今回からダンスウイング54号に掲載された4回目記事の紹介に入ります。
私とダンスとアレクサンダー・テクニークと
AT17 内なるダンスに向けて
ボディ・チャンスの7つの原理 1. すべての動きは相互依存の関係にある。 7つの古典的な誤り 誤1.悩みの部分のみを考え、全体を見ない。 |
ダンス――遥かにうまくなるための秘訣(Dance Wing 54,4回目記事より)
今回から連載4回目の内容をお届けします。
この連載では、アレクサンダー・テクニークとして知られる F.マサイアス・アレクサンダーの発見に基づいたボディ・チャンスの7つの原理についてお話をしています。
初めの2回ではその概要を、そして前回は「何をするか」と「どのようにするか」の考え方の重要性にスポット・ライトを当てました。4回目となる今回は、ダンスで調和のとれた動きができる現実的な方法をご紹介いたします。
内なるダンスヘ向けて
新しいアマルガメーションを踊っているときなどは特に、正しいポジションに足を置く方法とか、どうしたら脚部や腕、背骨や頭を美しく見せられるだろうかと考えると思いますが、前号でお話ししたように、体の部位をバラバラに考えたり、特定の箇所のみを集中してどうにかしようとしたりするのは間違った取り組み方です。
あらゆる動きはお互いに関連しあっているのですから、常に、全体がどうあるかということに注意を払うのが重要で、あなたが求めるボールルーム・ダンスの優雅な動きは、その延長線上にあるのです。
では、それができるようになる方法は何かという話になりますが、そこで、調和した動きが取れるようになる方法や、体全体でまとまりのある表現ができるようになる方法を見ていきましょう。実際に、すべてのダンス種目に応用できる動きの原理はあるのでしょうか?
あります。その答えはとてもシンプルで1行で説明できてしまいます。その1行とは、
「頭部の動きは脊椎運動を支配する」 ―― です。
これはボディ・チャンスの4番目の原理ですが、1世紀以上も前にアレクサンダー氏が発見したことです。
シエークスピア劇の朗読家だった彼は、ある夜、朗読の舞台の上で声が出なくなりました。朗読家としてこの問題はとても深刻ですから、その後の仕事を引き受けて良いかどうかも悩み始め、彼の仕事は危機に面しました。
そこで、知性を頼りに自分を観察してみると、朗読しているときだけ声が枯れることに気づいたのです。しかし、単に人と話しているときの声は大文夫でしたので、朗読のときだけ、普段はしていない何かおかしなことを体に対して行っているのではないか、と考え始めたのでした。
そこで、3つの鏡を用意し、丹念に自分自身を観察していくと、徐々に問題が見え始めてきたのです。朗読のときに頭を後ろに引くため、背骨の湾曲部を圧迫し、背も低くなっていることに気づいたのです(図参照)。そうしないよう気をつけていると、動きながら朗読していても声が出なくなることはなくなったのでした。
(「ダンス――遥かに上手くなるための秘訣」第4回記事から)
頭部を意識することを学んだ後で、世界のダンサーたちの踊りを見ていると見えてくるものがありました。ラテンでもボールルームでもトップ・ダンサーの頭は軽く浮いていて、背骨との連携が見事に自然なのです!
前回のブログを書きながら考えていたことをお話します。
●「どこかひとつの動きは、そこだけで起こっている訳ではない。
脚部を動かせば頭部にも背骨にも、腕の動かし方にさえ影響を与えている。
どこを動かすにも全体に注意を払うことが重要になってくる。」
「どこかひとつ」には、見落としがちになるかも知れませんが、「目」も含まれると思います。
例えばスタンダードで、どこか一点を見ていると踊りを阻害することがあります。スタンダードでは大なり小なりの回転運動絶え間なくあり、ボディの中で背骨が回転を続けているので、その最中にどこかを見つめていると、その「見る・見つめる」行為が回転運動にブレーキを掛けることがあります。
そこでサークルでは、「特にナチュラル系の動きでは背骨に合わせて右を見続ける」と話しています。これが出来るだけでもすごいことだと思いますので、サークルで上達しようと思っている人は是非やってみて下さい。
●「自分のボディの中にも、パートナーとの間にも、
はたまた、あなたを取り巻く環境との間にも意識の境目を作らない」
確かに、ダンスを始めたばかりの人の動きは、男性も女性も自分だけのことで精一杯なのが良く分かります。経験者になると少しは相手のことも考えているのが見えますが、ここで気を付けなければならないのは、「リードをしようとする」や「リードを聞こうとする」は、必ずしも「相手のことを考える」、すなわち、ジェレミーさんが話す所の「パートナーとの間にも境目を作らない」と同義語にはならないことです。
■アルーナス&カチューシャの意識の広さは
「自分の内と外に境目を作らない」や「互いに相手を包み込む」話はとても深いので、私たちは「世界のトップ・ダンサーの空間に対する意識は、どこまで広いのだろう」と興味を抱き続けていました。
2016年7月、ダンスビュウからアルーナス&カチューシャ(Arunas Bizokas & Katusha Demidova)のインタビューをするお仕事を頂いたとき、これ幸いと「その」質問をしましたので、ここでそれを紹介しましょう。
なお、メインのインタビュー内容はダンスビュウ10月号に掲載されましたが、下の「この」部分はプライベートな話に近かったので割愛しました。
――時間も押し迫ってきましたので、最後にこの質問だけさせてください。お二人のトップが非常に静かで床の上に漂っているように見えると話しましたが、踊っているとき意識している二人を取り巻く空間の広さはどのくらいの大きさですか?
アルーナス:スペースとしてはできる限り広いものを意識しています。バランスがしっかり取れているという前提で。例えば二人の間の空間の場合ムーズに動けなければいけません。
――踊っている自分を見つめる自分はどの辺ですか? 胸の中? 頭の中? 頭上少し上? それとも…
カチューシャ:私は心の中で自分を感じ、それを見つめる自分は頭上のずっとずっと高い所からよ。
――やはりそうですか。お二人が意識する空間がとても大きく感じたので、質問させて頂きました。また、ブラックプールの大会を見ていて、カチューシャのネック・アクションが非常に正確で速く、どこをとっても完璧なワンユニットに見えました。(注:今までもお二人と色々深い話をする機会があり親しくなっていたので、このようにフランクな個人の印象を話しました。(汗))
アルーナス:そこの点も僕たちがずっと追求し続けてきたことなんだよ。一体感をどう作るか。
目の前の空間だけでも精一杯な私は、このブログを書きながらジェレミーさんの記事と並行して二人のインタビュー記録を読み返す機会を得たことを幸運に思いました。
(つづく)
「私とダンスとアレクサンダー・テクニークと」目次
- AT01 不思議な出会い
- AT02 潜入調査開始!
- AT03 ショッキングな体験
- AT04 筋肉を意識的に解放する
- AT05 パートナーは二人必要?
- AT06 動きの原理を知っていますか?
- AT07 あらゆる動きはどこかに影響を与えている
- AT08 原理2と3
- AT09 頭部の動きは脊椎運動を支配する
- AT10 私も魔法を手に入れました!
- AT11 良く出来たときは案外変に感じる
- AT12 頑張らなくていい
- AT13 頑張らなくていい例文
- AT14 当てにならない感覚
- AT15 7つの古典的な誤り
- AT16 自分を世界の中心に置く
- AT17 内なるダンスに向けて
- AT18 協調運動
- AT19 動的な動き
- AT20 力まないダンサー
- AT21 さあ、実験!
- AT22 背骨の可動範囲
- AT23 失われた第6感
- AT24 判断基準が自分にある危険性
- AT25 最終話 難しいのはあなたの古い習慣
- AT26 ダンサーのためのアレクサンダー・テクニーク