2章第5話 「内回りと外回り」の勉強
美 和: なんか、踊ってて棒みたいに感じるのよね。
寿 美: 二人で踊るときの回転には、内回りの人と外回りの人がいます。例えばナチュラル・ターンの前半では、女性が内回りで男性は外回り、後半は女性が外回りで男性は内回り。これ、分かりますか? じゃあ、内回りと外回り、移動距離が大きいのは?
少し考えてから ――
全 員: 外回り。
寿 美: そう。外回りは移動距離が大きく、その分スピードも速い。それに対し内回りは移動距離が小さく、スピードが遅い。なので、内回りでは頑張らないのが大切よ。
そこに、館長さんが「ちょっと見学」のジェスチャーで入ってきました。みんなが「どうぞ」と軽い会釈をしました。館長さん用の椅子は既に用意されています。寿美の話が続きます。
恵 美: でも、踊っているとき、自分が内回りか外回りか考えてる暇ないです。
千 葉: ナチュラル・ターンとリバース・ターンにおける内回りと外回りの共通項は何だろう? 単純な共通項はないかな?
みんな、少し考えこんでいます。すると幸ちゃんが答えました。
幸 子: 分かった! 後退が内回り!
千 葉: 大正解! つまり、自分が「バックする」と思ったら、それは内回り。バックでは、頑張らないようにするんだ。
寿 美: では、実際に組んでやってみましょう。踊るのはナチュラル・スピン・ターンからリバース・ターンの4~6に繋げ、中央斜めにリバース・ターンよ。これを踊りながら、バックの人は「バック!」と大きな声を出すわよ。さん、はい!
一斉に動き出し、「バック!」の大きな笑い声が響いた。
さとし: 踊りやすくなった。
悠 里: けど、ナチュラル・スピン・ターンの後半がちょっと分からなかった…。
寿 美: あら、どうしたの?
文 次: 前半は女性が内回りで、後半は男性が内回りだべさ。
悠 里: だけど、5歩目あたりからバックに感じるのよ。
文 次: そういえば、男性も4歩目は後退だけど5歩目は前進だな…。
寿 美: すごい所に気づいたわね。ナチュラル・ターンと違って、スピン・ターンでは、男性は4歩目を控えめに後退してピボットしたら5歩目は前進、つまり、外回りなので積極的に。女性の4歩目は前進の外回りなので積極的に出て行くけれど、5歩目後半はバックする形の内回りだから、4歩目の勢いを消さないとだめなの。
悠 里: あそこで4歩目と同じ勢いで踊ってるので、男性を引っ張ってしまうのね。
寿 美: そう! 素晴らしい! じゃあ、パートナーを替えて、もう一度踊ってみましょう。バックする人ははっきり「バック」と声に出すのよ。そして、そこでは頑張らないようにしてね。
皆が一斉に踊り始めると、「バック!」の声が響き渡りました。そして、踊り終えると、喜びの声をあげながらハイタッチする人まで出てきました。
ミッチ: 内回りと外回り考えてるだけで、全然違う。ゆったり踊れてベテランになった気分だ。
佳 純: もしかして、これが「楽して上達する」ってことなの?
千 葉: それ、それ! 知識を持つ。原理を理解する。それだけで動きが楽になったっしょ? 分かってくれてありがとう。
一つ知識を得た黒池のメンバーは、一つ上手になっていくのでした。
「北国ダンサー物語」(作:神元 誠)
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