前回から「内なるダンス」に入りました。今回はすぐに、その続きの記事に入ります。最後にアルーナス&カチューシャをインタビューした時の話を追記しました。
私とダンスとアレクサンダー・テクニークと
AT18 協調運動
ボディ・チャンスの7つの原理 1. すべての動きは相互依存の関係にある。 7つの古典的な誤り 誤1.悩みの部分のみを考え、全体を見ない。 |
ダンス――遥かにうまくなるための秘訣(Dance Wing 54,4回目記事より)
協調運動
脊椎の上にある頭部の動きこそが、あなたの考える様々なポジションの重要ポイントで、そこはあなたが作り出す、ありとあらゆる動きと調和を取っているところなのです。そこで最初に見直したいのは、“ポジション”とは動きを止めるところとする考え方です。
そのように考えると、自分自身を圧縮してしまう傾向に陥り、ダンスの最中にいらぬ努力や緊張を生み出すことになるからです。
しばしば「ポジションを保つ」という表現を使いますが、それは、もうひとつの繊細な動きをしている「内なる動き」ともいうべき物なのです。
実際のところ、私たちは微動だにしないことはできるのでしょうか? 立っていても座っていても、何かの形を決めているときでさえ、動いていない訳ではありません。呼吸をしている限り呼吸は背骨全体を動かし、その動きは腕にも脚部にも影響を与えています。呼吸がある故にあなたのバランスは常に揺れ動き、決して静止することはありません。
これが内なる動きという物で、私たちは常に動き続けています。あなたが止めたと思っているとすると、それは、繊細な「内なる動き」を意図的に止めようとするため、呼吸の動きは阻害され、不必要な緊張が増し、大切な柔軟性や敏捷性を失うことになるのです。
本当に重要なムーブメントは、あらゆる他のムーブメントの下に隠れている頭部と脊椎の連携した動きにあり、それに気づくこと自体が動きの質の変化につながるでしょう。それにより、前号でお話しした「ひとつにまとまった動き」に到達可能となるのです。これを、次の簡単な実験で見てみましょう。
1.お友達に椅子に座ってもらい、そこから立ち上がる様子を観察しましょう。
2.お友達が立ち上がるとき、頭を後ろに引くため、首の曲がりが少し大きくなるのが見て取れるでしょう。
3.それは、後頭下筋肉が収縮するからです。今度は、そこを緊張させないように立ち上がってもらいましょう。
4.きっと、殆どの人は頭を引かないで立ち上がることはできないことでしょう。
【注意】
頭を後ろに引かない人でも、首の前の筋肉を緊張させたり、頭を動かさないように、色んな筋肉を硬直させたりする人もいますが、それは、先ほどのボディを固めてしまうことと同じになってしまいます。この実験で起こって欲しいことは、後頭下筋肉が頭部を後ろに引くのを止めるよう、緊張を緩めることなのです。
因みに、こうした頭と背骨の動きを調和させる方法はボディ・チャンスで最初に習うことのひとつで、この根本的な動きは、あなたが創り出すあらゆる動きと常に結びついています。
(「ダンス――遥かに上手くなるための秘訣」第4回記事から)
「首を緊張させる」実験は興味深いです。「首」を緊張させると「胸」や「肩甲骨」が固まり、「肩甲骨」を固めると、案外「股関節」の動きも悪くなります。結局は「ボディを固めてしまう」に繋がります。つまりは、「美しく崩れないシェイプ」は「ボディを固める」ことではないわけですから、最初に首の緊張を取り除くことが必要なのでしょうね。
先日、YouTubeで合気道の動画を見ていると、「全身を柔らかく使う。肩甲骨が柔らかくないと下半身が固まって体が使えなくなる」というような主旨の話があり、瞬時に「ダンス――遥かに上手くなるための秘訣」を思い出しました。
■アルーナス&カチューシャのインタビューから(2016年)
前回掲載のアルーナス&カチューシャの「自分を取り巻く空間に対する意識」の話を興味深く読まれた方も多かったかと思います。彼らと話をしていると、ダンスだけでなく様々なことを勉強してダンスに役立てていることが伺えます。
そこで今回は2016年ダンスビュウ10月号に掲載された記事の一部を抜粋して紹介しましょう。きっと、熱心なあなたの役に立つことでしょう。これまで紹介してきたジェレミーさんの話と共通する話も出て来ます。
――世界チャンピオンになるための必要ファクターは?
カチューシャ:今アルーナスが話した夢を持つことだと思うわ。すると夢が目標となるから、それに向かってハードワークするようになるわ。最初に夢がなければノー・チャンスね。
――他のファイナリストたちも同じように夢を抱いていると思います。あなたたちは夢を実現し他の人たちは道半ば……。この違いはどこから来るのでしょう?
カチューシャ:彼らがどんな夢を抱いているか、私たちは知らないわ(大笑)!
アルーナス:どんな職業においても同じ目標に向かっている人がたくさんいて、その中には目標に到達する者としない者がいます。僕たちは自分たちが何をどれだけ努力してきたかを良く知っているけど、他の人たちが同じことを同じようにしているかは知りません。まあ、自分たちには良かったですけどね(大笑)。
――ブラックプールで踊っていて、他のカップルの踊りが気になったり、連覇のプレッシャーを感じたりしませんでしたか?
カチューシャ:とても大切なことをお話ししましょう。ダンスでも他の競技でもそうですが、大切なことは心の中にそうした「不安」を芽生えさせないことです。不安を抱いたままフロアに出てはいけません。不安の気持ちはパフォーマンスを邪魔するだけなので、最高のパフォーマンスができるよう気持ちを集中しなくてはなりません。あなたは二つ抱くことができます。ひとつは「恐れ」、もうひとつは「信念」。でも、どちらも実在のないものですから、自分が選択したものを自分の中に作っているのです。いつでも、どちらを選択するか自分の中で戦わなくてはいけません。
――練習をする際に気をつけていること、また、自分たちならではの独特の練習法などがあれば教えてもらえますか?
アルーナス:まず、体が万全であるように、痛みはないか、おかしく感じる部位はないかをチェックします。カチューシャも僕も健康上の大きな問題がないのでハードワークできるし、デモをするにも競技会に出るのも問題がない。ラッキーだと思います。
カチューシャ:私たちはハードワークしなくちゃならない。だから、自分の限界を知っておくのも大切なこと。でも、限界に挑戦することと、健康を害して心地よくないところまで自分を追い詰めるのとは別のことですよ。最善のパフォーマンスをするには自分の筋肉の良い状態を知っていなくてなりません。何かが変だと思ったら、無理して練習することはしていません。加えて、そうならないための予防にも気をつけています。例えばマッサージ、ストレッチ、針治療などでケアをして、体が悪くなるのを待つようなことはしません。
(つづく)
「私とダンスとアレクサンダー・テクニークと」目次
- AT01 不思議な出会い
- AT02 潜入調査開始!
- AT03 ショッキングな体験
- AT04 筋肉を意識的に解放する
- AT05 パートナーは二人必要?
- AT06 動きの原理を知っていますか?
- AT07 あらゆる動きはどこかに影響を与えている
- AT08 原理2と3
- AT09 頭部の動きは脊椎運動を支配する
- AT10 私も魔法を手に入れました!
- AT11 良く出来たときは案外変に感じる
- AT12 頑張らなくていい
- AT13 頑張らなくていい例文
- AT14 当てにならない感覚
- AT15 7つの古典的な誤り
- AT16 自分を世界の中心に置く
- AT17 内なるダンスに向けて
- AT18 協調運動
- AT19 動的な動き
- AT20 力まないダンサー
- AT21 さあ、実験!
- AT22 背骨の可動範囲
- AT23 失われた第6感
- AT24 判断基準が自分にある危険性
- AT25 最終話 難しいのはあなたの古い習慣
- AT26 ダンサーのためのアレクサンダー・テクニーク