#033 私の好きなレクチャー”DANCE AS A COMMON LANGUAGE” by Alberto Pregnolato

投稿者: | 2020年5月18日

アルベルト・プレグノラトの “DANCE AS A COMMON LANGUAGE”

2010年UKコングレスからアルベルト・プレグノラト(Alberto Pregnolato)のレクチャー映像を紹介します。文字で読むと、また別の発見がありますので、日本語書き起こしも記録として残します。この映像は隔月誌ダンスウイング59号(最終号)の付録DVDです。当時、スタジオひまわりの海外部とダンスウイング編集部の両方に携わっていた私は、日本のダンス界にこうした良質のレクチャーを提供できることを心底嬉しく、また、誇りに思いました。

📌スタジオひまわりのツイッター

 

今回のレクチャーは「共通語としてのダンス」。ダンスを習っていると「共通の言語」とか「共通語」という表現に出合うことがありますが、これらは英語のコモン・ランゲージ(Common Language)からきています。踊る二人が同じ言語を使っている方が「より理解し合え」ますし、反対に相手の知らない言語を使うと「理解し合う」のは難しくなります。この、一見、分かり切っている話が今回のレクチャーです。分かり切っていると思われる話を聞いていくうちに、より深い理解の仕方があることが見えてくるでしょう。#022 私の好きなレクチャー7 “The Lost Tango” by Andrew Sinkinson の中で、会場の女性の質問に対し、シンキンソンが「アルベルトがやったと思うけど」とやんわりかわすシーンがありますが、これがその「アルベルト」のレクチャーです。

 

2010 UK Congress
DANCE AS A COMMON LANGUAGE
by Alberto Pregnolato

※YouTubeは限定公開にしてありますので、ここだけでご覧ください。
*This video is ‘limited release‘ for this blog only.
出典:ダンスウイング59号付録DVD

英語翻訳/アフレコ:神元 誠

 

◇ ◇ ◇

 

日本語の書き出しを紹介します。文字で読むと、また別の発見があることでしょう。

 

アルベルト・プレグノラトによる「共通語としてのダンス」(書き出し)

MC:皆さん、こんにちは。BDFIが主催する第14回目のUnited Kingdom Congressへ、ようこそいらっしゃいました。例年の如く、今回もファーストクラスの講師をお招きし、そして、レクチャーの後には「オーディエンス・ウイズ」が続きます。その前に、私と一緒に司会を務めてくださる方をご紹介しましょう。ニコラ・ノーディンさんです。

Nicola: 皆さん、こんにちは。最初のレクチャーはイタリアからお招きしたかたです。競技選手時代はチャンピオンにもなり、現役引退後はダンサーの育成に力を注がれています。お招きしましょう、アルベルト・プレグノラート氏です。

Alberto: みなさんこんにちは。

 <会場:こんにちは>

 

Alberto: ありがとう。温かい歓迎が欲しかったんです。何と言っても、イタリア人ですから。はじめに、この名誉あるレクチャーの機会を与えてくださったBDFI会長のグレッグ・スミス(Greg Smith)氏にお礼を申し上げたいと思います。さて、私のレクチャーのタイトルは「共通語としてのダンス」です。

 

今日はみなさんに魔法のような特別なことを教えようというのではありません。今日は、多くの友人や才能ある若者達と共に、このダンス界の基本的なシステムがどのように成り立っているのか、ダンスに関する基本的なことを分析していきたいと思っています。人間は時には見えている上の部分に注目してしまい、見えない下の土台部分を忘れてしまいがちです。土台部分は目に見えませんが、「大切ではない」ということではありません。時に、より大切だったりします。

 

何かを発展させようと思ったなら、まずその理由を考え、それを尊重し、そして推移について心を開かなくてはなりません。そのためにも、私たちが使っている言葉を分析することから始めたいと思います。ひとつひとつの言葉が何を意味するのかをはっきりさせることがとても大切です。第一に、私達はいろいろな国からきていますしね。私自身はイタリア人です。私の英語は完璧ではありませんので、お許しください。

 

何はともあれ、一言ずつきちんと分析して理解することがとても大切だと思うのです。最初のスライドを見てもらいましょう。まずは「言語」という言葉を分析します。言語とは何でしょう? 言語とは、ある情報を暗号化し、それを解読するシステムのことです。それは、ある物から別の物へと情報を伝える道具でもあります。それがコミュニケーションです。

 

次のスライドをお願いします。コミュニケーションは、当然、一方的なものもありますが、相互的なものが理想です。コミュニケーションとは相互理解に基づく目標のために思考、感情、意図を交換し発達させる二方向的なものであると考えられる。二方向的なものであれば、感情や考え、あるいは、エネルギーの交換や発達をさせることができるからです。そして、お互いの共通のゴールを追い求めることが出来るのです。コミュニケーションをとるときにとても大切なことは、まず今の私のような、情報の送り手と、皆さんのように受け手、そして最後の、でも大切な、メッセージの三つが必要です。メッセージがなくてはコミュニケーションの意味がありませんので、メッセージが必要です。

 

 (スライド)
コミュニケーション       *送信者          *受信者          *メッセージ

 

ダンスではコミュニケーションがとても大切だと信じています。さて、イントロダクションはこれくらいにして、次は私達にとって一番大事な言葉、ダンスについて考えていきましょう。

 

(スライド)
ダンス 身体の動きで示すリズムと音楽的な芸術的表現の一種

 

ダンスとは、ボディの動きで表わす芸術的表現の一種です。そして、通常、音楽に合わせてリズミカルなものです。違う形のケースもないわけではありません。たとえば、歌の歌詞やリズムに合わせて一人、もしくは、複数の人が集まって一緒に踊る、そうしたケースもありますが、それはちょっとの間、横に置いておいてください。まず分析をしましょう。ある意味、現代の踊り方という言葉に焦点を合わせて鮮明にしてみましょう。

 

私たちがボールルームダンスと呼ぶシステムを理解するのはとても簡単です。基本的な目標を達成するのは簡単です。「私達は異性を引き付けるために、どう行動しどう反応するでしょうか」。これはとても基本的なルールで、人という種の継続 ― 単純ですが重要な目的のために必要です。特別なことではありません。とても基本的でものすごく大切なことだと、私は信じています。

 

コミュニケーションの達人はイメージを使います。達人たちがイメージをとても大事にするのは、1000の言葉よりもイメージの方が価値あるからです。そういうわけで、今日は皆さんにとても美しいイメージをお見せしたいと思います。最初にお見せしたい私のイメージに、ブーキー(Bokey)をご紹介したいと思います。ブーキーです。<会場:拍手> 彼女はハンガリー人で、とても美人です。褐色の肌、地中海の女性のようです。

 

次の女性を紹介しましょう。マリア(Maria)です。マリア、舞台へどうぞ。<会場:拍手> ご覧のように、マリアはロシア人です。美女です。ブロンドで、イタリア人男性の永遠の憧れです。 <会場:笑い>

 

さて、最後にもう一人お呼びしましょう。カリン(Karin)です。どうぞ! <会場:拍手> カリンはエストニア出身です。美しい人ですね。赤毛は、私的には超セクシーです。ありがとう、カリン。

 

このイメージを完成させるために、そして少しだけ夢をみるために、舞台をダンスホールに移します。そこでは、ハンターである男性は簡単に獲物である美しい女性の群れに出会うことができます。今日は三人の男性を連れてきました。全員イタリア人です。なぜでしょう? なぜなら、生まれながらにハンターの才覚を持っていると思っているからです。

 

3人の男達がダンスホールで絶世の美女たちに出会うとどうなるか、イメージしてみてください。しゃべるのをやめて、イメージにこの場を明け渡しましょう。ダンスホールではサンバの曲が演奏されています。特別なサンバで、ガフィエラ・サンバ(Gafieira Samba)です。 

<音楽。男性舞台に上がり、女性を選んで踊る>

 

 何も言うことはありませんね。特別なことではなく、ただただ楽しんでいましたね。踊りを。素敵なことです。皆さんのなかでこのガフィエラ・サンバを踊ったことのある人はいますか? ガフィエラ・サンバを。手を挙げてください、このスタイルのサンバを踊ったことのある人はいますか?

 

一人 ・・・ 少ないですね!

 

それはさておき、今のも踊りの一つに過ぎませんけれど、このレクチャーを通して、新しい刺激とアイデアを皆さんにお伝えできるきっかけになれば嬉しく思います。

 

ダンスは一緒に楽しく踊るというのが最初にくる基本的な考え方と思います。今、ご覧になったのもダンスの一種ですから皆さんも踊ってみてください、きっと楽しめますよ! レクチャーに戻りましょう。次のスライドを映してください。最初の大切なことは、あまり意識していないと思いますが、カップルとして踊るモチベーション、動機付けです。

 

(スライド)
第一。 重要だけれど恐らく現在は無意識/カップルとして踊る原動力/男性と女性がお互いを惹きつけ合うためにどのように行動し反応するか

 

それは、男女がお互いを惹きつけ合うためにどう行動し反応するか、です。これは私にとっては、とても重要なことで、決して忘れてはいけないことだと思います。もちろん、そこから発展させることはできますが、忘れてはいけません。

 

人々がこのように社交的なダンスを始めた頃を想像するのは難しくないと思いますが、その中から一部の熱狂的な人達が踊りを競い始めたのです。20世紀に入ってからアメリカとイタリアで始まりました。しかし最初の競技会はダンスのマラソン大会のようなものでした。競技会の基本的な形はパリで発展し、1901年に行なわれた最初の世界選手権ではカテゴリー分けはありませんでした。

 

1911年にはアマチュアとプロを分ける体制が確立しました。1922年にはロンドンで最初の世界選手権が組織され、英国スタイルが日々進歩して行く一方で、楽しみのダンスは消えていってしまいました。これもダンスの歴史の一部で、そうしたことを理解しておくことも、とても大切です。当然、人々は皆、ナルシズムであるという事も。みなさんナルシズムという言葉の意味をご存知だと思いますが、美しくありたいとすることは大切ですし、それは、ほとんどの人がもっている自然な本能でもあると思います。人がステップを複雑に変化させるのも、腕の使い方を研究するのも、ドレスの色を変えたりするのも、それもこもれも、美しく見せたいからです。

 

再びイメージにこの場を明け渡したいと思いますが、皆さんの協力が必要です。ほんの少しの間でいいですから、皆さん全員、目を閉じてみてください。少しの間だけですから、お願いします。今から夢を見たいと思いますが、目を閉じると、自分の中へ深く入って行けるからです。過去にタイムスリップすると想像してみましょう。

 

今、1970年代にいます。私たちは今、世界選手権の会場にいます。そして、フロアには、すばらしく美しいカップルが入ってきます。二人は、踊りの美しさと楽しさをあるがまま表現する大切さを 私たちに見せてくれます。さあ、皆さん目を開けてください。聞こえてくるのは美しいキューバの音楽、チャチャチャです!

 <ダンサー入場、踊る>

 

今の踊りにショックを受けましたか? いいでしょう。確かに現代の価値観で見ると、たくさん批判もあると思いますが、彼らがどれだけ楽しんで動いていたかという分析をしなければなりません。これもダンスにおいてとても大切なことの一つです。まるでロボットのように踊り、楽しまないのでは、何かを失っています。確かに動き方は発展してきました。確実に。それは、ダンサーが日々精進してるからです。しかし、・・・ 次のスライドをお願いします。 ここに、二つ目の踊る原動力が示されています。美しくあろうとすることの大切さ。

 

(スライド)
第2.踊るための強い原動力。美しくあろうとすることの重要性。

 

これもまた、私たちが見たいものの一つです。私達はその重要性に気付かなくてはならないと思います。さて、タイトルの「共通語としてのダンス」に戻ってみると、確かにダンスは芸術です。ですが、競技をするためには、何かの価値付けが必要ということです。これから三日間競技が行なわれるわけですが、そこでジャッジする私達の仕事は、本当にハードです。今回の競技会のみならず、世界中の競技会でその重労働をこなすためにも、共通の言語が必要なのです。フロアから読み取れる何かが必要なのです。

 

だから、私はこの基本的な構造を皆で保っていかなければならないと思っています。なぜなら、強固な基礎があって初めて、頑丈な建物を建てることができるからです。将来、その基礎が失われるようなことがあれば、建物も残ることできません。技術面で言えば、ダンサーには良いポスチャーが必要で、よいポスチャーがあれば、よいバランスで動くことができます。よいバランスで動ければ、正しいタイミングで踊ることができるでしょう。そうして、必要なことが揃い、練習し続けていくならば、正しいフットワークができるようになり、そのようにして、人々はこの100年の間に、細かな技術的なことを研究し発展させてきました。

 

しかし、私はもう一つ理解しておかなければならない重要なことがあると思っているのですが、それはある意味において、基本構造には、人としての強い特徴の一つ、それがなくてはならない訳ではない、ということです。その、もっとも強い特徴のひとつは何かと言うと、個性だと思います。次のスライドを見せて下さい。いいですか、ある意味で、という意味で聞いてください。基本構造といっても、それは人間として持っている一番強い特徴、すなわち個性を忘れるというわけではありません。

 

(スライド)
われわれ人類の最強の特徴である個性を捨ているという意味ではない。

 

それを理解してもらうために、再びイメージを使って、幾つかのコミュニケーションのとり方を見て頂きたいと思います。情報の受け手は同じ、皆さんです。情報の送り手は何組か異なるダンサーを使います。全員が同じルンバを踊る中で、どのようにして、違ったメッセージを皆さんに発信することができるか、という事をお見せします。音楽は同じルンバで観客も同じメンバー、でも踊り手が変わります。

 

まずは最初のひと組に踊ってもらいましょう。典型的なキューバン・ルンバの曲で踊ってもらいます。パーカッションがたくさん入った曲に乗り、男は ― キューバではマッチョとでも言うのでしょうか ― パートナーと遊びます。彼女は彼を信頼し身を委ねます。彼に身体を預け、そこは、愛の力で一杯になるのです。それでは踊ってもらいましょう、マニュエルとカリン(Manuel & Karin)、ルンバです。

 <ダンサー踊る>  <会場:拍手>

 

百聞は一見にしかず、イメージは言葉よりも強いですね。さあ旅を続けていきましょう。典型的なキューバの女性を見た後は別のパターンを見たいと思います。今度もルンバですが、今回は女性が誘います。男性の目を覚まさせて、一緒に楽しみましょうと声をかけます。そしてふたりは戯れ始めますが、何と言いましょうか、とても洗練された駆け引きをしていきます。次のルンバをお楽しみ下さい。

<音楽演奏、ダンサー踊る> <会場:拍手>

 

とても美しいダンスでした! ご紹介するのをすっかり忘れていました。もう一度フロアへお願いします。マウリツォ&アンナ(Maurizio &Anna)です。ありがとうマウリツォ、ありがとうアンナ。忘れて申し訳なかったです。さあ、旅を続けましょう。今度もまた異なるメッセージです。カップルであることはとても大切なことです。でも、がんじがらめになれという意味ではありません。例えば、こんなことも時には面白いと思います。お互いが本の少し自分を前に出す時間を持つというようなことも。もちろん、すぐに相手の方へ戻らなくてはいけませんが、再び会うときには、新しい、そして今まで以上のエネルギーが生まれると思っています。その三つ目のルンバをミルコとマリア(Mirko & Maria)に見せてもらいましょう。

<音楽演奏、ダンサー踊る> <会場:拍手>

 

彼らのルンバはいかがでしたか? 二人は異なるメッセージを伝えようとしました。彼らは共通の言語、つまり、誰もが知っている、一般的なベーシックのフィガーを使いました。それを発展させ、かつ、個性を忘れずに踊ってくれたのです。どこを取っても、とても大事なハーモニー、つまり調和を見せてくれました。

 

(スライド)
ハーモニー 音楽的な解釈を忘れないでください

 

ハーモニーはダンスでとても大切な言葉だと思います。どうすればできるのでしょう?ボディを使います。まずは自分のボディが調整されていてはじめてパートナーと調和することができます。しかし、これから数日間続くイベントでも、ほかのイベントに於いても、特に競技選手に覚えておいて欲しいことは、音楽の解釈です。素晴らしい才能に恵まれているダンサーが、踊るというより走っているようなダンスをしているのは、見ていて悲しい気分になります。走り回ることに対し、何を言えばよいのでしょう。私たちが求めるゴールはそうではありません。音楽を聴いてください。音楽は動くための正しい感覚を与えてくれます。踊るための適切なムードを。

 

そろそろレクチャーをまとめましょう。今日話してきたポイントをおさらいします。まず一つ目は原動力。それは、男女がお互いに惹きあうための行動と反応についてでした。二つ目の原動力は、美しくあろうとすることの大切さ。そして、ダンスは芸術ではありますが、競技ダンスにおいては共通の言語が必要だということ。けれどもそれは個性を殺すということではありません。個性を殺してはいけません。すべてが調和していること。そして最後にとてもとても大切な、音楽の解釈についてお話しました。

 

最後に、今日ここでレクチャーをする機会をいただけて本当にうれしく思います。このような機会をくださった会長、ご招待ありがとうございます。そして観客のみなさん、熱心に聞いてくださりありがとうございました。そしてまた、ダンスでとても大切な役割を担っているダンサーの皆さんに感謝を伝えたいと思います。では最後に、全員にもう一度フロアに出てきてもらい、ルンバを踊ってもらいましょう。共通語としてのダンスを見せてもらいましょう。

<音楽演奏> <ダンサー踊る> <会場:拍手>

 

◇ ◇ ◇

出典:ダンスウイング59号付録DVD
英語監修:Geoff Gillespie

英語翻訳/アフレコ:神元 誠

 

ハッピー・ダンシング!