前回は「筋肉の動きに関する科学」で、筋肉は筋繊維という小さな筋細胞からできており、疲れやすい白い筋肉と疲れ知らずの赤い筋肉の二種類がある話まで読みました。さっそくその続きを読んでみましょう。最初は7つの原理と7つの古典的な誤りのおさらいから。
私とダンスとアレクサンダー・テクニークと
AT21 さあ、実験!
ボディ・チャンスの7つの原理 1. すべての動きは相互依存の関係にある。 7つの古典的な誤り 誤1.悩みの部分のみを考え、全体を見ない。 |
ダンス――遥かにうまくなるための秘訣(Dance Wing 55,5回目記事より)
実験してみましよう
まず、ストップウオッチか秒針付きの時計を用意します。アラーム機能付きならベターですね。次に、60秒間両手を前にキープする動作を2回行いますが、大変な人は30秒でもOKです。
1回目:
- 床と水平に両腕を前に伸ばしながら、「これは簡単」、そして「両腕は体を支えるシステムの一部」と思うようにします。
- 更に、周りの空間に意識を広げ、その中に両腕を休めている感じにします。つまり、体のあらゆる部位があなたの両腕を支えるので任せておけば良いと信じつつ、周囲のあらゆる物とコミュニケーションを取るようにします。
- 60秒後に腕を下ろし、腕をどう感じたか、また、上げていた時間が長いと感じたかどうかなどを考察します。
2回目:
- 別のやり方をします。まず、「両手を挙げておくのは大変」と考えます。
- また、空間とか自分の体のことは考えず、腕と腕を支える筋肉のことだけに集中し、「下ろしてはいけない」と、言い続けるようにします。
- 60秒後に腕を下ろし、1回目と同じように、腕の感じ方や時間の長さについて考えます。
私の推測では、2回目より1回目の方が楽だったと思います。なぜなら、あなたの心的態度が1回目では疲れを知らない赤い筋肉を、そして、2回目では疲れやすい白い筋肉を働くようにさせたからです。
思い出してください。どの筋肉にも赤と白の筋繊維があることを。私たちの働きかけ方次第で、赤い筋肉を増やして助けてもらうことが可能なのです。
2回目の方がいつもの自分のやり方に近いと思った人はいませんか? 局部に痛みやズキズキ感がでませんでしたか? なんとなくでも「そう」と思ったならこの先を読んでください。自然の原理に基づいた解決法をお話しします。
自然が設計した骨格
私たちの体は二つの骨格から成り立っており、 ひとつは頭部、胸部、背骨からなる軸骨格と、もうひとつは残りの顎部、肩脚骨部、腕部、骨盤、そして脚部から成る付属肢骨格です。(図参照)
頭部と背骨の骨格はあらゆる動きの中心をなし、あなたが何をしたいかはここで調整されます。一方、ダンスで腕や脚を動かすときのように、腕や脚の骨格は実際の動きを司ります。そのように、動きには前号で“内なるダンス”と書いた協調運動と動きとして目にすることができる動的な動きの二つがあることを知っておくと大変役立つと思います。
繰り返しになりますが、協調運動は常に頭部と脊椎の結びつきであり(ボディ・チャンスの原理4)、動的な動きは腕や脚の動きで、タンゴの素早いネック・アクションもこれに含まれます。
協調運動がコアとなり周辺の動的な動きをサポートしていますので、ダンスでのコアは、まっすぐに立つことに相当します。座ったままや寝たままで踊りませんから、パートナーと二人で踊るにはコアがしっかりしていなくてはなりません。ダンスではそのコアを継続的に使いますから、もしそれを頑張らないでできるとしたらすごく便利だと思いませんか?
実は、自然界の設計ではそれができるようになっており、疲れを知らない赤い筋肉を動員すればよいのです。でも、「まっすぐ立っていよう」、「背を高く見せよう」、「綺麗なポスチャーを取ろう」としたとき、それは既に、自分に一生懸命働くよう話しかけている訳ですから、当然、白い筋肉が動員され、疲れてしまうことになります。
そこで、心構えを変えることが重要になります。
「自分の体が助けてくれるのだ」、
「軸骨格やそこにある筋肉が踊っているあなたを支えてくれるのだ」
と信じるようにすると、そうした心的態度が筋肉の使われ方に劇的な影響を及ぼすのです。
皆さんは「信じなさい」とか「ダンスに身を任せなさい」と言ったアドバイスを受けたことはありませんか? そうしたアドバイスや思考方法には、あなたが想像する以上の効果があるのです。
(「ダンス――遥かに上手くなるための秘訣」第5回記事から)
私レベルの話で恐縮ですが、ホールドするときに「ホールドしよう!」と思うと辛くなりますが、「体が支えてくれる。空間が支えてくれる」と思うと楽になるのが分かってきました。そのときにいつも、「背骨が長くなるとバランスがよくなり、手足が自由に素早く動ける空間が作り出される」という話を思い出します。
私たちはサークルでアレクサンダー・テクニークで学んだ「力を抜く」話を良くしますが、そのとき用いるのが次の例えです。
●通常、人は力を抜いて立っても床に崩れ落ちたりはしません。最低限の筋肉を使って体を支えているからです。その力を抜いている形から、その場で膝や体の力を抜き、酔っぱらいのように体をグニャグニャにしても、両足の上にバランスよく立っていられます(だから、酔っぱらいはなかなか倒れない!(笑))。
●次に、腕や上半身など体の一部に力を入れて同じことをして見るとバランスが崩れ、倒れそうになってしまいます。
この実験から、バランスの良い動きをしようとしたら「力を抜くことが大切」と思っています。
(つづく)
「私とダンスとアレクサンダー・テクニークと」目次
- AT01 不思議な出会い
- AT02 潜入調査開始!
- AT03 ショッキングな体験
- AT04 筋肉を意識的に解放する
- AT05 パートナーは二人必要?
- AT06 動きの原理を知っていますか?
- AT07 あらゆる動きはどこかに影響を与えている
- AT08 原理2と3
- AT09 頭部の動きは脊椎運動を支配する
- AT10 私も魔法を手に入れました!
- AT11 良く出来たときは案外変に感じる
- AT12 頑張らなくていい
- AT13 頑張らなくていい例文
- AT14 当てにならない感覚
- AT15 7つの古典的な誤り
- AT16 自分を世界の中心に置く
- AT17 内なるダンスに向けて
- AT18 協調運動
- AT19 動的な動き
- AT20 力まないダンサー
- AT21 さあ、実験!
- AT22 背骨の可動範囲
- AT23 失われた第6感
- AT24 判断基準が自分にある危険性
- AT25 最終話 難しいのはあなたの古い習慣
- AT26 ダンサーのためのアレクサンダー・テクニーク