IL04 第1章「まっすぐ立ちましょう」を更に詳しく

投稿者: | 2020年4月23日

「ビル&ボビー・アービンのダンス・テクニック」(白夜書房/神元誠・久子翻訳/2011年)を公開します。原書は2009年に英国のDSI社から出版された”THE IRVINE LEGACY” (Oliver Wessel-Therhorn)です。

 

目次

書籍「ビル&ボビー・アービンのダンス・テクニック」

 

 

第1章 「まっすぐ立ちましょう」を更に詳しく
How the Body Works

 

 

― 脊椎の機能 ―

最初に解剖学の基本的なことを少しお話ししましょう。脊椎は次の5つの部分から成り立っています。

  • 7個の脊椎骨から成る頸椎
  • 12個の脊椎骨から成る胸椎
  • 5個の脊椎骨から成る腰椎
  • 仙骨/一般には5個の脊椎骨がくっついて(癒合)います。
  • 尾骨/脊椎の最後に、人により3個か4個の骨が尻すぼみするようについています。

 

 

 

 

― 脊椎の機能的な意義 ―

脊椎は先に述べた5つの骨組みから成り、それぞれの骨組には多少の動きが備わっています。従って、ダンサーは脊椎のどの部分がどのような動きに関わっているかを知っておくことが大切です。この独特の形をした脊椎全体には柔軟性があります。時に、違う形にさせられることがありますが、その時には動きに制限がかかります。脊椎の形は概ね図1のようになっています。

 

ダンスですべきことは、筋肉を緊張させたり関節を固めたりして頑張ることなく、片足の上で完璧なバランスが取れるようにし、結果、柔軟性を備え持つ体のパーツを自由に最大限に動かせるようにすることです。

 

バランスの取れたラインを作るには、次に示す方法でボディをセットすると可能になります。最初に、脊椎を本来あるべき形に持っていかなければなりませんが、そのために、どの部分から始めるかは重要でありません。なぜなら、連結している部分は互いに反応しあいますし、しかも、脊椎は全体で一つながりの機能を果たすように設計されているのですから。

 

そういうわけで、胸椎の部分からスタートしましょう。胸椎の後にある背筋は余り強くありませんから、ビルの「胃の練習法」を使って、背中に向かって出ている脊椎の湾曲(後弯)を減らす練習をしましょう。それをすることで、胸椎が持つ決定的な役割を果たせるようになります。

 

実は、この胸椎の部分は頸椎に次ぐ大きな回旋領域を備えており、こここそが、ダンスの典型的な動きが起こる場所であり、回旋が最大に達することができる場所なのです。また、胸椎の湾曲を小さくすると、その上についているパーツ、即ち頸椎と頭骨が上にあがり、トウの方向、つまり前方に近づきます。

 

そこからストレッチしていくと、体の前方に出ている頸椎の湾曲(前弯)が少なくなり(軽く顎を引いた状態)、その結果、鼻先が僅かにヒールの方に移動し、図2で示す理想的なバランスになることができます。このバランスになると、もはや頑張ってストレッチしようとしなくても、本来あるべき胸椎の機能を使うことができるようになります。すなわち、旋回機能と横へ動く機能を使うことができるのです。

 

腰椎に関しては、特に腹筋を締め、軽く腹圧をかけることで骨盤の前傾を防止します。骨盤が前傾していると、よく見かける、腰の後ろが引っ込んだ形になりますが、腹筋を締めることで骨盤が起き、その上にある脊椎を最高のスタート・ポジションに持って行ってくれます。

 

 

 

 

 

― 体内エレベーター ― 

万全を期すため、ある非常に複雑なシステムについてお話ししようと思います。そのシステムについては、時に部分的に議論されることがあっても、たいていの場合は話題にも上がりません。しかし私達ダンサーは、そのシステムと他の部分との関連性を含めて見ておくことが大切です。そうしなければ、まったく違った方向へ行ってしまうかも知れないからです。

 

その複雑なシステムを構成しているのは、次の4つの部分です

(1)横隔膜
(2)骨盤隔膜
(3)腹横筋・腹斜筋
(4)腹部後ろ側

 

さて、横隔膜をイメージするには、丸屋根で下のほうが広がっているサーカスのテントを想像してください。そして、横隔膜は筋肉でできていて肋骨下縁に沿ってあり、緊張すると平たくなります。私達の体は、息を吸うと自動的に横隔膜が下がって平たくなり、そうすると、肺の上のスペースが広がって空気が肺に流れ込むようになっています。

 

この横隔膜の同類にあたるのが骨盤隔膜です。骨盤はある意味、先ほどのサーカスのテントをひっくり返したような形をイメージすると良いでしょう。骨盤隔膜の筋肉も、やはり緊張させると平たくなります。

 

横隔膜に緊張を与えた場合、ある種「押しつけるような圧力」が下に伝わり、骨盤隔膜に届きます。反対に骨盤隔膜が緊張すると、今度は骨盤隔膜からの「押し上げるような圧力」が起こって、横隔膜に伝わります。

 

 

横隔膜と骨盤隔膜を同時に緊張させると、非常に大きなプレッシャーが下腹部に生じますが、そのプレッシャーが前後に逃げて行かないのは、深部にある腹横筋・腹斜筋とその反対の背中側にある大腰筋などの働きによります。この、いわゆるお腹の中にかかるプレッシャーの微妙な違いによって、先に述べた骨盤の傾きが少々あっても良いのか、それともニュートラルの位置に戻すべきかが決定されます。極端な場合、腰椎全体が固定されてしまうこともあります。このように、この複雑なシステムは、腰椎の柔軟度を判断し、その判断に従うよう腰椎の上部に伝えます。

 

呼吸により、体内では絶えず上下運動が起きているので、ダンサー達は、このシステムを「体内エレベーター」のような感じと表現します。そして、このシステム内では、腹部のプレッシャーの増減が無意識に行われています。それにより、望むようなダンスの動きをするために、また、そうした動きのバランスを取るためにも必要な柔軟性が脊椎には生まれます。

 

踊っている最中、常に緊張させている筋肉はないという事も覚えておきましょう。

 

ビルは、体を伸ばすときは下から上にしないことを勧めていましたが、それが良く分かると思います。もし初めに骨盤隔膜に大きな努力を払ったとすると、脊椎のスタートの形が違ってしまうからです。脊椎の形が違えば理想的なバランス・ラインは作れませんし、おかしなバランスが上までつながって行ってしまうでしょう。

 

P16(前出「ヘッドの正しい位置」)で示したビル特有な、頭部(乳様突起)と頬骨を抑える方法(下図)を行うと、頭部と頸部にあるおびただしい数のセンサーの感応が高まります。そして私たちは、サポーティング・フットに対する頭部の位置や重さの正確な情報を得ることができるのです。

 

 

 

 

― バランスの探し方 ― 

胴体部分をまっすぐに立てるには、まず、脊椎を伸ばし、骨盤のバランスを取ることが不可欠です。それには、脊椎のすぐ傍にある筋肉の働きが必要となります。それは背中の深い所にある小さな筋肉の集まり(群筋)で、ある群筋は1個の脊椎骨に、また、別の群筋は複数の脊椎骨にかかったりしながら、脊椎に沿って右に左にと、枝編み細工のようになっています。こうした群筋の興味深い所は、小さなものの集まりなので、個々には大きな影響ある仕事をしなくて良いという事です。ただ、非常に統制のとれた形で、個々の脊椎を動かしています。

 

統制のとれた脊椎の働きは滑らかなダンスをする上での必須条件ですが、ひとつ、機能面で知っておいた方が良いことがあります。それは、個々の筋肉は、その筋肉が備える最大の力の1/6以下の力が掛かっている時、理論上、その筋肉は休みなく働き続けることができるという事です。最適なバランス・ラインから僅かに外れてしまうと、こうした筋肉(筋繊維)は何倍もの力を使わなければならず、そうなると群筋は疲れ果て、背中表面についている大きな筋肉に仕事を委ねてしまいます。これは、ダンスの観点からすると、柔軟性のない固まった背中になってしまいますので、良いダンスをしようと思ったなら、背中の深い所にある群筋を目一杯ではなく、必要な分だけ使うことが重要になるのです。

 

では、良いバランス・ラインを探すときの、両足の上にくる骨盤の位置を見てみましょう。静止を保つには、静止に関わる複数の関節のバランスが取れていなければなりません。静止に関わる関節は、股関節、膝関節、そして足首の関節(足関節)です。足関節は二つありますが一つと見なしても構いません。

 

問題は、体の上から下に下りてくる大量の力(ボディ・ウェイト)は、常にこうした関節の曲がる場所(図7のR)をきちんと通過しているわけではないという事です。きちんと通過しないと、僅かなボディ・ウェイトでも関節の中に動き(+)を引き起こしますから、そうなると、体はバランスを取ろうとして筋肉の力を使って打ち消す動き(-)をします。

 

 

バランスが取れているときの股関節の垂線は、股関節の回転中心(R)の前に来ます。上からかかる重さは股関節の曲がった所(+)に降りてくるので、股関節を伸ばす筋肉(伸筋)が働いてバランスを取り戻そう(-)とします。この動作には、二つの筋肉グループの選択支があります。

 

ひとつ目は大きな背中の筋肉。そしてもう一つは膝の曲げ伸ばしに関与し、ハムストリングスと呼ばれる大腿の後ろにある筋肉です。背中の筋肉を使って背中を張りつめると、ムーブメントに大きな支障をきたすので、ダンスではおおむねハムストリングスを使うことになります。ビルは私たちのハムストリングスを捕まえて、その存在を気づかせてくれました。(図8)

 

膝関節におけるバランス・ラインの位置は膝の回転中心の後ろ側にあります(図の白丸)。従って、上からの重さは膝の曲がる動き(+)につながりますが、それに抑止(-)をかけるのが大腿の前面にあり膝を曲げ伸ばす動きに関与している大腿四頭筋です。(図9)

バランス・ラインの終着点は足関節の前になりますので、結果、すねの骨(脛骨)は親指の方へと傾き(+)、すねと足の角度が狭くなります(背屈)。その動きをスロー・ダウン(-)するのは、ふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋)です。(図10)

 

 

 

さて、今まではバランス・ラインの垂線を体の側面から観察してきましたが、片足に立ったときに関係する筋肉とその働きを理解するには、正面からも考察していく必要があります。(図11)

 

図から分かると思いますが、片足のときのバランス・ラインは親指と人差し指の間に降りてきます。先ほどの、すねと足の間に起こる背屈は、足の親指と人差し指の間の上にきますので、すねが前傾するほどに、親指を縮めようとする筋肉(長拇指屈筋)が動き出してバランスの調整をするような仕組みになっています。

 

 

もし、今まで述べてきたようなことが正しく行われれば、体の機能は設計通りに行われます。すなわち、まっすぐに立った、これからボディを前に動かす準備段階の形になります。バイオメカニクスの観点からすると、関節が曲るときの力(トルク)の合計は、ほとんどすべて、関節の前にかかりますが、次に使われる筋肉が僅かに使われて、抑止が働いています。

 

実は、体全体の前進運動を抑止しているのは、足の親指がフロアにかけるプレッシャーなのです。(図12)

 


(「第1章 まっすぐ立ちましょう」おわり)