(ダンスファン2005年7月号、ルンバの特別記事ではサークルで練習している事や普段自分達が思っていることを書かせてもらいました。本ブログではマイナーな変更を加えてお届けします)
長い間サークル活動をしている私達ですが、告白しますと、自分達自身の練習はとてもとても少ないです。それは良いことでも自慢できることでもありませんが、仕方ありません。しかし練習時時間が取れないからといって、サークルで適当に教える事は出来ませんから、少ない練習でいかに効率よく上手になるかを考えてきました。今回はそうした方法や考え方を引き出しの中から取り出し、私達と同じように練習時間の少ない人のために紹介したいと思います。どれが初級用でどれが経験者用ということはないので順不同に並べます。その中の一つでもあなたのお役に立つことができればうれしいです。
■幸せを感じて踊ると上手になる ――
「歩ける人は踊れる!」
世界中でどれだけ多くの人がこの台詞に勇気づけられダンスを始めたことでしょう。現在こんなにダンスの楽しさを享受している私達もその一人です。かつて、仕事に疲れ悩んでいた時もダンスがあったから切り抜けられたと言っても過言ではありません。そんな事が幾度もありましたので、その度にダンスをしていた事に感謝したものです。皆さんも同じように感じておられるのではありませんか? もしそうでしたら、現在の踊りのレベルがどうであれ、今も踊っていられる環境に感謝するところから始めてみませんか?
「なぜ?」 ―― なぜなら、周囲を見回すと、そこそこ踊れているのに不満げな顔をしている人を多く見かけるからです。また、自分がいかに元気ハツラツでも、家族の中の誰かが病気だったりすると踊りに出て行くことさえできないかも知れません。そう考えると、今、踊っていられるのはとても有り難い事ですから、それに気づき、楽しさを表に出して踊りましょう。これは総ての種目でいえることで、踊りの質が変わる事、間違いありません。
■ルンバ …… 初めにウォークありき
妻に、英国で初めてルンバを習った時、何を教わったか尋ねてみました。彼女が渡英したのはもう30年以上前のことですが、鮮明に思い出すのはとにかく「前進を続けなさい」と言われた事だというのです。
この話には少なからず驚いてしまいました。と言うのも、2004年に受講したジュリー・レアード(Julie Laird)女史のルンバのお話も「女性はとにかく前進」に終始していたからです。この30年の間にラテンの踊り方はものすごい変化を続けています。しかし、ルンバ = ウォークの考え方は普遍なのです。当然ことながら女性の動きには後退も回転もありますが、それ程前進ウォークの意識が大切だということだと思います。ちなみに女史は、「女性の回転は男性がリード」と話されていました。男性は女性のウォークの切り返しを、自分のウォークをしっかり繰り返す中で適切にリードしなければなりません。
私達はルンバのレッスンでは初級も中級もウォークの練習から始めます。その練習法は(サークルで上達するボールルーム・ダンス(ラテン編))に書いていますので、ここでは重複を避けますが、わずかなスペースで一人でできるものです。個人レッスンを受けている人は、こうしたことをしておくと、より充実したレッスンが教室で待っている事でしょう。初めにウォークありき。そして行き着く所もウォークなのです。
■たくさん踊っても上達しない!
毎日のように踊りに出かけている人には、ごめんなさい。でもこれは事実です。周りを見回しても、たくさんレッスンを受けていたり、頻繁に踊りに出かけていたりする人が必ずしもグングン上手になっていると限らないでしょ? もし、踊った分だけ上達するなら、毎日踊っている人は確実に上達し、みんなプロになれるでしょう。でも、現実は違います。
どうしてかというと、肉体はむやみに動いても喜んでくれないからです。だから、「たくさん踊れないから上達しない」などと悲観する必要はありません。一方、ちょっとしたきっかけで急に上達する時があります。ここが大切なポイントで、練習時間の短い人は、この、「ちょっとしたきっかけをたくさん見つける」ようにし、肉体に理に適った動きをお願いする事が大切です。ちょっとしたきっかけを「たくさん見つける」ために「たくさん踊る」必要はありません。しかし「たくさん考える」ことは必要です。
■あと何年踊っていたいですか?
ダンスを始めた人から必ずといって良いほど聞く言葉があります ―― 「もっと早く始めておけばよかった」と。でも、今から5年前に戻る事はできませんし、たった1月前にさえ戻る事はできません。しかし、来年始めるより1年得したと考え、今始めた事を最大の幸せと受け止めましょう。
さて、「もっと早く始めておけばよかった」と思っている人でも「あと何年踊っていたい」と考えている人は少ないのではないでしょうか? もし、「あと2,3年は踊っていたい」と考えている人がいましたら、ルンバのために次のアドバイスをします。2、3年は瞬く間に過ぎていきますから、これらの点だけ気をつけていれば、初心者としてはとてもとてもいい踊りができると思います。
●顔をあげて楽しそうに踊りましょう。踊りが生き生きと見えますし、パーティーなどで踊るチャンスも増えますよ。
●つないでいない方の手は、横に上げて綺麗に見せましょう。ダラリンと下げたときより見かけもバランスもグッと良くなります。
●どのステップもヒールから出ないようにしましょう。一歩でもヒールで出ていると、「きちっと習っていない」とみられてしまいます。
●ボディ伸ばして踊りましょう。ボディをグッと上に引き上げておくとヒップ・ムーブメントが容易になります。
一方、「あと何年踊っていたい」か明確な答えのなかった人は、「いつまでも踊っていたい」と思っているからではないでしょうか? それでしたら、今、基本の練習をしても大丈夫ですね。数年後にめざす踊りができていればいいわけですから。ただ「上手になりたい」というのではなく、「どう上手になりたいか」を考えると「今、何をすべきか」が見えてきます。
■二人の間にあるもの、それがダンス――
自分がいて相手がいて、自分が相手に伝えようとする気持ちを相手がキャッチする。相手が伝えようとする気持ちを、こちらがキャッチする。そうした気持ちをパワーとかオーラ、コミュニケーション、共通の言語、あるいはハート等と表現してもいいかもしれませんが、二人の間に見えるもの、それがダンスです。それが欠けている場合、一人で行なう踊りと変わりないと思います。
「ステップ(フィガー)はダンスじゃないの?」
― それは単に形式です。ステップをいくら増やしても上手になったと感じないのはそのためです。
「では、ヒップ・ムーヴメントやボディ・ムーヴメントは踊りじゃないの?」
― それは、形式であるステップをするために必要な技術、あるいは相手にリードを伝える手段としての技術といえます。でも、技術は技術で、踊りではありません。
ボディが良く使え、難しいフィガーを使って踊るカップルでも、なぜか魅力を感じない事がありますが、それは、技術しか見えないからです。二人から踊りが見えてこないからです。サークルで踊るあなたや私達は技術修得に費やす時間は限られていますが、二人で踊るダンスの本質、「二人の間にあるもの」は意識を向けるだけで生まれるものです。それが分かってくる方法として、私達が教わった面白いルンバのレッスンを紹介しましょう。
●男性左手、女性右手のホールドを指一本のみにして踊る。
●指一本のホールドもなくし、お互い触れ合う事なく踊る。すなわち、男性はボディ・リードとアイ・コンタクトのみでリードし、女性はそうした男性のリードを体全体で受け取り踊ります。
じきに「二人の間にあるもの」が見えてくることでしょう。
■ビデオの中でダンサーが上達する?
「ビデオはステップの研究に使う」などと言わず、できるだけ繰り返し見てください。そして、レッスンビデオはできるだけ世界的なダンサーのものを選んでください。信じられないかもしれませんが、レッスンビデオの中で踊っているダンサーは上手になっていきます。
なぜそんな摩訶不思議な事が起こるのか ―― ここでは敢えてその説明を省きますが、繰り返しビデオを見る人だけが納得できる上達法です。そしてあなたのルンバが変わるのです。
■学校では教科書を使い、ノートを取りました
「うまくなりたい、上手になりたい」と切実に思ったとき、最低、先生に教わった事をノートに取ることをお薦めします。ダンスの上達に反復練習が不可欠なように、知識の反復練習で教わった事を体に沁み込ませましょう。そうした積極的な姿勢は必ず先生にも伝わり、更に良いレッスンにつながります。
世界の中には貧困ゆえに学校に行かれなかったり、教科書やノートを欲しがっている子供たちがまだまだ沢山います。そうした子供たちより遥かに恵まれている環境でダンスをしている私達が、テキストも読まず、ノートも取らず、ただ漠然と「上手くなりたい」では勿体ないです!
ノートを取る事で、ダンスもすごく頭を使うことが分かってきます。それに気づいたら上達間違いなしです。テキストを持っている人は、時折開いて読み返してみましょう。知っているフィガーの説明でも読んでいると、「えっ、これはそういう事だったのか!」と驚いたり、「自分の踊り方とちょっと違う」と、自分の勘違いを見つけたりする事もあります。上手く踊れないときにも解決法を教えてくれるのがテキストです。この様に、テキストから新たな発見や解決法が見つかるのは、あなたのダンスが上達した証拠です。ダンスが上達するに連れ、読み方が深くなるからです。
先日のTVで指揮者の小沢政爾氏がこのようなことを話されていました ―― 「楽譜をじっと見る。何度も何度も読む。すると作曲家のメッセージが聞こえてくるのです」―― と。
色々書いてきましたが、私たち夫婦はこうした事を話し合ったり、工夫したり、自分たちに言い聞かせたりしながら、練習時間のないハンディを克服しようとしています。(おわり)
ハッピー・ダンシング!