょっと、みんな、一旦落ち着こう!

 

 慌てて千葉ちゃんが制止しましたが、既に繋がった電話の向こうから「任せて!」の大きな声が聞こえてきました。

 

「北国ダンサー物語」(作:神元 誠)