IL16 第10章 リードとコミュニケーション

投稿者: | 2020年5月2日

「ビル&ボビー・アービンのダンス・テクニック」(白夜書房/神元誠・久子翻訳/2011年)を公開します。原書は2009年に英国のDSI社から出版された”THE IRVINE LEGACY” (Oliver Wessel-Therhorn)です。

 

目次

書籍「ビル&ボビー・アービンのダンス・テクニック」

 

 

第10章 リードとコミュニケーション
Lead and Communication

リードに関する話には際限がありません。ですから、一言で表現してみましょう。リードとは「会話」です。つまり、一人が話しかけ、もう一人がそれに応える、そんな感じです。会話ですから二人が同時に話す(動く)ことはありません。一人ずつ話(動くこと)をします。

 

女性を非常にうまくリードするには、男性は、女性がどっちの足の上にいるか、そして、いいバランスでいるか、という事を感じ取らなくてはなりません。リードは様々な局面で絶えず使われていなければなりませんが、ここでは特に「ムーブメントを起こすときの」と限定してお話を進めましょう。前進・後退のリード、と言う風に。

 

 

― 前進・後退のリード ―

男性前進の動きに関するリード&フォローには次の3段階があります。

 

段階1.
取り合っている手、そして、相手に触れているもう一方の手には極自然なトーン(張り)があります。この手を使い(手のみで)、男性は女性に後退の動きを次のようにして伝えます。男性は自分の手を前方にゆるめてトーンを減らすのです。もちろん、手を前に出すのは、目には見えない、極わずかな程度です。

 

段階2.
段階1での男性のリードに応えて、女性は自分の中心を動かし始めるのですが、このような表現もできます。「最初におへそを後退させます。そして男性のセンターが出てこられるスペースを作るのです」と。女性は自分の足の上から離れて行ってはいけません。それをしてしまうと、自分でタイミングを取り、男性からリードを奪うようなものです。

 

段階3.
段階2で女性が後退し始め、男性が動きを起こさないとすると、二人の中心の間にギャップが生じます。そのギャップが見て分かるほどにならないうちに、男性はそのギャップを埋めにかかります(この動きはリアクションになります)。

男性後退の動きに関するリード&フォローには次の2段階があります。

<段階1> 最初におへその部分が後退を始めます。その間、両手を含むその他の体の部分は同じ所に留まっています。

<段階2> 段階1の男性の動き始めを受け、女性は自分のセンターを男性のセンターの動きに着いて行き、コンタクトを失わないようにします。

 

要約すると、男性であれ女性であれ、前進の動きをする人がコンタクトを保つ責任を持ちます。次章「女性の役割」の中でもリードに関することがいろいろ出ていますので、そちらも参考にしてください。

 

 

― アウトサイドへのリード ―

男性は、女性をアウトサイドにリードする方法と、自分が女性のアウトサイドに出る方法をしっかり学ばなくてはなりません。このアウトサイドに関しては原則があり、それは、すべてのアウトサイドにステップする前にはサイド・リードを使うという事です。もちろん、このサイド・リードは回転を伴って行われます。

 

このことを、フェザー・ステップを例に説明しましょう。フェザー・ステップでは右回転を伴いますので(男性が右に倒れて踊っていくことではありません)、1歩目右足にいる間中を使って2歩目のサイド・リードの準備をしておきます。そのサイド・リードを維持したまま3歩目に動いていくと、自動的にアウトサイド・パートナーに出ることができます。

 

スロー・フォックストロットのエクステンディド・リバース・ウェイブでバック・フェザーを踊るときには、二つの選択肢があります。典型的な踊り方は、女性がアウトサイドに出る形ですが、これを踊るときは、男性は第1Qで右回転を伴うサイド・リードを使い始めることです。そうすることで、女性は苦労なく男性のアウトサイドに出て行くことができます。もう一つの踊り方は、クローズド・ポジションで踊り通す踊り方ですが、この踊り方の場合にはサイド・リードは使いませんし、回転もずっと控えめに行います。

 

 

― スパニッシュ・ドラッグ ―

アクションがあり、それに対してリアクションがあるという事はお分かり頂けると思いますが、アクションとリアクションの間には少しの間があります。それは外から見ても分からない、ごく僅かなものですが、これがあるからこそ、自分もパートナーも自由な動きができる訳です。

 

それに対し、女性のリアクションがはっきりと見えるようにするステップもあります。これはタンゴで頻繁に見られますが、それを効果的に行うには、男性は自分から女性が離れるようにリードします。スパニッシュ・ドラッグを例に、その過程を見てみましょう。

 

 

スパニッシュ・ドラッグにはライト・ランジから始めます。男性は、まず自分の右膝を緩めてセンターを僅かに右に回します。次に男性はウェイトを左足に移し、左回転を起こして女性と元のパラレル・ポジションになります。

 

スパニッシュ・ドラッグを踊っているトップ・ダンサーを見ると、とても大きな動きをしていますが、それはどのようにして得られるのでしょう。ここで思い出してほしいのが、パートナーとは同時に動かないという事です。男性が先に動き、次に女性がそれに呼応する、という踊り方です。

 

通常のスピードで踊っている場合は、この時間的ギャップは、あったとしても、ほとんど目に見えない為、完璧に調和して踊っているように見えますが、スパニッシュ・ドラッグの場合、その時間のギャップを意図的に見えるようにしているのです。もちろん、前述したようにアクションとリアクションの間には時間差があり、パートナーは可能な限り素早く反応しているわけですが、スパニッシュ・ドラッグの場合、女性がリアクションを起こす前に、男性は左足へと体重移動を始めています。その瞬間、あたかも男性が女性を自分から遠ざけるリードをしたかのような錯覚が起きるわけですが、実際は、その反対のことをしている訳です。

 

スパニッシュ・ドラッグに入る前に使われるライト・ランジを研究してみましょう。第7章ではプロムナード・ポジションの比較をしましたが、ここでは1950年代と現代のライト・ランジの比較です。

(左) レン・スクリブナー&ネリー・ダガン (右) ウィリアム・ピノ&アレッサンドラ・ブッチャレーリ

 

 

― チェックト・ナチュラル・ピボット ―

チェックト・ナチュラル・ピボットからバック・ロックのお話をしましょう(= チェックト・ナチュラル・ターン ~ ストップ・ロック)。このバック・ロックに入る前に使われるチェックト・ナチュラル・ピボットは、時々、ランジ・ロールと間違われますが、二つは、全く違うものです。バック・ロックに入るには、男性は右回転する動き、例えばナチュラル・ピボットからスタートしますが、女性にチェックのリードをするために、男性は右足前進でもう一度ピボットするかのようにステップをします。しかし実際には、その右足で回転することはなく、左足を90度方向へのサイド・ステップにして方向を変えています。

 

この時の右左の2歩を“Q”の中で行い、カウントは“Q&”になります。このタイミングで行うと女性は反応するのに時間がかかり、男性は左足の上で女性が再び右足に乗って来るまで待つことになります(“Q”でのヘジテイト)。それで、ランジ・ロールのような印象を与えているのです。

 

 


(「第10章 リードとコミュニケーション」おわり)