「#006 ワルツレッスン雑学1 ラウンド・ワルツ」をフェイスブックで紹介したところ、それを読んでくださった方から質問をうけました。今回はその質問について考えてみました。
【TSさんの質問】
ラウンドワルツ:知りませんでした。大変興味深く拝見いたしました。TempoやHoldは違いますが、基本的な踊り方は、Viennese WaltzのReverse Turnと理解してよいですか。昔からフォークダンスなどで踊られるワルツはほとんど右回りだけでしたから、それに対するアンチテーゼとして、左回りのみで踊ってみた、ということでしょうか。(以下省略)
記事を読んでくださり有難うございます。私なりの考えがやっと整理出来ましたので、それをお伝えします。
1.ラウンド・ワルツの踊り方
「ワルツレッスン雑学」記事の添付動画に見るように、踊り方はテンポが違うだけで、ヴィニーズ・ワルツと同じと考えて問題ないと思います。
2.ラウンド・ワルツという名前
私がラウンド・ワルツの名称を知ったのは、書籍 “The Irvine Legacy” (by Oliver Wessel-Therhorn) です。この本の翻訳をしていた時、内容に理解できないところが数か所あったのですが、幸い所有していたビル・アービンのレクチャーDVDで何とか解決した経緯があります。(「ワルツレッスン雑学」の記事の中で一部紹介しています)
この本の中でオリバーはアービンと同じように、「彼らが踊ったのは“ラウンド・ワルツ”と呼ばれるワルツでしたが、このワルツでは左回転しかありませんでした!」と説明をしていることから、彼もこのDVDも参考にしていたと思います。(参照:IL18 第12章 ダンスの歴史を少々(ワルツ))
私自身は、他の資料の中にラウンド・ワルツの名称を見出せずにいますが、ジョセフィン・ブラッドリーとビル・アービンは現在のワルツが出来たときの証人ですから、ラウンド・ワルツという表現は確かにあったのだと思います。その一方、ラウンド・ワルツはロータリー・ワルツと同じではないかとも思っています。その理由は3の添付資料を参照ください。
3.なぜ左回転ばかり? フォークダンスのアンチテーゼ?
フォークダンスで右回転しているとき、ラウンド・ワルツの様にクロース・コンタクトで踊っているでしょうか? もし、クロース・コンタクトをしていないなら、踊り方は同じにならないので「フォークダンスの右回転に対するアンチテーゼ」ではないと思います。
“Modern Ballroom Dancing” (by Victor Silvester) の中に次の一節があり、ここから、ラウンド・ワルツはロータリー・ワルツと同じではないかと考えている訳です。また、ここには、ロータリー・ワルツにナチュラル・ターンが不在の理由も書かれています。参考になれば嬉しいです。
(「1918年からはじめての「世界」へ」より)
その頃ヘジテイションを入れたロータリー・ワルツが踊られていましたが、かなりのリバース・ターンが使われる一方、ナチュラル・ターンの不在が眼につきました。その理由は一風変わっていました。当時は誰も彼もがフォックストロットを踊っていたのですが、初期のフォックストロットではナチュラルの方向には全員がオープン・ターン(フォックストロット・ターン)を使っていましたが、リバースの方向には大半ワルツのリバース・ターンを用いたのです。その結果、ワルツを習った事がない人たちでもリバース・ターンは踊れましたが、ナチュラル・ターンは踊れるようにならなかったのです。
この説明は私には少しわかりましたが、「右回転不在」の理由としては十分ではない気がしています。そこで、以下のことを考えているわけですが、ここからは完全に私の推測であることを前提で読み進めて下されば幸いです。
再びモダン・ボールルーム・ダンシングの抜粋を紹介します。
18世紀の終わりから19世紀の始めにかけてのワルツは、一般的に3/8拍子の音楽で踊られていましたが、まだ、順番が決められた踊りでした。カップルは部屋の周りに立ち、お互いに相手とホールドしましたが、通常は手を取るのみです。そして数種類のフィガーを使いました。
現代のようなホールドをするワルツのルーツは1812年頃の英国に見ることができ、それは「魔弾の射手」や「オベロン」で知られるカール・マリア・フォン・ウェーバーと言う作曲家が、あの有名な「舞踏への勧誘」を書いた頃で、(以下省略)。
ワルツはとてつもない反対にも遭遇しました。‘英国社会においてドイツのワルツが紹介されたときほど大きな反響を巻き起こした事件はなかった’と、当時の人が書いています。‘人々の間には不安が広がり、ワルツをけなし、母親はワルツを禁止し、そして総てのボールルームは反目と論争の舞台となり、嫌味な意見が飛び交い、公共の場に掲げられた風刺文には、若い女性はそうしたレクリエーションを思いとどまるようにと書いている’と。
(「1 ふたつの技術の発達」より)
動画のトニー&アマンダの左回転を観察すると、前進する人の左足は相手の右足付近か外側にステップしていますが、もし、このホールドのままイン・ラインで右回転しようとすると、前進する人の右脚がパートナーの両脚の間に入ることになります。男女が抱擁する形で踊る最初のワルツが出てきたとき(オリバーの本には1917年とあります)、世間から大いなる非難の声が上がったくらいですから、そのホールドで、そして、イン・ラインで右回転し、前進する者の脚が相手の両脚の間に入る形は到底世間には受け入れられないものではなかったのではないでしょうか。故に、左回転がメインになったのだと私は推察します。
ここに “DANCE OF TO-DAY”という1914年に発行された本があります。
その中に、THE CASTLE WALK の説明があります。
最後の部分はこうです。
Backing the lady was considered exceedingly bad form only a few years ago, but now, with the introduction of the new dances, everything has changed and it is “quite the thing.” Yet a step taken backward is much more difficult than forward, and it has always been customary for the man to take the most difficult part of the dance.
(機械翻訳)女性にバックさせることは非常に悪いことだと考えられていましたが、今では新しいダンスが導入されてすべてが変わり、「かなりのこと」になっています。 しかし、後ろに一歩を踏み出すことは、前に進むことよりもはるかに困難であり、男性がダンスの最も難しい部分を踏むのが常に慣例となっています.
「女性にバックさせることは非常に悪い」とあり、後退の難しさも理解できますが、どの時代のどのような踊りであっても、多かれ少なかれ女性後退の動きはあったと考えると、この一文は説得力がないことになります。しかし、「バック」というより「バックさせたときの男女の形」を指していると捉えると、話は大きく変わります。実際にキャッスル・ウォークを見ると、正に、女性が後退し続け、その間、男性の右足は女性の脚の間に出て行っています。これは、それ以前の踊りには見られない踊り方です。
以上が、私が考えている「右回転がなかった」理由ですが、今後、何か有益な情報を見つけた時には、この記事を更新する形でそれをお伝えできればと思います。
最後に余談ですが、キャッスル・ウォークやラウンド・ワルツ、あるいは、ロータリー・ワルツは比較的ライズ&フォールのない踊り方をしていたのに対し、現代のワルツぼライズ&フォールはとても大きくなっています。そうすると、右回転において相手の股間に触れるという事故が起こることがあります。名前は忘れましたが、ある世界のトップ・コーチャーがこれを “Accidental Contact” と話していたことがありました。
ハッピー・ダンシング!