#024 私の好きなレクチャー9 “Artistry in Dance” by Kenny & Marion Welsh

投稿者: | 2020年4月17日

2009年UKコングレスからケニー・ウェルシュ(Kenny Welsh)のレクチャー映像を紹介します。レクチャーの中でケニーが音楽を感じたままにステップし、それについて行く奥様。ちょっとした失敗もあるところから、事前の詳細な打ち合わせがないことが分かり、一層リード&フォローの妙を感じました。

これは隔月誌ダンスウイング55号の付録DVDです。日本ではダンス雑誌の付録DVDで日本人によるレクチャー/レッスンを見ることができますが、海外のレクチャーはなかなか見ることができません。アフレコ付きだと尚更です。そうした中、当時、スタジオひまわりの海外部とダンスウイング編集部の両方に携わっていた私は、日本のダンス界にこうした良質のレクチャーを提供できることを心底嬉しく、また、それができる仕事を誇らしく思いました。映像撮影、映像からの英語書き起こし、翻訳、アフレコ作業。それだけでも雑誌価格500円を遥かに超えていた筈ですから!

HP「私のダンスノート」ではサークルレベルの記事を書いていますが、サークルの人たちにも、こうした質の高いレクチャーを見て欲しいと思います。

 

 

2019 UK Lecture
“Artistry in Dance”
by Kenny & Marion Welsh

出典:Dance Wing 51 Nov, 2009
英語監修:Geoff Gillespie
レクチャー翻訳/アフレコ:神元 誠

 

 

◇ ◇ ◇

 

日本語の書き出しを紹介します。文字で読むと、また別の発見があることでしょう。

 

2009 UK Lecture
“ARTISTRY IN DANCE”
by Kenny & Marion Welsh

 

MC:レクチャーの最後を飾るのはボールルームについてのお話で、お迎えするのはカップルです。アマチュア時代にはワールド・チャンピオン、プロとしてはブリティッシュ・ナショナル・チャンピオンに輝いています。今日の午後,レクチャーのタイトルをお聞きしたのですが、先ほどまで決まっていませんでしたので、お伝えする事ができません。ただ、いい内容になる事は間違いありません。お迎えしましょう。ケニー&マリアン・ウェルシュです。

 

Kenny: みなさんこんにちは。始めに今回ご招待いただきましたBDFIに感謝申し上げます。こんな所に立つ羽目になり、今度あったら殺してやります。今日の皆さんは非常にパワーが溢れていますので、様々な事をできる限り明確にして行きたいと思っています。でないと、レッスンにこなくなってしまいますから。

 

さてみなさん、実はタイトルをどうするか迷っていました。いろんなアイディアがあり過ぎ、妻も協力してくれますが、考えもつぎつぎ変わってしまうのです。それは踊っている時も同じで、決められたルーティンを守れないので、「どんなコリオグラフィーで踊りたいの?」と、妻に聞かれるのです。もう決まっているんだ、と話した先から変わって行くのです。この癖は競技会の最中でもなおりません。

 

かつてブラックプールのチームマッチでクイックステップを踊ったら、マリオンが言うのです。「素敵だったわ。だれの振り付け?」と。ですから今日あなたに振り付けをしても、明日には完全に変えてしまうかも知れません。でも、デービッド(MCのシカモア)がラテンについて話していたように、ボールルーム・ダンスの基本にのっとっていなければなりません、ね。

 

今日のタイトルは「ダンスの芸術性」にしてみました。格好いいでしょ? それで、その定義はというと、メモを見なくてはなりません。

「天性の技能か原理によって誘導されたそのアプリケーション」

私には難解すぎて勉強が必要ですが、そこから「原理」を取り出して調べてみると、定義には「自然な動きが行える価値に基づいた技術」とあります。

 

では、天性とは何か? 踊りに於ける「自然」とはなにか? 二つの考えが思い浮かびます。ひとつは「生まれつきのダンサー」、もうひとつは「自然に踊れる人」ですが、どこが違うのでしょう? 私の考えでは、「生まれつきのダンサー」とは、身体的運動をするための技能、才能、能力、ひらめきなどの能力を持っていると思います。自然に踊れる人」とは、見る人に何かを期待させるものを持っている人です。なにを期待しますか? このレクチャーではそうしたことについて触れて行きたいと思います。 この競技の世界には沢山の「生まれつきのダンサー」がいると思います。素晴らしいダンサー達が。でも、自然に踊れる人はそういないようです。

 

私達が競技選手だった頃、一番大きな目標は演じる事でした。演じる。ダンスで演じる場合にも,いろんな分野が考えられますが、芸術的な部分や自然な部分になってくると、それはどこからやってくるのでしょう? きっと皆さんやジャッジの人達には、まず、外見から始まることと思います。では、外見とはなにか? ホールド? 見かけ? あなたはどう定義しますか?

 

ポーズ、外見、体形と頭部の動きに関連した芸術的発展の最大コントロールを可能にするところの正しい姿勢。

これはどういう意味? つまり、正しいポスチャーをとり、己のベストの能力を表現するためにシェイプを発達させ、よって、相対的外見がヘッド・ポジションに対して積極的な影響を持つことです。

 

次に、腕もあります。皆さんは、一体全体正しいアーム・ポジションを体得するためにどれ程時間を費やしましたか? 何時間、何週間、何ヶ月、あるいは、何年? そしてレッスンで先生に、「さあ、やってみてください」と言われてやると、ものの2秒ほどで終わってしまいます。私が5年もかけたことを!実際、そうした部分がきちんとできるようになるには長年かかるのです。単に筋肉とか、体を鍛えることではありませんから。

 

では、最初に行いたいことをお見せする前に、ナチュラル・ムーブメントに対する考えを発展させたいと思います。マリオンが手伝ってくれることになりました。私たちが実質的な練習をしなくなった、その何年も前から、離婚届が食器棚の上で私の帰りを待っています。変化が起こるかも知れません。

 

最初はヘッド。ボディの上にあります。いい感じで乗っています。左に向いても右に向いても良いです。どうして? そんな事を考えたことがありませんか? なぜ左にするのですか? なぜ、右にするのですか? こうした質問を生徒にするたび、返ってくる答えは自然物理学的な説明や、ピタゴラスの定理的なことばかりですが、基本的には、最初にボディ・ポジションがあり、そこからクロース・ポジションをつくり、そこにボディが美しく見えるようにすることで、頭の位置が決まるのです。そして、解剖学的にはボディの内部に繋がっていて、そこからどんどん発展させていくことができます。

 

こんにちのボールルーム・ダンスで私が特に嫌いなのは、踊りに入るや否や男性の腕が折れてしまうからです。

(文字では分かりにくいので省略)

 

皆さんの多くは、CBMという言葉をご存知と思いますが、私は教えている時にこの言葉を結構使う傾向にあります。ちょっとオーバーに説明するせいか、小さい子がやってきて、こういう事があります。「わかんない。ここん所で回るものって何? わかんない」と。オーバーな説明になっているのかも知れませんが、教えようとすることは、例えば女性の顔を開いて欲しい時、私は背中を使い、背中を回すことにより、女性にその情報を与えています。私のに着いてこられるように。

 

女性も男性に同じ事ができます。タンゴ・ポジションでたち、バック・コルテをしたとすると、女性が目立つようなことをします。そこにちょっとした緊張が起こりますので私は、今度は自分の番と考えます。たまには目立ってもいいじゃない、と。そこで女性に、もう少し情報をくれるように頼むと、マリオンは背中の回転を止めるのです。二人が正しい方法で行なえば、二人のエネルギーを調整することができるのです。

 

次は、二人のポジションを決めるときの事ですが、ポジションは幾つありますか? 複雑なルーティンを使いますが。ものすごく、ものすごく単純に言えば、私たちはクロース・ポジションにいます。ここから歩こうとすると、オープン・ポジションになります。クロース・ポジションで立ち、ここから歩こうとすると、オープン・ポジションになります。ボディは回転してもお互いに平行にあります。この形の中で。基本的には二つのポジションがあるのですが、この二つのポジションの中で変形があるのです。クロース・ポジションにいて、前進と後退。瞬間的にアウトサイド・パートナーにもなれますが、これもクロース・ポジションのままです。次の瞬間、左アウトサイド・パートナーにもなれます。

 

今度はプロムナード・ポジションを取り上げますが、基本的には同じです。オープンで、前進し、オープンで後退。大した違いはありません。つまり、とてもシンプルに、二人の動きをクリアにしているのです。自然に行なえていればいいのです。お互いにストレスをかけずに、いい形で、いい動きになっていれば。

 

次は足についてです。何をするにも、足が私たちを運んで行ってくれると、思っています。前進しましょう。その方向を変えたかったら、足を回転させればできます。そこで、女性のヘッドのために私が行ったことはCBMで、それを使って足の変更方向を知らせるのです。ここでも、お互いの自然な動きを壊すことなく、お互いの形を壊すことなく、行います。

 

ここまで、まっすぐな形とかポスチャーについて触れてきましたが、実際にどうすべきかについてはまだ、触れていません。時間がないからです。それに関しては、レッスンにいって先生に尋ねられるなどして解決してください。

 

例えば、いつマリオンはヘッドの回転を行なうのでしょう? 勿論,彼女は私の伝え方を知っていますが,何を伝えたいかは知っていても、問題はその方法です。ボディ・ウェイト、重力、フット・プレシャーがありますが、これらをどのように関連付けるか、それには、フロアとコミュニケーションをとるのです。どういう意味かって?

 

足です。使う脚部のどの部位を使うかにより、どのような情報をパートナーに対して発信するかが決まるのです。たとえば、プロムナード・ポジションになりたいなら、私はマリオンの頭部に情報を与えます。ヒップ・ジョイントを少し伸ばすことで女性は刺激を受けます。トップを持ち上げることで、トウに上がる事で動きを終えます。分かりますか?

 

プロムナード・ポジションから動きはじめたい場合、これはちょっとトリッキーですが、二人の動き始めを彼女に知ってもらいたいので、再びヒップを持ち上げ、脚部を動かし、左ヒールを通してロアーすることができます。彼女は重力を感じ、その時点で、カップルとして出て行くための刺激を感じるのです。

 

ここからカウンター・バランスにすることもできます。でも、結局のところ、床にしっかり立ち、そうすることで、床に捕まえてもらうようにしなければならないのです。きちんといられないと、体は落ちて、別の悪いことが起こってしまいます。予備歩でも同じ事がいえます。タンゴのリンクでもそうです。もし彼女のヘッドを向けさせたかったら、ステップしながらヘッドを開かせますが、その瞬間を指示しなくてはなりません。

(省略)

 

ファイブ・ステップを取り上げましょう。

話すのをわすれていましたが、いったい、どっちが開くのでしょう。妻? それとも私? 答えはイェスです。つまり、どの方向へ進んで行くかによるからです。ファイブ・ステップをコーナーに踊ると、私は既にプロムナード・ポジションになっています。マリオンではありません。よって、彼女は技術的には開いている事になります。

 

この場合はマリオンが開きます。そして次の動きに。こうした事をお互いにすることができます。

シャッセをする場合、どちらもプロムナード・ポジションではありませんから、そこで合図を送りつつ、ヘッドの準備をし、膝をゆるめ、情報をあたえて

and tick, and tick, and tick, and right. Buzz, buzz ここから開きます。

 

こんな所かな。つぎは歩幅を決めなくてはいけません。ところで、ごめんなさい。ちょっとだけ踊らせてもらいますが、床屋に行ったので、残念ながら空気抵抗がなくなったので、動きがすごいと思います。制御が必要です。

 

それで、いいですよね。そこで、動こうとする時、まず、彼女にバックしてもらいます。どのくらいの大きさで? 足にボディ・ウェイトをのせると、女性の足も動き始めますが、まだどのくらいの大きさかは決めていません。そこで膝を使って知らせます。CBMをかけながら、お願いしますという風に。

 

これじゃだめ。

プリーズ。

 

私は女性をコントロールしなければ気が済まないたちなのです。押している訳ではありません。女性はこんな風に動きはじめます。そこで膝を前に使って次のステップへと動きをつなげます。

 

こうした動きが一体となり、関節を使って自然な動きをつくりだします。女性の方に倒れないようにしますが、女性がリアクションを起こせるに十分な情報を与えるようにします。時には女性が男性に情報を与える事もあります。

多分。

 

ここでちょっと踊ってみますが,すでにルーティンは忘れています。忘れるって話しましたね。

なにをしたっけ?

どこだっけ?

適当にやりましょう。

やります。

ピボット。

 

例えばナチュラル・ターンの場合、いろんなコンビネーションが考えられます。た、と、え、ば、ここでナチュラル・ターンを踊り、女性は後退します。どのくらい後退して欲しいかを伝えます。つぎに左足を前方へスイングしますが、テキストにはここで1/4と1/8回転と書いてありますが,踊っている最中にそれを考える事はとても困難です。

 

ここからつづけて、右足の上でも回転を感じます。ひとまとめの動きとしては、左足をスイングして、それからスピンに。これがナチュラル・ターンです。

 

ここで二人のポジションが変わりました。二人はただお互いの前にいる訳ではありません。私はパートナーの周りを回ったのではなく、ポジションチェンジをしただけです。パートナーも同じ事をします。

 

ランニング・スピン・ターンやオープン・ナチュラル・ターンを使っての二つのコンビネーションを考えるとき、二つは全く違うタイプです。競技選手の中には、二つををミックスしたりもしますが、それも素敵です。

 

ランニング・スピン・ターンを踊るとき、

ランニング・スピン・ターン、だったね。

そうそう。

 

2回ピボットしてから、ホバーして後退。そのピボットにはスウェイはないと思っています。つまり、両足の上に立って、ピボットでヒップの傾きが変わってしまうと、倒れる傾向になります。一人なら大丈夫でも、パートナーと一緒では大変です。よって、ピボットでは一般にスウェイはありませんが、シェイプはありますので、少し調和がとれますね。

 

ランニング・スピン・ターンのスウェイというかシェイプの大きさですが,自分としてはあまりナチュラルとは思えません。むしろ、パーフォーマンスにちかく、自然ではありません。つまり、ピボットとかホバーの動きの原理に基づいたものではないと思います。

 

ここからピボットを2回踊り、左足を横にステップしてホバー。ここでシェイプを多きくする事もできます。次にサイドロックなどのステップに入ります。しかし、オープン・ナチュラル・ターンからピボットを1回だけすると、ロックンロールに近い動きにする事も可能です。

 

ここから、ピボットして、シェイプをつくり、シャッセ・ロールから次のステップへ。でも、これは別物で、違った効果を出します。後に続く所にも違った効果を出す可能性があります。では、音楽をおねがいできますか? 4番をお願いします。

 

では、オープン・ナチュラル・ターン — 忘れて下さい。

とりあえず始めます。

時間切れ。

 

タンゴを少し。リンク。

まだ。始めに指示を出します。

ここから。

ステップ、膝を緩め,情報を与えてから,

<dance>

 

Marion: 口でリードしてるのよ。

 

Kenny: そんなことはない。音楽をお願いします。同じになるかもしれないが。

OK, good.  違ったね。

OK, so.

次に何をするか分かっていないけれど、分かっているのです。足のポジションによって決まるからです。

 

ボディ・ウェイトで、パートナーに情報をあたえます。ただ踊ろうとすると、無理があります。ビッグ・シェイプを作っても一体感が作れず、芸術的価値は生まれてきません。

 

フォックストロットをお願いします。

フォックストロットです。

どれって。難しい質問だ。

< dance >

 

こうした所で少しアクションを入れて、競技風にする事もできます。体操の時間、と古典的なフェザー・ステップをしながらも。

これでも、いい訳です。みんな変な目でみていませんか?

 

もう少しだけ続けさせて下さい。まだシャッセ・ロールをしていませんから。ここからシャッセ・ロールすると、オープン・ナチュラルで話しましたが,女性をパスしますが,女性は同じ事はしません。ここで自分が花になります。

いいね。

 

シャッセ・ロールからホバー・プロムナードに。ここからマリオンが位置を変えて,プロムナードからのピボット。いいでしょう。音楽をお願いします。

 

何でもいいので。できれば、フォックストロットを。

 

「すばらしいです」

 

ご覧のように、みなさん、私達にルーティンは役に立たないのです。音楽を聞くたびに違うものが聞こえてくるのですから。わたしが「これはいいね、あれもいいね」というと、マリオンは、「なにか分からないわ」といいますが、まあ、いいでしょう。

 

さて、みなさん、お話したかったことを総てカバーすることはできませんでしたが、もう少し踊りたいと思います。もう足が痛いですが。タンゴを少しだけ。音楽をお願いします。

 

じゃあ、みんな手を上げて。

手を上げて、上げて。

そのままここに持ってきて。

そのままで。いてください。

 

ステージに出てきたとき、皆さんは多少元気が良すぎると思いましたが、実際、素晴らしい人たちでした。皆さんの暖かい拍手に感謝します。でも、みなさん、手を貸してください。妻に感謝したいのです。

 

MC:面白くなるって言いましたよね。ケニーとマリオンが日々のレッスンでこんにちのトップ・ダンサーたちに教えている、素晴らしい洞察力をもった内容でした。いまいちど、お二人に感謝の気持ちを示そうではありませんか。

 

出典:Dance Wing 51 Nov, 2009
英語監修:Geoff Gillespie
レクチャー翻訳/アフレコ:神元 誠

 

◇ ◇ ◇

 

ハッピー・ダンシング!