ダンスウイング48号の付録DVDからトネ・ナイハーゲン(Tone Nyhagen)のレクチャー映像と(日本語)レクチャーの書き起こし(日本語)を紹介します。当時、スタジオひまわりの海外部とダンスウイング編集部の両方に携わっていた私は、日本のダンス界にこうした良質のレクチャーを提供できることを心底嬉しく、また、誇りに思いました。
このブログ「私のダンスノート」ではサークルレベルの記事を書いていますが、こうしたレクチャーはサークルの人たちにも役立つことでしょう。
2009 UK Lecture
“THE POWER OF TWO” by Tone Nyhagen
Dancers:
Rachid Malki & Anna Suprun (Norway)
Justinas Duknauskas & Ekaterina Lapaeva (Lithuania)
Serugey Surkov & Melia (Poland)
※YouTubeは限定公開です。ここだけでご覧ください。
*This video is ‘limited release‘ for this blog only.
出典:ダンスウイング48号付録DVD
英語監修:Geoff Gillespie
英語翻訳/アフレコ:神元 誠
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日本語の書き出しを紹介します。文字で読むと、また別の発見があることでしょう。書き起こしの中のボールド(太字)は個人的に気に入っている部分です。
トネ・ナイハーゲンの「二人のパワー」
MC: 皆さん,こんにちは。2009年Ballroom Dance Federation International主催のコングレスへようこそ。今年も素晴らしい講師陣をお迎えしておりますが、始めに、私のお手伝いをして下さるニコラ・ノーディンさんをご紹介しましょう。
Nicola: 皆さんこんにちは。最初のレクチャーにはラテン・ダンサーをお招きしております。現役時代にはダンサーとして最高の栄誉を得、競技会を退いてからは多くの世界的なダンサーのコーチをされているラテン・ダンサー、トネ・ナイハーゲンさんです。タイトルは「二人のパワー」。
Tone: ありがとうございます。皆さん今日は。私のタイトルは「二人のパワー」です。どういう意味を込めているのでしょう?
振り返ると、私のダンス人生は大変好運だったと思います。なぜなら、いつでも世界で最高の先生達と共にコーチの仕事をする事ができたからです。今日の私が教えている基礎はそこから確立されました。そうした機会に得られた最も大切なことは、二人で踊る ― と言うことでした。二人で踊る事の重要性,そして、フロアの上で男性と女性が関わり合うことの重要性でした。
ダンスを通じて行わなければならない事は,それが技術を通してであっても、感情の表現を通してであっても、常に、踊る二人の間でつながりを持つようにしなければなければならない、と言うことでした。私は、二人がボディ・アクションを使い、一緒にセトリングし、カウンター・バランスを使ったり、感性表現を使ったりしながら一体となって踊る事ができるなら、それ以上パワフルなものはないと考えています。今日、私が最も注意を払っているのは、その行き着く先の ― パーフォーマンスです。
私は、個々のダンサー、個々のカップルが直感に耳を傾ける事が最も重要な要素と信じています ― 自分の直感を理解する事が。そして、自分が持つ最高のものを表現するために、才能を生かす術を知る事が。しかし、私達は人生の中で、あらゆる事を教わる形で習得してきていますので、直感を知ると言うことはとてつもなく難しい事に違いありません。また、ダンサーはそれぞれに違った特質を持っていますし、長所もあれば短所もあります。自分の才能を知り、その使い方を知る事はとてつもなく重要です。なぜなら、長所が最大限に生かされて欠点を覆い隠してくれるからです。
そうした点を3組のカップルを通して見て行きたいと思います。今日、お手伝いしてくださる3組は、それぞれに異なる特徴を備えています。3組とも全く異なる長所を売り物にしています。それぞれに何を表現したいか、その優先順位が違いますし,ウェイトやボディ・アクションの使い方に関するテクニックも違います。強調したいところ、観衆に訴えかける点も違います。まずは一組ずつ踊ってもらい、そのあとで、このお話に戻ってきましょう。ラチッド、お願いします。
Rachid Malki & Anna Suprun < Dance Paso >
Justynas and Ekacha <Dance Samba >
And Sergey and Melia <Dance Rumba >
今日のダンスは技術だけで成功することはできない ― そう思っています。私自身はかなり、技術の重要性を重んじてはいますが、ダンサーは、自分の中に直感を見つけ出す事ができなければならないと思います。自分の考えを発展させる事のできる直感を。同時に、確固たる基礎、確固たる土台なしに成功できるとも思いません。技術と直感、この二つが組み合わさったとき,あなたの踊りに魔法がかかり,魅力的になるのです。二つの異なるエネルギーが完全に同調するからです。この到達点についてもっともっと強調したい所なのですが、なかなか説明が難しいのです。なぜなら、その到達点は先生が見つけなければいけない問題ではなく、個人の問題だからです。自分の個性が何か、自分自身で見つけなければならないからです。
この3カップルの共通点は、踊りは二人で作る、二人で踊るということ信じている点です。その表現法は異なるにしても ― セルゲイ&メリアにとり最も大切なものは、皆さんにも見えるかと思いますが、いついかなる時でも「感性」です。すべてにストーリー性を求め,すべてに意味があることです。二人にとり、意味を持たないステップは1歩もないのです。ここで誤解を避けるため,ボディに関する技術的なことについて少しお話ししたいと思います。レクチャーの主題から離れてしまうかも知れませんが。
「セルゲイ。いいですか?」
ボディのセンターは背骨とつながっている事が最も重要と考えています。センターと背骨がコンパクトにつながっていて、そのつながりを、いついかなる時にも壊す事なく使える事が重要です。相手が反対側の足を使っている事を感じます。一次元的な踊りをしていると、コネクションやバランスでトラブり、それ故にパートナーを感じる事になります。
二人が ― 「ベーシックだけで」 ― コネクションを持つと、二人のセンターは背骨とつながります。コネクションができると、とくに手や腕を意識しなくても、二人の呼吸が合い、感覚が共有されるので、腕は,ボディの動きに反応するだけになります。セトリングする時は、お互いが離れて行く時の瞬間を男性が感じ取る事が重要です。ここに圧力は要りません。好きなだけフリーでいてもいいですし、反対に強くいる事もできますが,とても強いコネクションが必要だと誤解している人が沢山います。強いコネクションを持ってもいいですが,重くなってはいけません。
殆どの男性は女性のウェイトを感じていたいと言いますが、それが重くなってしまうと、ボディ・ウェイトがフレームの中で踊る事ができなくなります。フレームの中で踊らなければなりません。腕は好きなようにしていいですし、完全にリラックスしても構いません。背骨が腕へ働きかけます。両肩を落とし、セトリングしながら落とした両肩に働きかけます。今話してきたお互いのセンターの感覚を通して、両肩に働きかけます。
例えば、ベーシックを踊っても ― 二人のボディが一緒に動くこと、パワーを感じる事の大切さをお話ししていますが、それは女性がセトリングするのを感じ取って男性がセトリングする、それをまた女性が感じ取ると言うことです。そのために、お互い様子を見ます。お互いに耳を傾けるのです。女性だけが耳を傾けるのではありません。男性もしなければいけません。それがとてもとても重要なのです。
私は彼にリードしてもらいたいと思いますが、それだけではなく、私の事も感じ取って欲しいのです。それがあって初めて,女性は自分が求める形を作る事ができるからです。そうして、女性が求める、リリースもできるのです。どうも男性には女性に耳を傾ける能力がないように思えて仕方ありません。ダンスの時だけではなく。私は,男性がいつでも女性に耳を傾ける事が非常に重要だと思っています。
私の先生がいつも話されていた事ですが、「トニー,あのね、女性のお尻に耳を傾けるのだ」と。実際に彼が用いた言葉は「お尻」ではありませんでしたが,ここでは使えません。でも、皆さんも、その「お尻に」耳を傾けてください。そうすると、二人の踊りがひとつにブレンドされ,二人の間に本当のつながりができます。そうなったとき、ヒップ・ウェイト、ボディ・ウェイト、抵抗、対照の関係、スピードの変化 ― そうした、踊りを作り上げるのに重要なすべての要素を手にする事ができるのです。
では、セルゲイにはメリアと踊ってもらいますが、観ていただきたいのは、それが単なるベーシックであっても、そこにはスタイルがある点です。背骨、堂々とした態度、ストーリー性、二人のつながり、そしてダンスが。どこを取っても踊りであり,二人の絡み合いがあります。単なるステップではありません。ステップにストーリー性はありませんから。あなた自身がストーリーとなるのです。そうしたストーリー性に必要な、あらゆる要素とは他に、あなた自身の直感に耳を傾け,そのストーリーを知らなければなりません。
< dance >
30分のレクチャーでは多くをカバーする事はできません。二人で踊る事,二人で動く事について、まだまだお話ししたい事がありますが、二人のボディ・タイミングを合わせること、共に呼吸する事、そうした事を真に理解して頂くには、何時間も費やしなければいけません。では、先ほどの皆さんにもう一度踊ってもらいましょう。
冒頭でお話ししましたように、それぞれのカップルは別々の直感の元に違った踊りを築き上げています。ラチッドとアナは一般的にボディ・ウェイトとパワーを使おうとしています。ジャスティナとエカーチャは柔らかさとリズムを大切にしています。セルゲイとメリアはストーリー性と二人のコネクション、それにまっすぐな線を大切にしています。
いま挙げたどの要素も、基本という土台があってこそできる事であって,それをなくして、偶然にできるようなものではないと、私は思っていますが、その点も分かってください。基本ができている彼らでさえ、今日は緊張しっぱなしです。私もそうです。すごい先生達が目の前に居られるのですから、怖いくらいです。できれば、そっちに座っていたいです。
基本は必要です。でも、基本が必要だからといって基本 イコール 完璧という事ではありません。完璧はあり得ませんし、完璧に近づいた瞬間、つまらないものになってしまうでしょう。直感 ― 技術に裏打ちされた直感が大切なのです。では彼らにもう一度踊ってもらいましょう。ラチッドお願いします。2度目ですから、怖さも少し薄らいでいることでしょう。
Rachid Malki & Anna Suprun < dance >
Justynas and Ekacha < dance >
And Sergey and Melia, again please. < dance >
緊張が続いているようです。でも、お話ししてきましたように、皆それぞれの個性を発揮できたと思います。ストーリー性がありました。
こんな言葉がありました。「アクションのないビジョンは夢に過ぎず、ビジョンのないアクションは暇つぶしだけ。でもビジョンにアクションが伴えば世界を変える」。わたしも、ビジョンなくして本当の意味の素晴らしい踊りはできないと思っていますし、直感なくして魅力的にはなれないでしょう。などと話をしている私自身を振り返ると、そんな風に踊れた事はなかったと思います。言うは易し行なうは難し ―― そうであっても、それを追求して行かなければならないと思います。そしてまた、基本なくして素晴らしい踊りに到達する事は決してないでしょう。今日の3組はとても緊張していましたが、ストーリー性を充分に表現することができたと思っています。
自分が費やしなければならない時間、あるいは、スタジオで使う時間、先生と過ごす時間 ― それはあなたの中の創造的な部分を見つける方法を学ぶ時間です。あなたの才能や特徴を表現し、人に伝える方法を見つける時間です。
今日、踊ってくださった3組にとっても、ストーリー性だけが大切なことではありません。しかしながら,ストーリー性が踊りの本質である以上、そこからスターとしなければいけないということもお分かり頂けると思います。ダンスは二人で踊ります。それ以上パワフルになれるものはありません。二人で一つになれるのですから。良く耳にするではありませんか、1+1=1 と。
みなさん、ご清聴ありがとうございました.そして今回ご招待して下さったBDFIに感謝いたします。引き続き、この後のレクチャーもお楽しみください。
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出典:DanceWing 48 Sep. 2009
英語監修:Geoff Gillespie
レクチャー翻訳/アフレコ:神元 誠
ハッピー・ダンシング!