#016 私の好きなレクチャー 2. “BACK TO THE FUTURE” by Lene James

投稿者: | 2020年3月11日

2009年UKコングレスからレネ・ジェームス(Lene James Mikkelsen )のレクチャー映像と日本語の書き出しを紹介します。文字で読むと、また別の発見があることでしょう。

私自身、この時初めて彼女のことを知りましたが、格好いいです! 数多くのレクチャーを見てきたわけではありませんが、このレクチャーは深い感銘を受けたレクチャーのひとつです。レクチャーを書き出しながら、私自身、彼女の言葉をもう一度噛み締めました。あなたのダンスにも良い影響がありますように! (※映像は限定公開です)

 

#016 私の好きなレクチャー 2.
“BACK TO THE FUTURE” by Lene James

Dancers: Peter & Christina, Matina & Michelle

 

◇ ◇ ◇

レネ・ジェームスの「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(テキスト)

MC: 次のレクチャーはデンマークからお招きした、華があり技術がしっかりしていると知られているラテンの講師です。今日ここにお越しくださり、大変うれしく思います。タイトルは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」、レネ・ジェイムズ・ミケルセンさんです。

 

Lene:  皆さんこんにちは。レクチャーを楽しんでいますか? これからの30分間も皆さんと一緒に楽しんでいただく予定です。そして、本日レクチャーをする機会を与えてくださったBDFIに感謝します。素晴らしい挑戦になりそうです。

 

実際、主題から考えるのは容易なことではありません。レクチャーの依頼では一般的に主催者側からタイトルが提示されるので、ある意味、助かります。最低何を掘り起こせばよいか、どこに視点を持っていけばよいかが明確になるからです。

 

で、今回は間逆です。何を選択しても良いわけですが、荒野の真只中で、皆さんへの道標を作らなければならないようなものです。私とケニー・ウェルシュが海外で教えていた時にこの話がやってきました。ケニーは後からステージに上がってきますが…レクチャーを終えて外で食事をしながら、二人とも今日のレクチャーを頼まれたことを話していました。「どう思う?」、「どうするつもり?」、「何を話すつもり?」なんてことなどを話しながら。ダンスの話をつづけているうちにとても楽しくなってきて、話に夢中になっていると、ケニーが突然私に言ったのです。静かな口調で。

 

「レナ、君のタイトルはそれだよ。今、君の目の前にあるのがそうだよ。だって、それが、君が夢中になれる話題に違いないからだ。いいレクチャー、そしてポイントをついたレクチャーというのは、自分が夢中になれる話題がいちばんなんだよ」と。

 

私は自分がかなりオープン・マインドな人間だと思っています。これはこうしなくちゃいけない、あれはそうしなくちゃいけない、という人間ではないと思っています。いいものを創るためには異なる考えも受け入れるタイプなのです。

 

ファッションも流行も好きですからその種の問題はありません。同時に、長年私が関わってきたカップルを見ていると、共通しているのは、全員、全く違うタイプだという事です。私はコンベヤ・ベルトの流れ作業でチャンピオンを生み出すのには興味がなく、また、それが正しい方法だとも思っていません。また、教えてきた人たちにも、私と同じスタイルを求めることもありません。自分の好みさえも。なぜなら、私の好みの問題ではなく、その人たちにとってのベストが問題だからです。その人たちにとって一番良い形で上達してもらうことが。

 

ですから、オープン・マインドで話すとき、今後のラテン・アメリカンの発展を考える時、当然、皆さんの側もオープン・マインドになってもらわなければなりません。あなた方も、心を広くしていただかなければなりません。閉じた目を開き、未来を見つめることで、今後の発展が可能になるわけですから。

 

しかし、ここで大きな“しかし”が来ます。

 

■しかし、私たちは前人たちから引き継いでいる遺産があります。 それを守る大きな責任を感じるのです。

 私達に与えられたと感じる宝物を。動きやアクションなど受け継いだもの、伝統、そうした表現でもいいかも知れません。過去なくして未来はありませんから、そうしたものをしっかり認識することです。つまり、私たちはどこから来たのか、そのルーツを知ることが大切です。過去のルーツの上に未来を築いていくのです。

 

自分の子供たちと比較してみると良いでしょう。子育ての中で最も大切なことは子供たちを逞しく自立した人間に育てることです。それはとてもとても大変なことです。同時に、彼らに人生における選択肢も示さなくてはなりません。選択肢を示し、子供たちがそれを見て、様々なオプションを選択できるようにしなくてはなりません。

 

加えて、しっかりした基礎と、しっかりした規則も教えなくてはなりません。子供たちはまだ、この社会がどのような基盤の上に成り立っているかは知らないのですから。そうした選択肢を子供たちが学びつつ、そこに確固たる基礎があることを学ぶのです。ダンスでも同じだと思います。実際のところダンスは色々な意味で、私たちの普段の生活の鏡のように思えます。

 

そういう意味で、ダンスをする子供たちのことを話すとすると、今話したことと同じ教育が必要になるでしょう。彼らも逞しく育たなければならないのですから。独立しなくてはならないのですから。自分の両足でしっかりと立ち、独り立ちできなければならないのですから、しっかりと規則も学ばなければなりません。曖昧なことではなく、しっかりとしたルールを。さもなければ、比較することなどできないからです。これは競技ダンスなのですから、必ず比較されるのですから。

もし、子供たちに余りにも幅広い選択肢を与えたなら、彼らは社会に適合できなくなってしまうでしょう。ダンスにおいても、しっかりとした決まりがそこになければ軽薄なダンスになってしまうでしょう。軽薄な、ガチャガチャした、表面的なだけのダンスに。築き上げることのできない、そこから発展できないところのものが。

アン(ラクスホルムが前のレクチャーで)言っていました。「年はとっているけれど、そこまでではないのよ」と。私にぴったりの台詞です。

私もラテン・ダンスがある地域でボンゴと呼ばれていたのを知っているほど年を取っています。どことはいいませんが。そうしか言われないこともあったわけで、そうすると、皆さんがしているのはボンゴの一種という事になります。もう、死語でしょうけど。

 

■今のラテン・ダンスはあらゆる意味でスタンダードと同じと思います。

基本、システム、ルール。どちらも同じような背景があり、技術面においてもラテンとスタンダードには共通項があります。とてもとても大切なことが。

 

本日マイケル・バー氏はいらっしゃらないですが、きっと彼を引き合いに出しても大丈夫と思います。私がこのレクチャーを用意していたときの事です。ダンス・ニュースに彼の記事を見つけたのでした。既に読まれた方もいらっしゃるかも知れませんが、ここで引用させてもらいましょう。

「別名・気難しの年寄り」 ― とも書いていますが、彼が気難しいとは思いません。彼の記事は非常に正確で、また、ラテンにも共通していると思い興味深いです。これは先週、偶然見つけたもので、全く同じ事を考えていたわけです。彼の記事は昨年のインターナショナル選手権についてです。勿論、スタンダードについて。記事の中で彼はこう述べています。

「こんにちのダンサーは今までにないほど元気で、強くて、周到に準備もされている。器用で、機敏で、賢い。で、足りないものは? 音楽性、ハーモニー、繊細さ、芸術性、そして美しさ」

 

ラテンでも全くその通りです。それはある種、つまらない踊りだからだと思います。物足りないのです。

 

 

■つまらないというのは、ダンスが単にスピードや機敏さや自意識過剰、利口に過ぎないからです。

どのカップルもいつでもどの種目でも速く、とても上手にこなすので、それゆえに、観ていてもつまらなくなってしまうのです。ダンサーの身体能力は高いのですが、その身体能力は一つにしか使われていないように思えます ― スピードにしか。

ゴルフでは、単に握って叩けと言うようです。良く分かりませんが、きっとそうなのでしょう。将来、ここのダンスに対して信頼性のある解釈が行われることを願っています。

 

どう踊るかは音楽に任せましょう。もし、ワルツで1小節毎に5歩踏むことになれば、ワルツではなくなるでしょう。そう思います。ルンバの1拍目でステップをしたなら、もはやルンバにはならないでしょうから。

ルンバがかかって、こんな風に踊ったとすると、< walk > 何の踊りか誰にもわからないでしょう。ルンバではないからです。じゃあ、1拍目はステップしないと言いつつ、仮にこんな風にしても <dance> ルンバにはなりません。ルンバとは、ルンバの意義とは、ルンバの美しさとは、1で何もしないことなのですから。息はしてもいいですが。息はしても良いですし、勿論、エンジンはかけたままですが、1では何もしないという事がルンバの証なのです。動かないわけじゃないですが。それを見たいのです。これがラテンの遺産でもあります。

 

チャチャチャでも同じことが言えます。<dance> チャチャチャでは4拍目を1/2、1/2に分けなくてはならないからです。

記事から脱線してしまいましたが。マイケルの締めくくりは、

「こんなに才能溢れるダンサーはいなかった。こんなに才能溢れるダンサーは今までになかった。だからこそ、こうした感想を述べる必要性を感じたのです。そうした才能が違う方向へいってしまうのは悲劇ですから。私たちは今、ダンスのパイオニアたちから受け継いできた素晴らしい遺産を永遠に失う危機に直面しているのです」

 

ラテンでも全く同じだと叫びたいです。私たちが懸命に築き上げてきたことを失わないように、とても気をつけなくてはなりません。

 

■ここで、チャ・チャ・チャを使って、踊りの詳細について触れてみたいと思います。

勿論シンプルなロック・ステップやヒップ・ツイスト・シャッセなんかで。その前に、今日、皆さんに楽しんでいただくために協力してくださるカップルを紹介いたしましょう。私じゃムリですから。デンマークからのPeter & Christina, Matina & Michelleです。拍手をお願いします。

<Dance>

 

素晴らしかったですね。ひとこと付け加えなくてはならないのは、これは、彼が自信で今日の皆さんのために考えてくれたものです。

では、チャ・チャ・チャのロック・ステップを見ていきましょう。それがチャ・チャ・チャの特徴を現しているからです。勿論、フォワード・ロック・ステップでも、バックワード・ロック・ステップでもいいですし、ヒップ・ツイスト・シャッセでも4&1でも、ロンデ・シャッセでも何でもかまいません。

 

チャ・チャ・チャの4&1の使い方には様々なオプションがありますが、ロック・ステップは最も美しいステップと言われています。ほんとうでしょうか? 今はそうでもないでしょうね。

チャ・チャ・チャを踊るときに大切なことは、チャ・チャ・チャにはウォーキング・アクションとステッピング・アクションがあるという事です。1拍あるときはウォーキング・アクションを使い、他ではステッピング・アクションを使います。ここはハーフ・ビートなのでステッピング・アクションです。

 

ロック・ステップに入る前にはウォークがきます。このように立ったところから一歩目に入るとき、ショルダー・リードを使います。あほっぽい感じではありません。こんな風に。

これではなく、こちらのサイドから出てくるショルダー・リードを使い、スプリット・ウェイと、つまり、両足に体重がかかったこのポジションでは、後ろ足はボールにいるので、ヒップはまだ高いです。

このポジションから、ここに立ち、この時点でも両足に体重が分かれるスプリット・ウエイトです。ここで最も重要なことは、秘密というほどではありませんが、もっとも難しいのがこのスプリット・ウェイの一瞬です。この状態で、後ろ足を動かして来たいからです。

では、全体重を移動する前にどのようにして後ろ足を移せばよいのでしょう。

(悪い例を示して)これはダメです。そんな事をやってる暇はありません。

 

充分な体重を前方に移す方法、それは、後ろ足を前足の下に滑り込ませるのです。ボールルームと同じく、床からコンタクトを離しません。こんな風にはね。

 

足は床から離さないこと。後ろ足をスリップさせてくるのに充分な体重を使います。ではその体重をどのようにして持ってきますか?

 

前の膝がアクションを起し始める時に体重を移し、それから下に滑り込ませるようにすることができます。ヒップが少し動き始めた時に足を滑り込ませるという風に感じても構いません。どちらでも構いませんが、ポイントは&カウントの前の1/4拍でアクションを起してラテン・クロスになることです。

これがまたやっかいで、ラテン・クロスでは後ろ膝が前膝の後ろの窪みに入ってきます。それから両方の膝が絞められ、それから後ろの足が置かれます。横から見ると、きちんと重なっています。

この重なる形もいろんな形を見ることができます。こんな所にあるものとか…ちょっと再現が難しいですが、あります。ですから、この位置から次の後ろになるところへ足が置かれることが重要で、そうするとしっかりしたラテン・クロスの形になることができます。しっかりしたラテン・クロスに。それからふたたび体重をスプリット。動き出せるように再び前足から体重をリリースする方法を見つけなくてはなりません。そして前足も使えるように。

 

もう一度やってみますが、スタートは膝から行い、ヒップの中に入って行き、その時に、ショルダー・リードを消して行きます。この、ショルダー・リードを消し始め、このポジションになって、足の動きを継続して行って — おっと — 前進ウォークを完了させます。もう一度やります。「チャ・ア・チャ」の「ア」のカウントで、この膝がこう来て、ここから膝が伸びて行き、伸ばした瞬間、床を捉えます。

ここ。

ここから後ろ足をもってきてウォーク・アクションを起こすのでウォークができます。長い説明になってしまいましたね。要は、現在のラテンでもこのような細かな事をしていると言うことをお伝えしたかったのです。ダンサーの立場として、勿論、それ以上にジャッジの立場としても。

 

つまり、こんな動き(ささ―っと距離を動く)を見た時に、「わー、彼は沢山動いて行ってるからすごい」 — とは思わないのです。ちっともすごくありません。

足から足へと使うのです。

では彼らにウォークとロック・ステップを踊ってもらいましょう。私よりましですから。2曲目をお願いします。

<dance>

 

ご覧のようにパーフェクトではありませんが,やろうとしていました。まあ誰もパーフェクトではありませんから、練習してよくなって行く訳です。

 

次にお見せするのは、私が日々教えている時に使っているちょっとしたグループで、数年来使っています。このちょっとしたアマルガメーションには、4&1のカウントで使われると思われる様々な要素を取り入れています。

つまり、フォワード・ロック・ステップ、バックワード・ロック・ステップ、ヒップ・ツイスト・シャッセ、ロンデ・シャッセ、ランニング・シャッセ、サイド・シャッセなどなどが練習できるようになっています。自分のルーティンを踊りだす前にこれを練習すると、時に、いえ、ほとんどの場合、体を整えるのに役たちます。そのアマルガメーションを見て下さい。

(アマルガメーションの説明)

 

これを音楽に合わせて踊って終わりにしたいと思います。

 

■でもその前に今一度強調したいのですが、 私達は子供達に境界線を教え、オプションも示さなくてはなりません。

誰かが時速300マイルでスピンしても、音楽とつながっていなければ、意味がありません。同じスピードでも音楽とつながりがあれば、それはよく見えます。

 

ルンバのバック・ベーシックで前足のアウトサイド・エッジを使うのは良くありません。ラテンでアウトサイド・エッジは使いません。ボールルームでも同じでしょうが。インサイド・エッジを使い、ムービング・フットを使います。フリーな足でもインサイド・エッジです。こうやって足を(アウトサイドに)返すのが流行っていますが、奇麗に見えると思っているのでしょうが、最悪です。足にプレスがかからないじゃないですか。

 

足から足へと動く上で、両足にプレッシャーをかけて置く必要があります。このクニャッとした足のように飾り立てても、意味がありません。良くないです。

 

■その責任はあなた達ダンサーにあります。

その責任は、当然、ベストを尽くして教えなければ行けない私達先生にもあります。

しかし、最大の責任は私達ジャッジにあります。

伝統を受け継ぎ、私達に手渡されてきた宝物を守るようにしなくてはなりません。ジャッジのみなさん、そこの所をよろしくお願いします。

<dance>

 

MC:皆さん、聴衆の一人として彼女が主張していた伝統の大切さを聞き、とても嬉しく思いました。ラテン・アメリカンの伝統的価値 — 皆さんも同じように感じておられると思います。

 

出典:ダンスウイング50号付録DVD
英語監修:Geoff Gillespie
英語翻訳/アフレコ:神元 誠

 

◇ ◇ ◇

 

ハッピー・ダンシング!