「ダンサーのためのメンタル・トレーニング」(マッシモ・ジョルジアンニ著/神元誠・久子翻訳/白夜書房 原書名:DANCING BEYOND THE PHYSICALITY)を紹介します。
MT45 第10章 情熱(後半)
Passion
ダンサーは情熱なくして頂点に立つことはできないと思います。おしゃべり上手な人はたくさんいますし、批判好きな人はもっと多くいますが、そこは何らリスクのないところです。情熱は夢を与えてくれるというより、行動を起こさせてくれるので、そこは非常に大きな違いになります。考えた段階で立ち止まってはいけません。実際に体を使って行動することに馴れるようにしなさい。
もし、あなたがダンスに情熱を抱いているなら、過去のことにも敬意を払いましょう。過去に敬意を払わないものは単なる図々しい、無礼者でしかありません。あなた以前にも、あなたと同じように情熱を抱いていた人たちがいたことを忘れてはならないのです。ある人の情熱が他の人の情熱より劣るということはありません。情熱は情熱で、人それぞれ、皆違うのですから。
アルフ・デービス&ジュリー・リービー* は、私には決して忘れることのできないカップルです。私は自分たちのショーが終わってから、お二人に感想を聞かせてもらいました。そのときのお二人の表情をビデオに収めなかったのが残念でなりません。お二人の言葉から、そしてお二人の目から情熱を感じました。お二人のポスチャーは、その昔より綺麗に見えました。
■ アルフ・デービス&ジュリー・リービー(Alf Davies & Julie Reaby):
オーストラリア出身のダンサーで1953 年に外国人として初めて全英プロモダン選手権で入賞。1956 年にはソニー・ビニックを破り優勝を飾る。1956-1957 年、当時ウィンブルドンで開かれていたスター選手権でも優勝。
私はジュリーがタンゴの「ドラッグ」の話をしていたときの目が心に焼き付いています。彼女は私が、何でも体で実験して理解を深めたがる人間だと気づいておられたようだったので、私は、ドラッグを踊ってくださいと頼んだのでした。
皆さん、私が何を話しているか分かりますか? あの、伝説のダンサーに頼んでしまったのです!
あれから何年も経ちますが、ジュリーとの踊りで思い出すのは、彼女の優しい、そして、うっとりするような眼差しです。彼女は実際より30 歳も若く見えました。なんと素晴らしい思い出でしょう。実に美しい女性でした。そして、なんとも素晴らしいエネルギーを私に残してくださったのでした。
私たちは2 時間あまり話をしましたが、20 分位にしか思えませんでした。これこそ、情熱が入り込んだときに起こる現象なのです。そして、彼女と踊れたことを光栄に思いました。
アルフはブラックプールでの出来事を、日にちまで、事細かく記憶しており、もし私の記憶が正しければ、あの世界で最も権威あるブラックプール競技会で、初めてファイナルに入った英国人以外のカップルでした。アルフはそれを、まるで昨日のことのように話すので、私たちも昨日のことのように聞き、遠い昔のことのようには思えませんでした。
人は、昔は今より良かったと考えがちになりますが、その2 時間は決してそうした懐古的なものではなく、今日ではほとんど見ることができない、かつての強さと美しさが出現した生粋のダンスの時間でした。お二人のように、これほど長年にわたって情熱を抱き続けている人はなかなかいないと思います。私が皆さんにお伝えしたいのは、こうした情熱のことなのです。お二人のように、ダンサーとしての真の本質に焦点を当て、人生のほとんどを捧げて可能性を探求し、その可能性に最大限の表現を与える、そうした真の情熱のことなのです。
今日、たいていの場合人々が話をするのは、ダンスの周辺のことばかりで、核心、即ちムーブメントやクオリティについての話はしていません。
この章を、ゲーテ* の言葉で締めくくりたいと思います。彼はこう語りました。「倒れない者が強いのではなく、何度も立ち上がる者が強いのだ」 ― この素晴らしい言葉で思い起こすことがあります。それは、炎のような情熱を持った人間は障害で立ち止まることも、失敗にくじけることもありません。なぜなら彼らには、情熱も個人的価値も与えてくれないような流れに自分を売りとばしてしまいたくなる誘惑よりも、大きな情熱と強い目標があるからです。
■ ゲーテ(ヨハン・ヴォフルガング・フォン・ゲーテ (Johann Wolfgang Von Goethe):1749-1832。ドイツの作家・詩人・自然科学研究家。
まとめ
1, 情熱は夢を与えてくれます。
2, 何をするにも情熱は私たちをもう一押ししてくれます。
3, 情熱は優れた領域へとあなたを導いてくれます。
4, 情熱を秘めた人は皆、特別である。
5, 情熱は日々成長する。
6, 情熱とは金銭を超えたところの感覚である。
7, 情熱とは自分が何をしたいかであって、何をしなければならないではない。
「MT45 第10章 情熱(後半)」
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