FL19 初恋は音楽 12. 定義

投稿者: | 2023年2月17日

今回の最後に私の質問を投げかけました。どなたか分かる方は教えて頂けると幸いです。

 

目次紹介

“Music Was My First Love”
初恋は音楽

 

12. 定義
Definitions

社交ダンサーからワールドクラスのダンサーまで、どのようなレベルのダンサーであっても、音楽理論のしっかりした知識を持っている必要があります。ここでは、最も重要な技術用語についていくつか説明します。

 

まず、小節があります。ジャッジからマークして貰うには、私たちのダンスは一定条件を満たしていなければなりません。流れている音楽に合わせて踊るには、各小節にあるメイン・アクセント(強拍)を見つけることが重要です。すべての音楽のベースにあるのがこの小節という区分です。

拍子にはシンプルなものもあれば、7/8拍子のような難しいものもありますが、競技ダンスでは、2/4拍子、3/4拍子、4/4拍子が使われます。2/4拍子には1小節に2つの4分音符があり、この原則は他の拍子にも適用されます。タンゴ、サンバ、パソ・ドブレは2/4拍子で、ワルツとヴィニーズ・ワルツは3/4拍子、スロー・フォックストロット、クイックステップ、チャチャ、ルンバ、ジャイブは4/4拍子で書かれています。

西洋の音楽では、常に最初のビート(拍)にメイン・アクセントがきます。誰でもそれは理解できるでしょう。(ヒットソングの)チャート・ショーでは、ポップであろうとフォークであろうと、ドイツの聴衆は通常、1と3拍目で手を叩くか、4拍全部を同じ大きさで手を叩きます。そこにメイン・アクセントがあるように聞こえるからです。

ここまでは大丈夫ですね。

 

ラテン・ダンスでは、ダンサーは曲の異なる2つの要素を同時に解釈しなければならないという大きな問題に直面します。最も重要なのはパーカッションの部分で、これは歴史的にアフロ・キューバンの影響を受けている部分です。前述した通り、西洋の音楽では各小節の最初のビートにメイン・アクセントがあるのに対し、このアフロ・キューバンの影響を受けている部分では、最後のビートにメイン・アクセントがきます。

これは重要なことです。サンバのパーカッションのアクセントは2拍目にあります。ルンバとチャチャでは4拍目で、ジャイブは2つの2/4小節の複合体であり、2拍目に軽いアクセント、4拍目に強いアクセントがあります。これはチャチャにも当てはまりますが、それはパーカッション部のみです。

 

チャチャのメイン・アクセントは4で、もうひとつの軽いアクセントが2にあります。ルンバとチャチャのフォワードとバックワードのベーシック・ムーブメントでは、2にこの軽いアクセントが見られます。ルンバでは、1拍目の足の受動性(カウント4・1の動き)によってメイン・アクセントが表現されます。これにより、4拍目のビートに自動的にアクセントが付くことになります。

チャチャチャでは、最初の3拍は同じ長さです。ルンバと同じようにフォワードとバックワード・ステップでは2に軽いアクセントがきます。チャチャの4拍目は均等に分割されるので、パーカッションのカウントは1拍、1拍、1拍、1/2拍、1/2拍になります。通常のビートから4拍目で変化が起こるため、そこにパーカッションのアクセントがあることが簡単にわかります。一方、メロディーには西洋の影響が聞こえます。有名な曲を注意深く聴いてみると、パーカッションのパターンがメロディーと同じくらいよく合っていることに気づくことでしょう。

 

メロディーのアクセントは上半身で埋めることになります。ですから、音楽を理解し、体の2つの部分を異なる瞬間にそれぞれのアクセントで踊らせるのは、優れたラテン・ダンサーにとっても本当に難しいことです。要約すると、社交ダンスでは、厳密な小節に合わせてメロディーを解釈する必要があります。

ラテン・ダンスでは、打楽器を骨盤から下に向かって下半身で解釈し、上半身と四肢でメロディーを解釈します。したがって、純粋なパーカッションのサンバの場合、本物のダンサーは自分ができるすべてを披露することはできません。音楽の一部が欠けているからです!(*1)

 

その先生に出会えたのは、私にとって一生に一度の幸運でした。先生はラテン・ダンスについて多くを説明しませんでしたが、一緒に踊ってくださったので、音楽の詳細を感じるとることができました。その人は、生涯ラテン音楽を研究し続けたあの有名な人物、ウォルター・レアードのパートナーでした。ウォルター・レアードはラテン・ダンスに関連する国々に旅行して研究を深めた人です。彼の知識の一部を書き記した技術書は今日でも評価されています。そのパートナーというのが、イギリス生まれ、南アフリカで育ちのロレイン・レイノルズ(Lorraine Reynolds)です。

彼女はラテン・ダンス界では、ファーストネームでしか呼ばれないほど有名人です。彼女は私たちのラテン・ダンス界で、南米と同じ短いドレスで踊った最初の女性ダンサーでした。彼女は弾けるような潜在的なエロティシズムをダンスフロアにもたらし、60年代前半から今日まで女性らしさの化身として活躍しました。その間、彼らは世界選手権で3度優勝しています。彼女は純粋な音楽そのものでしたし、今もそうです。そして彼女は、私の中にすでにあった音楽への情熱を与え続けてくれたのです。私に多くのインスピレーションを与えてくれたロレインに感謝します。

 

チャチャのパーカッションのアクセントで説明したように、リズムとは、小節内のビート値の分割です。別の例は、ワルツのプログレッシブ・シャッセです。1小節3拍の中に4歩あるため、最も単純に1拍を2分割します。これで、1小節にある3拍に対して4歩ステップすることができます。カウントは、1、2、& 3となります。いくら上手なカップルでも、これを音符通り正確に踊ろうとすると、あまり良くは見えません。ワルツではボディがスイングしているので、実際には1拍目で勢いをつけます。その後、体が無理なくフライとしていくと、技術的に要求されたリズムに近づきます。

 

ルバート(Rubato)は、別の場所で時間を稼ぐためだけに1つのビートから少しだけ長さを盗むことですが(rubareは古代ラテン語に由来し、盗むことを意味します)、それでも十分1拍に近いです。ルバートはとてもうまくできるととても音楽的ですが、うまくできないと音を外すことになります!ルバートを常時使っている歌手には、シナトラ、デイビス、または、間違いなく史上最高の女性ジャズシンガーの、エラ・フィッツジェラルド(Ella Fitzgerald)、バーブラ・ストライサンドがいます。他にも数名いますが、彼らがルバートを使っても、それが決して分からないほど上手でした。ビートをよく聞けないカップルがサミー・デイヴィス・ジュニアのワルツに合わせて踊ろうとすると、彼らはサミーが音を外して歌っていると主張します! これについては後で詳しく説明します。

 

1989年の私はまだ現役で、サミー・デイヴィス・ジュニアの音楽に合わせて踊っていました。ワルツにはドラマチックに編曲された「Children, Children」を使用しました。サミーのスタイルとして、オン・ビートで歌うことはめったにありませんでした。歌詞やメロディーに命を吹き込み、思いのままに歌詞やメロディ・フレーズをつなげたのです。これをスロー・バラードでスムーズに歌うには、予定のアクセント・ビートよりも遅く開始することが役立ちます。「聴いているだけ」なら良い曲と思えても、耳の訓練をしていない人には、その曲では踊れないということになるかもしれません。

無論、「サミーが音を外している」と主張する人は完全に間違っています。それはリズム・グループのアクセントの勉強が足りないからからです。リズム・グループとは、ピアノ、ギター、ベース、またはドラムキットであり、そのどれが演奏されているか、あるいはミックスした中で聞こえるかによります。「踊れない」と言う人は歌で混乱させられています。しかし歌は既に解釈されたものであるため、常にビートに合わせる必要はないのです。このように、(こうした曲は)ショーで振り付けされた踊りを踊るには、大きな効果を発揮することが出来ます。

上手なダンサーの場合、観客はこの曲の究極のバージョンを見たような気分になります。並外れたダンサーが踊ったというだけで、その曲が非常に美しいと感じることができます。逆に、美しい曲を未熟なダンサーが試しに使っても平凡にしか聞こえません。単純に合わないのです!

 

ところがです。この曲でサミー・デイヴィス・ジュニアのショーをTVで踊ったら、ダンサブルな音楽のコンピレーションを制作している唯一の会社から依頼が殺到しました。その会社の責任者は、そのワルツの曲名は何かと私に尋ねてきました。私は彼に、それは60年代の古いLPにあることを説明しました。LPのタイトルは「Lonely Is The Name」です。これはシナトラ自身のレーベルであるリプライズ(Reprise)社から出版されたもので、権利はシンガーに残されていました。最初に契約したアーティストは、ディーン・マーティン、サミー・デイヴィス・ジュニア、そして実娘のナンシーでした。シナトラは歌手に与えられた権利を守るためにレーベルを設立したのです。1990年、サミー・デイヴィスが若くして亡くると、彼のヒット曲のコンピレーションが市場に出回るのに、それほど時間はかかりませんでした。おそらく最大のベストセラーだったでしょう。

 

また、ある時期、リプライズは、ファンの要望に応えて「グレイテスト・ヒット」を2枚組で発売しました。その2枚目のCDに「ミスター・ボージャングルズ(Mr. Bojangles)」と「Children, Children」が収録されていたのです。万歳!コンドル音楽会社は、そのCDを何百枚も買い込んで売ったのでした。それは、最初の苦情が入る前のことでした。それは明らかにファンが求めていたバージョンでなかったのです。なぜなら、ずらして歌われていたからです!私が教えているクラスで、シナトラのワルツ「Melody of Love」やストライザンドが歌うフォックストロットの「Evergreen」をかけたときにも同様の現象が起きました。

 

 

 

S級のカップルや非常に経験豊富なカップルでさえ、ボーカルに釣られて音を外しました。基本的なリズムを守り、時折メロディーで遊ぶという厳格なルールを守りつつ、それをうまくミックスしながら踊れば、音楽的知識のある無しにかかわらず、観客全員に「この美しい音楽で踊したい」と思わせることができるのです。

 

さて、先に出てきた2つの用語を短く定義すると次のようになります。

リタルダンド(Ritardando)とは本来「徐々に遅くする」という意味で、まさにそのままです。これは、スムーズなトランジションを生成し、音楽の中断を避けるために時々使われます。

アクセルランド(Accelerando )とは「徐々に速くする」という意味。この単純な音楽的トリックは、フォークミュージックでよく使われます。リフレインの始まりを非常にゆっくりと開始し、スピードを次の踊りのスピードまで上げる、または、フィニッシュで物々しいスピードにまで上げます。その良い例がロシア民謡の「カリンカ」です。

 

ダンスにおけるフレージング(Phrasing )とは、8小節を一区切りにすることを意味します。これを詳しく分析すると、2小節を最小単位とし、2 x 2小節 = 4小節、または、2 x 4小節 = 8小節になります。特にダンスの曲はそのように構成されているのが多いです。ダンス競技用に特別にアレンジされた曲では、そうなっていることがわかります。その最たる例は、現在アシュリー・フロリック(Ashley Frolick)率いるエンプレス・オーケストラのアレンジで、彼らの曲のほとんどが8小節のフレージングになっています。イントロは殆どの曲で4小節になっていますが、6小節や8小節のものもあるので、注意して耳を傾けてみてください。

「非常に難しいなケース」として、5または7小節のイントロも聞いたことがあります。もちろん、音楽的に踊るためにフレージングだけを信じていると、問題が発生します。このフレージングの不文律はその名の通り、不文律でしかありません。どんなアレンジャーにもルールはないので、フレージングがなくても多くの曲が書けることになります。まさにここに、すべてのダンサーにとっての問題があります。彼らは冒頭の音楽を聴いてテンポを判断すると、その後は、音楽は彼らの耳を素通りするだけになっているからです。ミュージカルなダンサーは音楽と溶け合わなければなりません!

4フレーズは32小節になりますが、これはミュージシャンの用語ではコーラス(Chorus)になります。かつて、生演奏でショーを踊っていたころのカップルはバンドリーダーに「4プラス2コーラスでお願いします」とリクエストしました。クイックステップでは4プラス3コーラスになります。つまり、イントロ4小節プラス64小節、または、クイックステップでは、イントロ4小節プラス96小節のことです。今日、私たちは競技会ダンスの長さを分と秒で測定しているので、違うテンポが使われても、ダンスの長さには影響しません。しかし、ここにひとつ、非常に重要な側面があるので、それについて言及しましょう。

たとえ振り付けがフレージングにうまく合っていて、そのフレージングの中で踊り始めて、他のカップルに邪魔されることがまったくない場合でも、音楽に熱心に耳を傾ける必要があります。経験豊富で優秀な振付師によるオーダーメイドの振付は、曲のタイトルを反映しています。より正確に表現するなら、その曲のアレンジを動きに変換したものです。そうすることで、振付師はメロディーの移行、小節、アレンジに使う楽器などを決定しています。音楽を適切に使うことが振付師の仕事であり、ダンサーの仕事は、踊りを通して使われている音楽が聴衆に見えたり聞こえたりするようにすることです。

フレージングは存在しますが、実際の音楽解釈の枠組みとしてのみ存在します。

 

私がエグゼクティブ・プロデューサーとしてミュージシャンと一緒にレコーディング・スタジオで作業したいと考えた場合、少なくとも彼らの基本的な用語を知った上で、それを自分の特別なリクエストをするときに使う必要があります。ミュージシャンは、最終的に誰も理解できないことを素人言葉で説明しようとする人がいないことを本当に感謝しています。

基本的な用語の簡単な知識があれば、彼らは求められたことをすぐに実行します。これは、素人レベルのリスナーから即座にエグゼクティブ・プロデューサーになりたいと考えている多くの私の仲間の先生方への良いアドバイスになると思います。犬と大きな木の所に行く前に、自分の脚を高く上げられるかどうか、試しておく必要があります。(*2)

 

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■私の質問

(*1) 「したがって、純粋なパーカッションのサンバの場合、本物のダンサーは自分ができるすべてを披露することはできません。音楽の一部が欠けているからです!」の原文は “So if we get a pure percussion Samba, the real dancer is unable to show everything he might be able to do as one part of the music is missing!” です。サンバの曲で「音楽の一部が欠けている」とはどのようなケースか説明できる方は教えて頂けませんか?

(*2) 「犬と大きな木の所に行く前に、自分の脚を高く上げられるかどうか試しておく必要があります。」の原文は “Before I go to a tree with the big dogs I should test if can lift my own leg high enough!” です。「高い目標に向かうには、今の自分に出来ることを知るところから始めよう」のような意味かと思いつつ、英語の諺的な表現を調べてましたが出てきません。もしかするとドイツ語の比喩かもしれないとも考えていますが、ご存じの方は教えて頂けると嬉しいです。

メールアドレス:m-kammoto★jcom.home.ne.jp (★を@に変えて下さい)

 


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