G042 コルテの語源に関する忘備録/私の中の決着

投稿者: | 2020年4月2日

ダンスを始めた当初から「コルテの語源」を知りたいと思い続けていました。「コルテは『(動きを)切る』意味」との説明に出合っても、すんなり納得できなかったからです。「どの部分を切っているのか」、「他とどこが違うのか」が分からなかったからです。でも、最近やっと自分として納得のできる説明に出合うことができたので、長年悶々としてきた気持ちに決着をつけようと思います。これは、その忘備録です。

 

経過記録

2014年発行の「熱心なダンサーへ贈る読むダンス用語集」には、それ迄調べたことを下のように掲載しました。


 

166 コルテ(Corte/Corté) 【ST】

コルテはポルトガル語で「切る」と言う意味で、日本では、「前進運動をカットして後退すること、あるいはその逆の動き」と広く認識されているようです。スタンダードにはバック・コルテ、リバース・コルテ、ホバー・コルテなどのフィガーがあります。

 

★コルテとは、切ったり短くしたりすると言う意味です。(R.グリーブ)

★誤った名前が付けられたフィガーとしてタンゴのバック・コルテがあります。しかし、長い間使われてきているので、今更変更することは困難でしょう。(Theory)

 

◆個人的には次のような可能性も含めておきたいと考えています。

1.  英国のダンス関連サイトで「コルテの意味を教えてください」との質問に、次のような回答がありました ― 色々調べたけれど分かりませんでした。ただ、スペイン語には「切る」の他、「宮廷、中庭、(王侯などの)従者」その他の意味もあるので、可能性として、

(1) 法廷で原告と被告が国王に敬意を表して、後ろへ数歩下がった動きから。

(2) 礼儀が正しいことに関連し、頭を下げて数歩下がることから。

(3) 「切る」の意味から、のこぎりで丸太をギコギコ切る前後の動きがあります。

―とありました。回答者が英語圏の人にも拘らず明確な答えがないと言うことは、ダンス用語として説明された英語の資料がないのかもしれません。

2. ア ルゼンチン・タンゴから調べると、「コルテは音楽をシンコペーションで切るか、数拍の間保つ意味」とありました。

3. かつてこの疑問を英国のハーン・アンド・スペンサー社に問い合わせた所、ジェフリー・ハーン氏から「LODに対して切り開かれた空間」と教えていただいたことがあります。これを念頭に調べていると、英絵辞典の中に「Vカット、矢はず(やはず)」の意味があることを見つけました。「切り開かれた空間」と「矢はず」には共通したものがあり、矢はず(英語でノッチ(Notch))はまさにバック・コルテの動きに、私には見えます。

バック・コルテ (Tango 05 バック・コルテ (Back Corte))の中で、ジェフリー・ハーン(Jeoffrey Hearn)氏からコルテの意味を「LODに対して切り開かれた空間のこと」と教わった話を書きました。

それを念頭に調べていた頃、「Visual Dictionary」という絵で引く辞書で調べると、「矢筈」や体操の「開脚」のフランス語(スペイン語)がコルテと知り、「これは開かれた空間だ!」と、とても納得したことがありました。それで、「サークルで上達するボールルーム・ダンス」の漫画に入れることにしたのです(笑)。

 


 

Visual Dictionary ―― 本体と索引の二冊に分かれています。

 

本体表紙

 

索引表紙

 

スペイン語の索引ページ (Corte)

拡大

 

索引から本体ページに戻ると「42ページの5番」にノッチ(切り込み)の図(左の図)。

 

本体ページ「274の20番」に開脚抜きの説明

本体ページ「275ページの20番」に開脚抜きの図


 

■「サークルで上達するボールルーム・ダンス」に掲載した漫画

私にはジェフリー・ハーン氏から教わった「開かれた空間」は説得力がありましたので、漫画を入れました。ダンスにも遊びが必要ですしね(笑)。

270_manga to last

 

 

 

❷前進コルテはあるか?

自然なリアクションとして、「バック・コルテがあるなら前進のコルテもあるのかな?」と考えます。でも、私たちが使用する教師用テキストに「前進のコルテ/フォワード・コルテ」は出ていません。それも長いこと気になっていたのですが、ラッキーなことに古い本の中で発見したので、ここに記録しておこうと思います。

その本は、昭和5年発行、サントス・カサニ著/瀧本二郎訳の「社交ダンス独習」。そこに「前進コルテ」が出ていたのです! 読んでみると、バック・コルテの男女を入れ替えたステップでした。

 

■バック・コルテは社交ダンス初期のテキストからありますが、フォワード・コルテは消えていたようです。

 

 

 

❸Richard Powers氏のウェブサイト(http://richardpowers.com/

アメリカのダンスの歴史家Richard Powers氏のウェブサイトで紹介されている本”El Tango Argentino de Salon” ( Nicanor M. Lima, Buenos Aires, circa 1916) の中のコルテに関する一節を記録します(英文のまま)。

Sentadas:    Pauses in the walking, in a sitting posture (what others at the time called Cortes).

 

“SENTADAS” (スペイン語原書P24、下はパワーズ氏仲間の一部翻訳本P43)

What are “sentadas”?       In the tango, we call “sentadas” all the figures that are done with a pause of half of a bar or a whole one and the feet can either be together (look at “sentada lateral”), crossed or with either one of them out to the front (“hacia adelante”) or to the back (“hacia atras”).       Whatever figure the couple chooses, at no time will it take up more than two bars of the music or less than one.       In the sentadas that take up one bar, the figure takes up half a bar and the pause takes up half a bar as well.  In the sentadas that take up two bars, the figures take up 1 or 1 1/2 bars while the pause takes up one or half a bar, respectively.       Sentadas can be made from any of the three dance positions and can include all the learned vectors, but when one does a “sentada hacia atras”, the other will be “hacia adelante” and vice-versa, always with the opposite foot and “lado” and resting the weight on the foot that is out a little to the front or a little to the back.       The above will occur in the “en linea” or the “en paralelas” dance positions and the partner will only do the same sentada in the position of “en paralelas de avance” or ” de retroceso” even though the opposite foot and “lado” will be used.

 

 

 

❹腑に落ちた説明/コルテは何を切る?

ジェフリー・ハーン氏の “A Technique of Advanced Standard Ballroom Figures” (2005) のP23に ”One of the original names given to the music in Argentina, before it was universally known as Tango, was ‘The Dance That Stops‘ “ の一文があります。これは上の “Sentadas” の説明と一致します。

 

同様の説明はビクター・シルベスター著の「モダン・ボールルーム・ダンシング」にもあります ―― 

「アルゼンチンのブエノス・アイレスの貧民街で生まれたタンゴは、当初バイル・コン・コルテ(Baile con corte = 静止の入った踊り)の名で知られました」

 

“Cut”, “Pause (Sentadas)”, “Sit”,  “Stop”  ―― から動きを「カットする/ストップさせる」と理解できても、「それがどうしたの?」の、もやもや感は消えません。そんなとき、「勝手にダンス辞典」主催のTamaさんが一冊の本を紹介して下さいました(2019年3月)。

それが「タンゴへの招待」(レミ・エス著/尾河直哉訳 白水社)で、「第2章、タンゴの現象学 ―― カップル・ダンスにおける即興の発明」を読んで、遂に腑に落ち、自分のなかで決着することができました。

 

そこには次のようなことが書かれています(抜粋)。

  • コレグラフィーの点から見ると、ダンスとしてのタンゴは、カルロス・ベガの言葉を借りるなら「掘り出し物」だった。(中略)彼はこう書いている。「アルゼンチンのクリエーターたちは、当時あらゆるダンスが踏襲していた当たり障りのないステップと無味乾燥な半回転を拒否して、サロンのダンスに、ミロンガに、はてはカドリーユにまで革新をもたらそうとした」。

  • 「当時主流だったカップルダンスは「切れ目のない動き」を要求していた。ダンス・カップルはたゆまぬ練習によって、一瞬たりとも停止することなくリズム・ステップやターンを連続させなければならかなった。ところがタンゴの発明者たちはそこに『移動の一時停止』を導入したのである。カップルは動きをとつぜん止める。そればかりか、男性が一人静止し、その間に女性が男性のまわりをまわるということがごく普通に行われる。あるいは逆に、女性が制止することによって男性の移動が脳になるという場合もある。じつにささやかなことのように見えるかもしれない。しかし、世の中にはときとして、ささやかなことが加わっただけでセンセーショナルになるものがある」。

  • したがって、タンゴを特徴づける重要な要素の一つは、こうして運きの一時停止(コルテ)ができる技量である。

 

ハッピー・ダンシング!