第3章 再びフォーメーション? 第1話 元旦の千葉家
今回から第3章に入り、物語後半になります。
「そんなに書くほど馬鹿話があるのか」と驚く向きもおられるかも知れませんが、そういう生活をしているので、実はあるのです。
それはさておき、聞いてください。
私はこの年になっても月に2回ほどサルサを踊りに都内に出かけているのですが、先日、久しぶりにKeikoさんとお会いしました。因みにサルサでは、本当の名前かどうかは別として、ニックネームやファーストネームを使う人が多いです。私も時として名前を尋ねられることがあります。大抵は本名を名乗りますが、たまに、遊びで「ただのです」と伝えることがあります。とんでもなく違う苗字ですよね。
そして、「只野さんですか?」と確認されると、こう答えるのです。「いいえ。ただの、おじさんです」(笑)。
話を戻すと、そのKeikoさんが、踊り始めるとこう話してくれたのです。
「あの話、面白いわね」と!
いや~、泣けました。こんなところにも「北国ダンサー物語」を読んでくださっている人がいるとは!
「こりゃー、頑張って書き続けるぞ!」、
「そして、映画化だ! ドラマ化だ!」
「そして、社交ダンスを盛り上げんだ!」
「サルサも盛り上げるぞ!」
「故郷紋別に恩返しだ!」
との思いを強くした次第でした。
「えっ、なぜサルサが入ってくるの?」ですって? それは最後のお楽しみにしてください。
「映画化」は自分でも夢みたいな話と思っていますが、何事も挑戦しなければ始まりませんし、挑戦しないで終わってしまう方が人生に悔いが残るに違いありませんからね。
手元に「生命の暗号」(村上和雄著/サンマーク文庫54)という本があります。どうしてこの本を買ったのか思い出せないのですが、そこに見つけた言葉が、今の私の背中を押してくれています。
・何かに取り組むとき「余計なことを知らない」ことは重要である。
・熱烈な思いは天に通じる。
長々お喋りしました。話を急いで物語に戻しましょう。もう、お正月が来てしまっているのですから!

第1話 元旦の千葉家
1年の始まりと言うのに二人して少し朝寝坊しました。でも、全然気にしなくて良いのは、年老いた二人だけの生活の良い所です。
寿 美: この町で迎える初めての新年ね。今年もどうぞよろしくお願いいたします。
千 葉: こちらこそ、よろしくお願いします。一緒に黒池町に来てくれてありがとうね。去年は面白かったね。
寿 美: ほんと。なんか、楽しんだわね…
などと言う会話を数時間前に交わし、今、のんびりしている所にドアフォンが鳴りました。寿美が出ると、ドアフォンから「俺です」の声。
寿 美: 合言葉を言え。「鶴は煎餅!」
ドアフォン:「かめませんねん」
寿 美: よし、入れ!
これが初笑いとなりました。千葉がニマニマしながらドアを開けにいきました。
千 葉: おお、ミッチ。どうした?
さとし: 俺もいます。
美 和: 私もいますよ。
佳 純:私もね。
千 葉: 見えてるって。どうした、元旦から。なんかあったのか?
ミッチ: いやいや、きっと、あんたら退屈してんじゃないかって、みんな話しててさ。
千 葉: 全然してないけど…
さとし: きっと、俺たちの顔、見たいに違いないって。な?
美 和: それなら、行っちゃるかって。
千 葉: それは、気、遣わしちゃったね。まあ、上がってくれ。
皆が上がりこむと、一応礼儀正しく正座して新年の挨拶を交わしました。
寿 美: ごめんなさいね。二人だけと思っていたから、御節も殆どないのよ。
ミッチ: チャミちゃん先生、心配いりません。
さとし: 実は、新年会やろうって話になりましてね。
千 葉: ちょっと待て。この間、打ち上げやったばかりじゃん。忘年会兼ねて。
ミッチ: 内地は分からんけど、ここでは、忘年会と新年会は別物なんですよ。
寿 美: あらら…
さとし: そんな訳で、4日に新年会をやることになりまして、これが招待状です。
と、なにもない招待状を渡す振りするさとしちゃんと、それを拒む千葉ちゃん。
さとし: この町では拒否できない「しきたり」になってますんで。
千 葉: じゃ、しぶしぶ受け取らせてもらいます。
と、千葉ちゃんが受け取る振りをしました。
先ほどから「クッ、クッ」と笑っていた寿美ちゃんでしたが、ここにきて本格的に吹き出してしまいました。
寿 美: あなたたち、本当に仲がいいのね。
美 和: 3年F組だからねー。チャミちゃん先生だって東京にいるでしょ?
寿 美: いるけど、「ここまでのは」いないわー。
と、一人、意味ありげに大笑いです。
佳 純: その笑い、どういう意味ですか?
元旦の昼時、外は小雪。
外まで広がる笑い声に、小雪が踊って見えます。
「北国ダンサー物語」(作:神元 誠)