G028 スロー・フォックストロットの歴史

投稿者: | 2020年3月9日

今日の競技ダンスを見ていると、これ以上発展する余地があるのだろうかと思うほど芸術的にもスポーツ的にも素晴らしい領域に達した感があります。スタンダード、ラテン・アメリカンのすべての種目で。当然ながら、初期の踊りはこんな風ではなく、先人たちの努力と歴史の中で発展してきました。そして、世界チャンピオン達はレクチャーの中で「歴史を知ることの大切さ」を語ることがよくあります。

そこで、私自身の勉強の記録を残す意味で、ほんの少しスロー・フォックストロットの歴史を振り返ってみたいと思います。よろしければお付き合いください。

 

G028 スロー・フォックストロットの歴史

 

1.社交ダンス独習(サントス・カサニ著)

昭和5年(1930)(瀧本二郎訳補/歐米旅行案内社)の本がスロー・フォックストロッをどう紹介していたか、原文のまま書き出します。

◇ ◇ ◇

フオツクス・トロットを初めて英國へ紹介しましたのは欧洲大戰争中援兵として來英した米國兵士であります。米國から紹介されたダンスは數多有りますが其の最初のダンスがフオツクス・トロツトでありまして、其頃はフオツクス・トロットとは云はないで、ジャズと呼で居たのであります。

 

今日の如く精練されて居ませんでしたから随分非難罵倒もされたもので、大概の舞踏團は何に彼に理由を求めてジャズを嫌ひました。又大衆もジャズのステップは軽業師風の動作であると蔑視したのでありました。

 

時代の變化とは云ひながら、此のジヤズが今日の如く英国の社交ダンス中最も勢力を得て流行を極めるに至つたは、他方に諸教師等がジャズを平易に而して上品な動作に精選したからでありまして、今日では往年の蔑視罵倒の聾を「動作の詩」であるとの讃辭に變はらしめたのであります。

 

之れ今日の所謂スロー・フオツクス・トロットでありまして、其の流行の寵兒としての生命は將来無限を思はせて居ります。

 

楽曲は四分の四拍手であります。而してスロー・フオツクス・トロットであるのですから、一分問四十六乃至四十八小節位のテンポで踊るのが普通であります。又其のリズムは緩、速、速、又は緩、緩の何れでもよいのであります。

 

ステップの基本的種別は次の三類であります。

1.右迴轉(ナチュラル・ターン又は、ライト・ハンド・ターンと云う)
2.左迴轉(レバース・ターン又はレフト・ハンド・ターンと云う)
3.フェザー・ステップ

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2.「熱心なダンサーへ贈る読むダンス用語集」より

1920年代に誕生したフォックストロットはアメリカのハリー・フォックスと言うダンサーの名から付けられました。1分間に50~52小節のクイックステップから枝分かれしたフォックストロットは、始めは1分間に48小節の速さで踊られていましたが、それからどんどん遅くなり、1920年代末には32小節までになりました。第1次大戦終わり頃のフォックストロットはウォークとスリー・ステップ、それにスロー・ウォークと一種のスピン・ターンから成り立っていましたが、1918年、ジャズ・ロールによる変動が起こりました。ジャズ・ロールとはスリー・ステップの前身で、1小節の中で3歩踏み、それを連続する動きでした。このコンセプトは完璧に現代のフォックストロットの基本となるものでした。1919年にアメリカ人のモーガン(Morgan)と言う人がモーガン・ターンと言うオープン・スピン・ターンの一種を紹介し、1920年には、G.K.アンダーソンがフェザー・ステップとチェンジ・オブ・ダイレクションを紹介しました。現在のフォックストロットはこれらなしに考えることはできません。そして1930年代に黄金期を迎え、テンポも標準化されたのです。そのように人気があった背景には、とてもシンプルな動きの踊りを驚くほど様々な形で表現できるからでした。

 

 

2.Britishpathe com の映像

この映像は Britishpathe com という所がユーチューブにアップしています。

●世界選手権のアマチュア部門で優勝した Miss Flora Le Breton and Mr Cecil Reubenと書いてあります。

 

●Mr Maxwell Stewart and Miss Barbara Miles。マクスウェル・スチュワートはダブル・リバース・スピンの考案者です。

 

▽この Britishpathe はあらゆるジャンルの古い映像をアーカイブとして公開しているのですが、「古い映像を残す、そして公開する」という責務意識に打たれます。日本のダンス界にもこういう動きが早期に起きて欲しいです。古いダンスの映像、雑誌などのアーカイブを作り、後世に残して欲しいです。映像も雑誌も、どこかに保管されているだけで誰のもにも触れなければ、その存在価値はないも同然なのですから。

 

 

3.アレックス・ムーア氏の映像(1936年)

踊っているのはアレックス・ムーア氏と奥様。教材として撮影されたもので、現在も使われているフィガーばかりです。二つの映像からだけでも、踊りの変化が見られるのも興味深いです。

Contents: Feather & Three Step / Natural Turn / Reverse Turn / Reverse Wave / Change of Direction / Impetus Turn / Telemark / Check Variation / ON WITH THE DANCE.

 

 

▽これは私がアレックス・ムーア氏のお嬢さんから頂いてきた映像で1936年の物と推測しています。ご自宅に伺ったとき、お嬢さんは「オリジナルは “Cine-film” 」と話していましたので、オリジナルは映画用フィルムでした。1936年当時、ビデオはまだ普及していなかったのでビデオでなくて当たり前ですね。それをビデオに変換したものを頂きましたが、英国のビデオはPALシステムなので、日本でNSTCに変換しました。

 

スロー・フォックストロットの歴史を少しだけ遡りました。

 

ハッピー・ダンシング!