MT04 第1章 イリュージョニスト

投稿者: | 2020年2月18日

「ダンサーのためのメンタル・トレーニング」(マッシモ・ジョルジアンニ著/神元誠・久子翻訳/白夜書房 原書名:DANCING BEYOND THE PHYSICALITY)を紹介します。

■目次

 

第1章 イリュージョニスト
Illusionists

この章のタイトルをイリュージョニスト(奇術師)にしたのは、ダンサーもイリュージョニストもやっていることが似ていると思うからです。どちらも効果を狙い、その効果が最大限に得られるパフォーマンスを探し求めるからです。ダンスにおいても、特にペアで踊る場合は、マジックのような瞬間を創ることは可能です。考えてみてください、カップルがホールドを崩さないようにしながら、また、動きが不自然にならないようにしながら、何をしようとしているかを。

見事なイリュージョンを見る度に感心させられるのは、そういうイリュージョニストはイリュージョンを見せる絶妙のタイミングも、その効果も知り尽くしているということです。私たち観客は、目の前で行われているのはイリュージョンで、騙されていると分かっていますが、それでもなお、騙され、驚かされ、引き込まれてしまうのです。

 

このように、ぎりぎりのところまで観客の注意を引きつけておいてから、びっくりさせて虜にする — それこそがイリュージョニストが目指すところなのです。ダンスの競技会も同じだと思いますが、一つだけ見落とせない違いがあります。それは、ダンスにもイリュージョン同様に、マジックはありますが、ダンスの場合、踊りの間中がマジックなのです。ですから、ダンサーたちは踊っている間中、自分たちがしていることへの意識を絶え間なく持ち続けていなければなりません。

 


ダンサーもイリュージョニストのように、観衆に対してどのような効果をもたらしたいか、明確な考えを持っていなければなりませんし、その考え通りの結果が出ることを予想していなければなりません。そうした考えなしに観客の気持ちを捉えることはできませんし、捉えられなければ、成功したとは言えません。

 

イリュージョニストが行なうマジック、そしてダンサーが行なうダンスのマジックとの関係において、その根底には二つの共通要素があります。それは、タイミングを捉えるセンスと意図です。これは、むしろ創り出される効果に対する細やかな思いというべきかもしれませんが、そうしたことを、これからもう少し詳しく見ていくことにしましょう。

 

ダンサーは、その動きをする絶妙な瞬間を感じとらなければなりませんし、臨んだ結果に結びつく身体表現をするタイミングを分かっていなければなりません。個人的には、その瞬間を待っている時間が、とてもエキサイティングで創造的に思われます。体の中にそうしたウキウキした高揚感があると、そこから、強い決断力や、観衆を含めたパフォーマンス全体のコントロールといったものが現われ出てくるのです。それはあたかも、やろうとすることをずっと引き延ばしておいて、最後の最後に観客に見せるというのに似ています。その間、何が起こるかを観客に想像させておいて、それから、観客を幻想の中に取り込むのです。観客の感動を最大限に引き出すには、そのようにして、ここぞというタイミングでアイディアを形として表すのです。一瞬早すぎても、一瞬遅すぎても、そのタイミングを失するとメッセージは伝わらず、マジックは失敗となります。

 


(「MT04 第1章 イリュージョニスト」つづく)