3章第4話 漢・千葉ちゃん?
玲 子: なんかあったの?
寿 美: 結婚するとき、私の両親がなぜか頑として許さなかったのよ。
千 葉: 俺が悩んでいたら、有難いことに、会社の社長が「私に任せなさい」って言ってくれてね。「私は何十カップルも仲人しているのですよ」と意気揚々行ったんだけど、しょげて帰ってきて、「こんな両親見たことない…」って。
寿 美: この人の友達カップルが「千葉ちゃんは本当に好い奴なんです」と説得しに来てくれたんだけど、それもてもダメ。
千 葉: 遂に両親と姉が挨拶に行ってくれたんだけど、玄関払いよ。
恵 美:何でそこまで反対されたの?
千 葉: それが全く分からないんだ。
佐 藤: 大変だったな。俺なんか楽勝よ。「恵美ちゃんと結婚させてください!」って言ったら「返品なしよ」って言われた位よ。
恵 美:それもひっどい話だけどね。(笑)
千 葉: そしたら、別の友達が「俺は土下座してやっと許してもらった。これは絶対効くからお前もやったら」って言うんで、藁にもすがる気持ちでやったさ。玄関先で土下座して「お嬢さんと結婚させてください」って…
純 子: ホントにやったの! 漢らしい! そんな人見たことないわ!
恵 美: そこまでするなんて、チャミちゃん先生も幸せですね。
美 樹: そうやって二人は結ばれたのね。
寿 美: いや…。
全 員: えええーー!
千 葉: そしたら、土下座してる俺の頭の上で、親父さんが呟いたのよ…
純 子: なんて…?
千 葉: 「わざとらしい」…って。
美 和: ひどいーー! ひどすぎる!
佳 純: それじゃ千葉ちゃん、可哀そう過ぎる! 涙でてきたわ。
女性たちは本気で泣き出している。
純 子: で、どうなったのよー?
千 葉: で?
と、千葉ちゃんは一息ついて勿体ぶってから、
千 葉: で ―― 俺はじーっと土下座したまま、「ばれたか」って思ってた…
軽蔑の笑いが起きた。女性たちは涙を拭きながら千葉ちゃんを叩く素振りをしている。
美 樹: なによ、それ! 結局どうなったのよ?
彼女の頬はまだ涙で濡れています。
寿 美: …家を出ちゃった。
美 樹: 駆け落ち!?
寿 美: そんなとこね。
純 子: かっこいい!
美 和:素敵な話ね!だから、誰にも結婚の案内がなかったのね。
女性たちが「キュン」として盛り上がっている所にヤスが突っ込んだ。
ヤ ス: な、そこよ。お前が真剣にやっても、なんか、伝わってこない。それが問題だよな。チャミちゃん先生、何で、こんな奴と一緒になったの?
寿 美: …顔…?
大爆笑の中「その冗談だけはやめましょう」の容赦のない声が上がっている。
千 葉: いい加減にしろ! 話を戻すぞ。
河 合: どこまで行ったっけ?
千 葉: だから、ものすごく広いってことさ。しかも、僕らはド素人の年寄り。バカな日本人と非難されるかも知れない。だから、下手でも下手なりに、年寄りでも年寄なりにやる中で、それでも人を惹きつける作品と踊りにしなければならない。つまり、フロアをいかに「〇〇ジャック」(ひそひそ声)するか、そしてアピールする作品が作れるか、この二つがポイントだな。
さとし: それできるのか?
千 葉: 分からん。だけど、まだ話せないけど考えが湧いてきそうな気がしてる。振り付けは何人参加できるかで全然違ってくるから、ブラックプールに行くと決まり、人数が確定したら、このふさふさした頭を絞って考える。
ミッチ: だいぶん薄いから、「ほとんど無理」って言ってんだべな。
またみんなが笑った。しかし、みんなの笑いとは別に、寿美の目は猛然と輝きだしていた。
寿 美: それ、ちょっと、大きなギャンブルかもしれないけど、できるかも!
ああ、私、そのアイディアに興奮してきたわ。それに、もし、いや、きっとダメだと思うけど、その場合でも、そのフォーメーションは、帰ってきてから、また、上から読んでも下から読んでも同じ「旭川市の市川旭」先生のパーティーで披露させてもらえばいいしね!
それ、いい!! やろー! やりたいー!!
あーあ、私ったら、すごく真面目な人だったのに、あなたと一緒になってから少しテキトーになって、ここに越してきたら、もっと酷くなってしまったみたい!
寿美がこんなに立て続けに喋ることは滅多にない。それだけ、興奮している証拠だ。
美 樹: 発言の一部に異論あるけど、イギリスに行くの賛成!
千 葉: ありがとう。今は賛成と思っても、ゆっくり考えたら、いろんな理由で行かれない人が出てくるかも知れない。だから、またみんなで集まって話し合おう。やるとなったら、来年5月に向けての1年5カ月、猛練習だ。
さとし: どっちに転んでも、練習再開でいいんだよね。ほら、みんなもお願いして!
全 員: チャミちゃん先生お願いします!
寿 美: やりましょう!
千 葉: 俺もいるって…。
さとし: ほら、また、こぼしてるぞ。
こうして、この無謀な千葉ちゃんの企画はスタートすることになった。目指すは来年5月のブラックプール。それまでには旅費を貯めなくてはならないし、ツアーの予約もしなくてはならない。会場近くのホテルは1年前から埋まってしまうこともあるので、早い所、仮予約を入れなくてはならない。なによりも、フォーメーションの構想を考えなくてはならない。やることはたくさんある。
「北国ダンサー物語」(作:神元 誠)
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