前回、ダンスウイング52号の連載2回目が始まりました。ジェレミーさんのお話からハッと気づかされることが多いですが、実はシンプルで当たり前のことばかりと思いませんか? 「それはそうだ」と思える箇所では、私の翻訳を自分の親しんでいる言葉に置き換えてみるのも良いかもしれません。
私とダンスとアレクサンダー・テクニークと
AT10 私も魔法を手に入れました!
■私も魔法を手に入れました!
私たちもアレクサンダー・テクニークに通っているとき、この四つ這いの実験をさせられました。妻は四つ這いになった私の頭を支配し、好きなように動かして楽しんでいました(笑)。頭部を支配されると本当に思ったようには動けません。
この話になるといつも思い浮かべるシーンがあります。それは、時代劇や昭和の初めの映像で、悪いことをした子供の耳を母親が捕まえて叱っているシーンです。完全に子供をコントロールしています。
「どんなものでも頭部が前にある」の話を考えていると、「ちょっと待って。オウムガイは後ろ向きに進んでいるよね!」などという考えが湧いてきましたが、まあ、何事にも例外はあるものです。それ以外の動物で後ろ向きに進むのは思い浮かびません。確かに、頭が先頭になって動いています。
私のライズに対する考えが変わったのは、「頭部が体を連れて行き、その間、背骨や脚部の筋肉が力を出して動けるようにしています」の、この一文を読んでからだった気がします。
それまでライズするときは「下から上に」、つまり、
【足で床をプレス】 → 【フット&レッグ・ライズ】 → 【ボディ・ライズ】 → 【ライズ完了】
の考えでした。
この考え方はダンス界で広く使われている気がしますが、私の場合、どうもライズしたバランスが悪く、そのバランスを調整するため首に力が入っていました。そこで、「頭部が体を連れて行く」考えを応用し、
【頭が上がろうとする】 → 【ボディ・ライズする】 → 【フット&レッグ・ライズする】 → 【ライズ完了】
のようににすると、それまでよりライズがずっと楽に、かつ、安定するようになりました。しかも以前よりライズが高くなりました。
ライズが変わると同時に、「頭部」を意識すると他の様々な動きが、それまでより遥かに軽やかになったのですから、ジェレミーさんの言うように、確かに「魔法」を手にしました!
今では、サークルでもこの考え方を教えていますが、なかなか効果的です。同じライズでも「頭からライズする」と体全体が軽いのです!
このライズの仕方を、以前に頂いた質問に答える形で詳しく説明します。
Q.
なかなかつま先で立てず、立てても持続ができません。持続させるにはどうすればいいでしょうか。 (神奈川県 女性)
A.
実は、「ヒールを上げて」トウに上がろうとするだけでは、バランスが崩れることが多くあります。「ヒールを上げる(フット・ライズ)」する際は、「ボディ・ライズ」を伴わないと上半身と下半身のバランスが取れないため、トウで立つのが困難になるのです。
■下から積み上げるより最初に頭を浮かせる気持ちで!
ここに4つのブロックと1本の紐があります。
4つのブロックを真っすぐ積み重ねるのと、紐を真っすぐ垂らすのでは、どちらが簡単でしょう?
答えは聞くまでもありません。ブロックを重ねる場合、前後左右のずれを確かめながら作業しなければなりませんから、慎重さが求められ、時間もかかります。もし、一つがずれると、次のブロックは逆の方にずらさなければ崩れる危険性が出てきます。しかも、その時点で4つのブロックは真っすぐではなくなっています。
ダンスでも同じで、両脚部から始まり腰 → 胴体 → 頭の順に真っすぐしたつもりなのに、先生から「真っすぐ立って」とか「曲がっている」と注意を受けることになります。これは、自分で気づかないどこかでずれが生じているからです。
紐の場合は別です。紐の片端を持ち上げれば、スルスルっとまっすぐな紐ができあがるのですから。この持ち上げられた紐のように、自分の頭を持ち上げ、その下に胴体→腰→両脚部がぶら下がるイメージを持つと、楽にまっすぐな姿勢を作ることができます。
■すべての筋肉に協力してもらう
難点は紐の様に誰かがつまんで持ち上げてくれるのではなく、自分でやらなければなりません。それに、頭だけで持ち上げることはできません。では、どうするか?
上にあげようとする頭を、その下にある首から足先に至るまでのあらゆる部位の筋肉にサポートしてもらいます。一部の筋肉(例えば首とか胸)だけに頼ると歪みを生じますし、どこか一カ所でも休んでいると、それも歪みを起こします。
コツは、最初に「頭が浮いて行く」とイメージします。
次に、そのイメージを実現するために、あらゆる筋肉に最小限の協力をお願いします。体全体で、最小限の力で立とうとすることです。そうすると、力まず、バランスのよい姿勢ができあがります。
この「最小限の力で」は「ビル&ボビー・アービンのダンス・テクニック」では、「完璧な形とは、最小限の筋肉を使いつつ安定していられる垂直な形の事です」という言葉で説明されています。
頭が体全体に向けて「ライズするよ」とメッセージを発信するや否や、足先から首までのあらゆる筋肉が「了解! 任せて!」と、瞬時に協力すると軽やかなライズができます。「瞬時に」ですから、頭と体の連携に一瞬でも時差ができると、歪みが生じるので注意しましょう。
■足だけでライズすると重くなる
分りやすい実験として、足だけ使って、その場でライズしてみて下さい。きっと、体が重く感じられると思います。これが「下から積み上げる作業」で、かつ、「一部の筋肉だけ」に働いてもらった形です。
この実験をすると、「頭から上がる」、「頭の下に体が吊り下がる」方法が理に適っていると納得されることでしょう。最初に頭頂部から上がる練習をしてください。
■足首が硬い人へのアドバイス
足首が硬くてヒールがあまり上がらない人は、高く上がろうとするより、バランスを取る方に集中しましょう。まず、首、肩、肘の力を抜き、股関節を楽にします。それからバランスの取りやすい目線の高さを探すと良いと思います。
足首が硬いと思っている人は、トウに上がったら「足の甲を前に出す」と思ってみてください。考えていた以上に高く上がることでしょう。
このように、何かのアクションをするとき、その方法はひとつと限定せず、別の形からアプローチしたり考え方を変えたりしてみると、楽しい結果が待っていることがたくさんあります。自分でも工夫してみましょう。
◇ ◇ ◇
頭の話から足まで来てしまいましたが、次回はきちんとアレクサンダー・テクニークに戻りますからご安心を。
(つづく)
「私とダンスとアレクサンダー・テクニークと」目次
- AT01 不思議な出会い
- AT02 潜入調査開始!
- AT03 ショッキングな体験
- AT04 筋肉を意識的に解放する
- AT05 パートナーは二人必要?
- AT06 動きの原理を知っていますか?
- AT07 あらゆる動きはどこかに影響を与えている
- AT08 原理2と3
- AT09 頭部の動きは脊椎運動を支配する
- AT10 私も魔法を手に入れました!
- AT11 良く出来たときは案外変に感じる
- AT12 頑張らなくていい
- AT13 頑張らなくていい例文
- AT14 当てにならない感覚
- AT15 7つの古典的な誤り
- AT16 自分を世界の中心に置く
- AT17 内なるダンスに向けて
- AT18 協調運動
- AT19 動的な動き
- AT20 力まないダンサー
- AT21 さあ、実験!
- AT22 背骨の可動範囲
- AT23 失われた第6感
- AT24 判断基準が自分にある危険性
- AT25 最終話 難しいのはあなたの古い習慣
- AT26 ダンサーのためのアレクサンダー・テクニーク