#026 私の好きなレクチャー11 ”Our Ballroom” by Mirko & Alessia

投稿者: | 2020年4月19日

2009年、ブラックプールのコングレスでミルコ&アレッシアが「私たちのボールルーム」というレクチャーをしました。ヘッド・ウェイトを主題に、使った場合と使わない場合の両方を見せてくれる素晴らしいレクチャーです。

かつてこのDVDを見ながら書下ろし・翻訳したことがありました。すっかり忘れていましたが、その時のデータを見つけたので、再び忘れたり紛失したりする前に、この「私のダンスノート」に記録として残します。映像は英語のみですが、映像だけでも、書き出したテキストだけでも楽しめると思います。

 

“Our Ballroom”
by Mirco Gozzoli & Alessia Betti
from 2009 WDC Congress

※YouTubeは限定公開にしてありますので、ここだけでご覧ください。
*This video is ‘limited release‘ for this blog.

 

◇ ◇ ◇

 

「私たちのボールルーム」
by ミルコ・ゴッゾーリ&アレッシア・ベティ
(テキスト)

Mirco:  ご存じの通り、このレクチャーにおける私たちのタイトルは「私たちのボールルーム」です。また、多くの方がご存じでしょうがアレッシアと私は1989年にパートナーを組みましたので、今年は20周年記念となります。そこで、私のダンス向上を助け続けてくれている特別な人に、大きな拍手をお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?

皆さん、世界チャンピオンのアレッシア・ベティに拍手をお願い致します。

 

ありがとうございます。さて、今回のタイトルが意味する所は、私たちが成功を収めるまでに作り上げてきたスタイルのことも含め、より良い踊りのために何をしてきたかということになるでしょう。20年間の練習やレッスン、20年間に得た情報や喜びの総てをお伝えするのは少し難しいものがありますが、頑張って、何か皆様に役立つヒント になればいいなと思います。

 

長い間ダンスをしていて解ったことは、ちょっとした小さな ことがダンスの質やレベルの向上にとても重要だということです。そこで、今朝のこのレクチャーでは、ひとつのことに触れてみようと思います。それをすれば、他のことも良くなるからです。例えば、足の使い方やフットワークを向上させて行けば、平行して、踊りが軽やかになり、また、ムーブメントの質も向上し、スイングも良くなります。つまり、一つのことを考えることによって、他の多くのことも良くなるのです。

 

これからお話しすることは少し高度ですが、動きの質や、表現、音楽性、そしてアクションの向上にも繋がって行くことです。もし、踊りの中で行なっている一つひとつの事を、それぞれ適切に行わなかったとすると、ダンスは破滅的になるでしょう。そのために、何よりもまず、最初にしなければいけないことは、パートナーとの協力です。次に先生の協力を得て、カップルの身体にあった適切な動きを見つけなくてはいけません。

 

今日はヘッドの使い方に焦点を当ててお話をしましょう。それには、頭の中がどうなって いるかを知らなければいけません。まず、頭(頭脳)を使うこと。つまり、何をすべきかを考えるのはとても大切です。そして、なぜそれをしなければいけないかを。最近、ただただ踊りを真似しているカップルをたくさん見かけますが、そうしたカップルは動きの起こりについて考えることなく真似しています。ですから、頭を使おう、考えようというのです。

 

二つ目に、頭が背骨の上に位置することを理解しなければなりません。つまり、首に直接くっついているのではありません。もちろん首につながってはいますが、首は筋肉で、頭 は背骨の最上部につながっているのです。また、ダンスにおいては、背骨の大元を動かすこと重要です。つまりヒップのことで、ヒッ プからスイングやスウェイ、そしてムーブメントが創りだされるのです。

 

同様のムーブメントをヘッド・ウェイトを使って作ることも重要です。ご存知のように、頭は体の中で最も重い部分です。頭の重さはおよそ6キロから10キロあります。勿論軽い人や重い人がいるでしょうが(笑)。その位重いのですが、背骨などにしっかり支えられているので、重さを感じないでいるのかも知れませんね。もし頭と同じ重さの物を長時間持つとなると、きついと感じることでしょう。ダンスにおいても同じです。ですから、頭を正しいポジションにすることは大変重要になります。勿論、 自然にそれが出来なくてはいけません。最近、こんな風に頭を立てている人を良く見かけますが、これでは筋肉が固まってしまいます。筋肉だけではなく体全体を使って支えなくてはいけません。もちろん、女性のヘッド・ウェイトは男性の膝やヒップからのライン上で支えられています。

男性は、女性のヒップのこの領域から出てくるライン上にいます。これだと、私のヘッドの位置はとても自然ですから、動きもより自然な感じになります。例えば、アレッシアのヒップが落ちると、私のヘッド は前へ行ってしまいます。なぜなら彼女は私の中心を通して私を支えているからです。一方、私は私 の中心を通して彼女を、そして彼女の頭を支えているのです。

(ここで拍手をする人が)ありがとう。後からお支払いしますね。

 

先ほど話しましたが、もし頭のように重い物を長い間持っているとすると、結構重労働になりますから、筋肉が充分に呼吸できるようにしなければいけません。このような首の形で固めてしまって踊ろうとすると、このような結果になるでしょう。

 

ワルツをお願いします。ヘッド・ウェイトを使わない悪い見本をお見せしましょう。

ごらんのように、とても踊りにくいです。首も肩も痛くなってしまいました。同じことをタンゴでもやってみましょう。結構大変ですよ。まずはアレッシアに拍手をお願いします。こ んな風にヘッド・ウェイトも使わず体を固めた私と踊るのは初めてなのですから。肩も首も頭も、自由な感じが全くしませんでした。それでは最後にヴィニーズ・ワルツでもやってみましょう。

 

(踊り終わり)笑顔は作っていますけどね。以前はこんな風だったかも?       少し前まで??

 

ヘッド・ウェイトを使わない悪い例をおみせしました。しかし、どれくらいヘッド・ウェイトを使うかというのは難しいことです。しかし、ヘッド・ウェイトを上手に使うと、いろんな所で踊りやすくなりますし、うまく踊れるようになります。

 

例えばタイミングを取るにも、ヴィニーズ・ワルツでは、ご覧の通りヘッドを使わずにタイミングを合わせるのは容易な事ではありません。ムーブメントが出ないので音楽を充分表現できず、虚しい感じさえします。もちろんもっと上手にリードできないことはないでしょうが、今の踊りに彼女がついてくるのは難しかったでしょう。まるで固まりと踊っているように感じたに違いありません。それに、私は彼女に動く機会を与えることができませんしたから、彼女は踊りの解釈や音楽性を自由に表現することもできませんでした。そしてバランスさえ違う物になってしまいました。私がダンスにおいてバランスと言うとき、それは静的(Static)なものではありません。

 

では、音楽なしでいくつかのライン・フィガーをやってみましょう。例えば、ホバー・コルテ、セイム・フット・ランジをヘッド・ウェイトを使わないでやると、バランスは変化のない静的な物になってしまいます。足のことだけを考えています。もちろんホールドやバランスについても考えていますが、この踊り方だと筋肉を固めて使うことになり、ボディを自由に使って踊ることはできません。

 

同じフィガーでもヘッド・ウェイトを使えば、もっと美しい表現ができます。それは、膝やヒップの動き、そしてボディの動きが創りだすムーブメントが見えるからです。同時に、運動はいつも下から上にと上から下に行われ、この二つのエネルギーがボディの中央で合わさるために、安定した踊りができるのです。ですから、ヘッ ド・ウェイトを使うべき所を知るのはとても重要です。

 

 

例えば、男性は女性に進行方向を伝えるためにも、いつもヘッド・ウェイトを使わなければなりません。女性に解ってもらうには、次の方向をヘッド・リードすることがとても重要です、例えば、ナチュラル・ターンを踊るとしても、すでに予備歩の時点で彼女はどこに進ん で行くのかを感じ取っています。 このようにヘッド・ウェイトを使うことで、そして、女性にセンターを与えることで、彼女は次の進行方向を感じ取ります。ナチュラル・ターン3歩目の最後でも固まったままではありません。

 

脚部を使い、足を使うのも重要ですが、その前に、彼女に次の進行方向を知らせようとします。スピン・ターンやターニング・ロック、あるいは、プロムナードではヘッド・ウェイトを使 って女性を次ぎの方向へ誘います。そのようにして行われる動きが美しいのは、いつも男性が女性に次の方向を、そして、そのために必要な運動量を伝えているからです。次の回転の大きさも伝えているのです。そしてもちろん、女性はヘッド・ウェイトを使ってシェイプを終わらせ、ヘッド・ウェイトを使って男性とカウンター・バランスになり、二人のバランスを取るのです。

 

バランスのお話しをしていますが、ダンスで動いているときも、ライン・フィガーのような 時でさえも、決して固めた、静的バランス(Static Balance)では踊っていないのです。ムーブメントは決して止まらないのです。音楽が続いているのですから。つまり、静的バランスではなく動きのある動的バランス(Dynamic Balance)を使うのです。解りますか?

 

それではアレッシアと二人で、今度は正しいヘッド・ウェイトの使い方をして、もう一度ワルツ、タンゴ、ヴィニーズ・ワルツを踊って見せましょう。音楽で。ワルツでは当然、より柔らかい感じで踊ります。バランスを感じ、お互いのセンターのコネクションを感じながら。そしてタイミングも感じで。ヘッド・ウェイトも使いますが、同時にではありません。お互いのトップはとても反対側に感じています。反対側を観るのですが、これがとても難しい所です。反対の動きをしながら、一つになって見えるように踊るのです。では、タンゴでやってみましょう。

 

タンゴでもヘッド・ムーブメント、そしてヘッド・ウェイトを使い、タンゴらしさを表現します。先ほど踊ったタンゴだと、まあ、動きもアクションも悪くなかったかもしれませんが、レベルの低い物でした。音楽から与えら れる感動をいい形で表現することもできていませんでしたが、今度はどうでしょう?では反対側から。

 

ヴィニーズ・ワルツもやってみましょう。

 

私の髪もスイングしていましたね。前とは違うでしょ?  顔に感じる風の度合いも違います。ヘッド・ウェイトを使うので、スイングもアクションも大きくなり、大きく進むようにもなります。もちろん、バランスは固まったバランスではなく、動的なバ ランスです。そして、私たちのエネルギーさえ、ご覧の通り、大きくなっていきます。

 

ヴィニーズ・ワルツの話を少しすると、速い踊りなので、スイング・アクションを決して止め ないことが重要です。同じムーブメントが繰り返されるのですから。ヴィニーズ・ワルツはスイングとスウェイ、シェイプ、それにヘッド・ムーブメントの練習にとてもいい踊りです。初めのスウィングを見てもらうと、私が進むべき方向へより大きく動けるようにアレッシア はヘッド・ウェイトを使って助けています。足を閉じるときも、ヘッドを止めるようなことはしません。先ほどお見せしたように反対側への回転を始めるのですが、同時にアレッシアを次の動きへと導いているのです。

 

ヘッド・ウェイトとトップ・ラインを使って。フレッカールでも同じで、先にお見せした時にはアレッシアの首が固まっていましたが、それをされると、私の右側がとても重くなります。身 体を固めて踊ると、エネルギーの流れがストップして感じられます。反対に、お互いに反作用を利用し、ヘッド・ウェイトを使って踊り、私と同じように彼女がヘッド・ウェイトを使うと、 ものすごく私のムーブメントを助けてくれるのです。そしてもちろん、私も同じようにします。肩と背骨を固めてしまうと、回転の終わりは決まらないでしょう。動きに関連づけたヘッド・ポジションを取るようにします。つまり、ネックの部分にはいつでも僅かな遊びがあるのです。そのためにも、ここの筋肉は自由にしておかなければなりません。

 

残念ながら、持ち時間が来てしまいました。しかし、今回のこの方法を使って皆さんのダンス が向上することを願っています。アレッシアと私から、今朝のこのレクチャーに参加して下さったことに感謝申し上げます。そして、WDC と BDC の皆さんに、この機会を与えて下さったことに感謝申し上げます。

 

◇ ◇ ◇

 

翻訳:  神元    誠(誤りがあった場合はご容赦願います)

 

ハッピー・ダンシング!