G062 成功させるための練習

投稿者: | 2020年5月31日

今回の「練習」はあなたのダンスのことではなく、あなたが主催する、あるいは、参加するパーティーやレクチャーのことです。

 

■松岡修造さんの知恵

2018年3月、平昌冬季オリンピックの帰国報告会に関するちょっとした記事を読みました。報告会の場所は東京ミッドタウン。とても「キラキラ」した響きのその場所に5000人ものファンが集結し、選手たちのトークショーは大変盛り上がったそうです。

で、そのちょっとした記事には、この「盛り上がり」に一役買ったのが司会を務めた松岡修造さんで、彼が事前に「選手のトークにしっかり相槌を打つ練習をさせた」とありました。それです! 選手たちから楽しい話が沢山出たと思いますが、それを盛り上げ、引き出させたのは松岡修造さんの「事前練習」という素晴らしいアイディアがあったからと確信しています。なぜなら、参加する側の人たちは、熱心に聞いていればその思い(楽しい! 面白い! 凄い! etc.)が自然に伝わると考えがちですが、実はそうでもないからです。

 

 

■孤独な司会席

私事になりますが、何度かダンスパーティの司会を依頼されたことがあります。司会の立ち位置は、すべてが順調に流れて当たり前で、何かトラブルが起こると真っ先に叱責を受ける大変な仕事です。

 

私が経験したどのパーティーも300席ほどの会場が満席で、実に楽しいパーティーでした。でもそれは客席とフロアーの中の話。ほんの少ししか離れていない、しかも、前方にあるにも関わらず、司会席は結構孤独で寂しい所というのが私の実感です。お客様の反応が意外と伝わってこないからです。

 

例えば、雰囲気を盛り上げるために面白いことを話したとしましょう。それが受けてテーブルの人たちがクスクス笑う程度では、司会席まで届かないのです。300席程の会場であっても! ましてや、東京ミッドタウンの5000人も集まる場所では!

 

そういう訳ですから、パーティーの終わりにわざわざ司会席まで来て、「司会、すごく良かったです!」とか「おかげさまで楽しかったです」のような声を掛て頂く度に、「そうだったんだ!」と驚くことになります。そのくらい、本番中はお客様の反応は分かりにくいです。

 

松岡修造さんは司会とゲスト両方の豊富な経験からそのことを感じ、この「事前練習」を思いつかれたのでしょう。そして、お疲れの中来て下さる「ゲストの皆さんに心から喜んで貰いたい」、そうすることでゲストの話を最大限に引き出して「聞く側の人たちにも良かったと思って貰える」ために、このリハーサルをしたのでしょう。

 

 

■拍手の練習

再び私事になりますが、サークル活動の中で何度も日本のチャンピオンやトップ・ダンサーたち、更には世界チャンピオンをお招きしての「パーティー」を開催してきました。私たちのパーティーの趣旨は、そうしたトップ・ダンサー達の踊りを「サークル活動している地元の練習会場で」間近に見ることでした。地元にダンス文化を持ってくること、そして、デモンストレーターと同じフロア上の風を感じる距離で見たいと思っていたからです。

 

会場は公民館でホテルのように立派ではありません。そこでサークル員達で手分けして、自分たちにできる精一杯のことをして、失礼のないように努めました。例えば、

  • デモンストレーターの送り迎え(当然ですが)。
  • デモンストレーターの情報集め。ヒルトン組をお迎えしたときは苦労しました。戦績以外の情報が手に入らなかったので、彼らの出身地ロッチデール(Rochdale)観光局まで電話して街のことを尋ねたりしました。このとき、ロッチデールが生協発祥の地であることを教えてもらったので、そのことをお迎えに行った車中で話すとマーカスさんは「ロッチデールまで電話したのか!」と大変驚いて喜んでいました(笑)。
  • フロアの掃除(当然ですが)。
  • トイレ掃除。
  • 控室に飲み物の用意(好みが分からないので数種類)
  • 控室の敷物(着替え時にドレスが汚れそうと判断したとき)

 

もう一つ自分たちにできることとして準備したのが「拍手の練習」でした。なぜなら、デモの最中に、私たちがいくら「素敵な踊り」と思っていても、思うだけでは相手に伝わらず、伝わらなければ意味がないからです。最高の踊りを見せて下さるカップルに、こちらも最高の笑顔を拍手で応えたいではありませんか。

 

踊る側からすれば、デモの後で「素晴らしかったです!」と言われるのは当然嬉しいでしょうが、踊っているときに、それがビシビシ伝わってくると、もっと良いに決まっています。「よそのパーティーに行くと、ジャッジしているような目で見ている人たちがいる…」と、あるデモンストレーターが話してくれたことがあります。観客にそんなつもりはなく、ただただ見とれていたのだとしたら、こんな不幸なことはありません。見る側にも踊る側にも。

 

そこで、パーティーが近づくと、サークルレッスンのときに適当に一組のデモンストレーターを仕立てます。そして、私が「では、〇〇組のワルツです!」と紹介して部屋の隅にいた二人が登場すると、座ったサークル員達が大きな拍手で迎えます。曲が流しれ二人が踊り始めると皆で拍手、拍手、拍手!! 二人が近くに来たときは一層大きな拍手をするので、踊りの間中、ほぼ拍手が続きます。大きな拍手と声援を受け、即席のカップルは一層楽し気に踊り続けます。しかも、普段より上手に! ここがポイントです!

 

デモを見ているときは、こちらの気持ちが伝わるように表現する。そうすると、デモする人たちは気持ちよく感じて下さるでしょうし、リラックスしてより良い演技を披露してくれます。結果、私たちはより素晴らしいデモを見ることができます。たった「拍手」の練習をするだけで…。その「練習の拍手」がプロ本番のデモでは「心からの拍手」に変わっています。

 

レクチャーを受講するときも同じで、自分が熱心に聞いていることを知らせる態度を取りましょう。レクチャーする人は「この人たちは熱心だ」と分かれば、より有意義な話をして下さることでしょう。もし、あなたがレクチャーやデモをする側の立場だとしたらどうですか? 皆が熱心に頷いたり、大きな声で返事をしてくれたり、嬉しそうな顔で大きな拍手をしてくれたりしたら ―― きっとそうすると思いませんか?

 

ハッピー・ダンシング!