MA73 更にうまくなる20の話(その10) 軸の太さを考えてみる

投稿者: | 2020年12月14日

拙書「社交ダンスがもっと好きになる魔法の言葉」の続編として、「読むだけでダンスが上手くなれば儲けもの」、そんな話を書いていこうと思います。当然、サークルレベルの話です。

 

魔法の言葉 Part 2
MA73 更にうまくなる20の話
(その10) 軸の太さを考えてみる

 

◇ ◇ ◇

 

前回、芯は「細くて軽い方が良い」とか「軽い風船のイメージ」という考え方を書きましたが、今回はその延長線上にある「軸」についてです。ダンスを踊るにはその軸を動かしていく必要がありますが、この時の軸の太さはどのくらいが理想的でしょう? それを実験を通して考えていきたいと思います。

 

=実験=

歩きながら自分を観察する実験です。ひとりで行います。

 

1.「軸=自分の体の太さ」とイメージして部屋の端から端まで歩きます。

2.次に「軸=背骨の太さ」とイメージして歩きます。背骨を見ることはできませんから、ここでは「握りこぶし大」と考えましょう。

3.次に「軸=鉛筆の太さ」とイメージして歩きます。

 

上の3通りで安定した歩き方ができたのはどれだったか、仲間と話し合いましょう。きっと、3番目が安定して楽に歩けたという声が多数を占めることでしょう。同時に「なぜ1番ではないのか」と疑問が湧きます。「太いものほど」安定している筈ですから、当然です。

 

実は、ダンス(=動くこと)で求められるのは「安定」ではなく「不安定なバランス」です。太い軸は「その場」に留まっているに理想的なのですが、そこから動き出すには、動き出す支点を探して変えなくてはなりません。一方、鉛筆のように細い軸の場合は面積が狭いため、支点を変えるのが遥かに容易になります。私たちがダンスで求められるのはこれなのです。

 

よく考えている人は、「不安定なバランスだと倒れてしまうのではないか」との疑問を持ちます。その通りなのですが、下の会話の中に納得できるポイントを見つけることでしょう。これは、所沢市「アヤベダンススクール」の綾部勝也・美保組との会話です。

 


勝也さん:“ため”を作るとかクロス・ベーシックでワパチャ・タイミングを使うとか、難しいタイミングを取れるかどうかでお洒落感が全然違います。観ている人も「この人は音楽的センスがある」と思いますよね。

美保さん:そのためには、音楽を体で感じ、音に遅れないようにしなければいけませんが――

勝也さん:「音楽を聞きなさい」と言うと本当に耳で聞いてしまう。でも、それだと遅れてしまうのです。

 

美保さん:聴いてから動く、つまり、脳が指令を出してから動くため遅れが出てしまいますから、スタートの用意をしておいて「ドン」の音にすぐ反応できるようにしておく必要があります。

神元:その解決法は?

勝也さん:楽器をしている人は動きのタイミングを外さない気がします。だから僕たちも聴衆側に回るのではなく自分が演奏家になったつもりでリズムを取ると良いと思います。

 

神元:プロに動きの話をお聞きすると、常に音楽の話になるのはとても興味深いです。

勝也さん:もうひとつは、危ないバランスにいることです。

神元:危ないバランス?

 

勝也さん:サイコロとボールではどちらが動きやすいと思いますか?

神元:もちろんボールです。

美保さん:サイコロのようにしっかり安定したところにいると「どっこいしょ」と動かなければいけませんけど、ボールだとすぐに動き出せるでしょ?

 

勝也さん:つまり、バランスは取れている、だけど、いつでも動き出せるところを探して踊るのが大切なのです。

神元:なるほど、納得です!

 

(2017年ダンスファン12月号「サークルで上達する社交ダンス」より抜粋)。


 

いかがでしたか? いつでも動き出せるには「不安定ながらもバランスを取っている」ことが大事で、その場に安定することではないことが分かったでしょうか? また、「不安定でバランスを失っていると」それはオフ・バランスでしかありません。その違いを的確に説明している一文を紹介しましょう。

 

 

完璧なポスチャーとバランスにあれば、いつでも、どのようにでも動くことができますが、貧弱なポスチャーとバランスならば、動かざるを得なくて動くしかありません。

 

With perfect posture and balance you move when and how you want to move, with poor posture and balance you move when you have to move.

 

(出典:”A Technique of Advanced Standard Ballroom Figures” by Geoffrey Hearn, P20)

 

 

細い軸を意識し、危ないバランスを考えて動いてみましょう。自分が動くこともそうですが、リードもフォローも、素晴らしく軽やかになることでしょう。

 

ハッピー・ダンシング!