G019 質問13 大きく踊るには?

投稿者: | 2020年2月28日

質問13 身体が小さいので少しでも大きく踊ろうと努力はしていますが、何かいい方法があれば知りたいです。(東京都 Sさん)

 

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G019 質問13 大きく踊るには?

 

世界のトップ・コーチャーに相談したと仮定して、私の知っている話を紹介します。

 

(1)ソニー・ビニック(Sonny Binick)氏の話

1970年代後半の体験談です。あるとき、元世界チャンピオンのソニー・ビニック氏が訪日されるのを機に、知り合いのプロのカップルがレッスンを受けるということになり、急遽、妻が通訳を頼まれ、私は補佐としてついていきました。

レッスンが始まってすぐだったと思います。そのカップルは背が低かったので、「どうしたら大きく踊れますか?」と尋ねると、ソニーさんが答えました。

「自分の背丈以上のことはできない。自分の身長を充分に生かし切ることだ」

 

 

(2)マーカス(Marcus Hilton MBE)さんの話

手元にあるHappy Training Italy 2006というレクチャーDVDの中で、マーカスさんがビル&ボビー・アービンの話をしています。この話はとても説得力があるので、以前、ダンスファンの連載記事の中で次のように紹介しました。

 

マーカスさんの話です――

「ずいぶん昔のことですが、二人がブラックプールで行ったショーは完全な失敗に終わりました。怒り狂った二人は控室で靴を投げ合って喧嘩をしたほどです。

それから10時間かけてロンドンまで車を飛ばし、いつものスターライト・ボールルームに駆けつけました。そして、ブラックプールでやったのと同じように、PP ~ シャッセ・フロム・PP ~ ナチュラル・スピン・ターンで、できるだけ遠くまでいこうと足を大きく出して踊りました。そして初めと終わりの場所にマークをつけました。

次にビルは目を閉じました。今度は遠くまでいこうとせず、きちんとロアーをし、ボディを集めて踊ることに集中すると、なんと、先程より1mも遠くに到達したのです」

連載ではスペースの関係で省いた部分がありますが、実は、話はもう少し続くのです。

「ビルは大きく動こうとして、足を大きく出してしまいました。正しい動きの原理に従って動く――つまり、正しいフットワークを使い、ライズ&フォールでボディを集めて動くと、実は、足も体も動いていくのです。(2回目で)ビルは体でタイミングを取ったからです。足を開くタイミングではなく」

 

 

(3)レン・アームストロング(Len Armstrong)氏のレッスン

Happy Training 2008 のDVDの中の話です。レン・アームストロング氏がスロー・フォックストロットのレクチャーの中で、ビル&ボビーがスターライト・ボールルームでやったことと同じことをさせるシーンが収録されています。

 

氏はドーメン・クラペッツ&モニカ・ニグロ(Domen Krapetz & Monica Nigro)を使い、フェザー・ステップ ~ リバース・ターン ~ スリー・ステップを踊ってもらいました。

  • 1回目ではボディを固めず、足・脚を充分に使って踊るよう指示しました。
  • スタートの場所とスリー・ステップが終わりナチュラル・ターンの1歩目の所にハンカチを置きました。
  • 2回目はやる気一杯の若者のように、アグレッシブにコンペティティブに踊るよう指示し、踊る二人の横で、「もっと動け」と檄を飛ばしました。
  • しかし結果は、1回目と同じ所まで到達することはできませんでした。2回目で「頑張った」努力は距離に繋がることはなかったのです。

以上、世界の名だたるコーチャーの話を紹介しましたが、最後にサークルレベルの話として、とても変な練習方法について書きます。社交ダンスのかけらもない、とても変な動きの練習なので嫌かも知れませんが、一度試してみてください。

 

 

(4)タコのように動く

① 踊りたい種目の音楽を流します。

② 音楽を聴きながら、軟体動物のタコになった気持ちでフロアを動き回ります。

※重要ポイントは「こんな形を作ろう」とか「踊りの形」は全く意識しないこと。ダンスの動きはしないこと。

※タコのように、あるいは、泥酔者のように、頭の先から足先までぐにゃぐにゃにして、崩れ落ちそうな体の意のままに動きます。「正しい形」はなく、むしろ「できる限りデタラメ」の動きをすることが好ましいです。

③ このタコ運動をした後で、タコの気持ちを残しつつ踊りたい種目を踊ります。

以前より柔らかで大きな動きができる自分にビックリすることでしょう。

 

なぜ、このタコ運動にそれほどの効果があるのか。考えられる理由は幾つもありますが、それを解析しなくても、驚きつつ、笑いながら使ってください(笑)。

 

ハッピー・ダンシング!

 

※ソニー・ビニック(Sonny Binick):1953年全英選手権優勝者
※マーカス・ヒルトン(Marcus Hilton MBE):スタンダードの元世界チャンピオン。
※レン・アームストロング(Len Armstrong):1962年アマチュア全英選手権優勝。
※ドーメン・クラペッツ&モニカ・ニグロ(Domen Krapetz & Monica Nigro):スタンダードの世界ファイナリスト。