G014 ストップ・ロック、スパニッシュ・ドラッグ他<1> でステップの解説をしましたが、ここでは、その解説をして下さった二組の先生たちのお話を紹介します。これは2006年ダンスファン3月号と4月号の内容を一つにまとめたものです。当時の記事を読み返し、改めて驚いてしまいました。もの凄く役に立つ情報で溢れているからです。4人の先生たちに教えて頂いたことをここにシェアします。
G015 ストップ・ロック、スパニッシュ・ドラッグを含む
タンゴのアマルガメーション<2>
千葉県船橋市はアオキソシアルダンススクールの青木健一・澄子先生にバトンタッチし今月からタンゴを教えていただきます。(2006年ダンスファン3月号より。一部編集あり)
●アマルガメーション
チェイスの1~4 ~ アウトサイド・スピン ~ 右へのランジ ~ ストップ・ロック ~ サイド・クロス ~ フォーラウェイ・リバース&スリップ・ピボット ~ ヴィニーズ・クロス ~ シャッセ ~ スパニッシュ・ドラッグからPPへ
(1-4 of Chase — Outside Spin — Right Lunge – Stop Lock – Side Cross – Fallaway Reverse & Slip Pivot – Viennese Cross – Chasse – Spanish Drag to PP)
スイング・ダンスとの違いを理解してから取り組もう
澄子先生:まずワルツやスローといったスイング・ダンスとの大きな違いはライズ&フォールがないこと、そして、それに伴うスイングがないことが挙げられます。
神 元:タンゴが‘歩く踊り’と言われるのはそのためですね。教えていただきたいのですが、歩くにしても、どうしてもヒールから出られない人はどうしたら良いでしょう。
健一先生:タンゴのフットワークに‘T’がないのは皆さんご存知と思いますが、それは、「体重がトウを通過するまでに次の足が出ているから」と私は考えています。前進やプロムナードでヒールか出られない人は、多分に体重がトウを通過してから次の足を出している可能性があります。一度チェックしてみてください。
神 元:なるほど! これで多くの人がヒールを使えるようになることでしょうね。ありがとうございます。もう一つ質問があります。タンゴでのバランスはヒールの方に置くと言いますが、お尻が落ちてしまいそうになります。解決策はありませんでしょうか?・
澄子先生:上体、肩、頭が腰より後ろに行くとバック・バランスになってしまいますから、尾てい骨から頭の先までは床に対して垂直になるよう意識します ― 「高い椅子に腰掛ける」イメージ、と私たちのコーチャーが話していたことがあります。
神 元:うまい表現ですね! 低い椅子だと尻が落ちてしまいますが、高めですとお尻が上がりますね。良く分かりました。椅子と目標は高くするようにします(笑い)。外回りの人が最短距離を行けるようにするには?
健一先生:この一連のアマルガメーションは一つのLOD上で踊ることを想定して作りましたが、コーナー付近でランジを行い、続くフィガーを新LODに入って行くこともできますから自分にあった方で練習してください。
澄子先生:では、個々のフィガーでの注意点を見ていきましょう。まずチェイスですが、3歩目まではクローズド・プロムナードですから、閉じる作業をします。このときの男性の左足フットワークは‘BH’(ヒールで出るのは最悪ですよ)。インサイド・エッジを使うとシャープさが増すと思います。4歩目で男性の頭が女性の領域入ると、女性は更に左に頭を持って行きたくなりラインが壊れ、続くフィガーがより困難になります。相手の領域に入っていないかどうかは止まって確認しましょう。
健一先生:アウトサイド・スピン1歩目で男性は左足を軸に右サイドを女性のために開きます。左足、左腰、左肩、その上に頭を乗せ、それを扉の軸に見立てて回転し、戸の部分(右サイド)を開いて女性が最短距離で前進できるようにします。男性の2歩目前進で回転軸が右に変わります。この時は右サイド・リードを使う気持ちでステップすると頭が右に乗り過ぎなくて良いと思います。乗りすぎると回転軸が壊れてしまいますから。
神 元:そして3歩目は再び左を軸に行ない、ランジに入るわけですね。
健一先生:男性はランジの右足に乗る前に中間バランスを意識し、そこで右スウェイを作ります。これで女性の頭が鞭の先端のように更に左に飛びます。女性のランジが完了する前に左足に体重移動を開始。二人のトップが大きく開くのはこのためです。
澄子先生:女性は男性のリードを感じ、力を入れないようにします。
神 元:しかし、普段のフィガーでもそうなのですが、ランジやコントラ・チェックのようなピクチャー・ステップでは、ことさら力が入ってしまいます。どういう風に考えると良いですか?
力任せにならない驚きのテクニック! そして、踊りの演出法
健一先生:私たちはタンゴではワルツやスローより力を抜くように心がけています。
神 元:ぎょ! ワルツやスローよりですか!?
健一先生:そう。スイング・ダンスにはライズ&フォールがあり、ロアーのエネルギーを回転のエネルギーに変えることができますが、ライズ&フォールのないタンゴでは回転を起こすエネルギーは自分の体内にしかありません。男性は女性を、あるいは女性は男性を振り回しがちになるのは、上体に力が入っているからで、すなわち体の外のエネルギーを使ってしまうからです。
神 元:その体内のエネルギーを使う方法をこっそり伝授していただけませんか?
澄子先生:実際には上半身を使わず、背骨、腰、脚を使うようにします。それは「内臓から回す」イメージなの。
神 元:では、男性はリンクで女性をPPにする時も、クローズド・プロムナードで閉じさせる時も、上半身を使わず「内臓から」リードする気持ちなのですね。でもそこが難しそうですね。
健一先生:相手に対して強く念力を送る気持ちなのです。心の中で大声で「PPになれ!」とか「閉じろ!」と。(笑い) 「強く思う」だけですから、サークルの初心者でもきっとできますよ。
神 元: すぐにやらせて貰います!
澄子先生:女性も上半身の力を使わないようにします。たとえばコントラ・チェックで上体を固めてしまうなど、ピクチャー・ステップで形を先に決めてしまう女性を多く見ます。頭の中に作りたい形のイメージを持っているのは良い事ですが、男性のリードを感じてからにしましょう。男性にも踊らせてあげるのです。
神 元:え? 女性も男性を踊らせるのですか? 男性が女性を踊らせるとは言いますが。
澄子先生:(笑い)男性に良いラインを作って貰わないと女性も綺麗なラインを作れないじゃないですか。ですから、女性は踊らせて貰うことだけを考えてはいけないの。男性を「介護」する気持ちも必要なのよ。
健一先生:タンゴの踊り方としては、急な切り返しなどを使って意外性の演出をします。つまり、できる限り見ている人に次に使うフィガーやピクチャー・ステップを悟られないよう、体の中で準備しておきます。その結果として表現するものがランジであったりコントラ・チェックであったり、あるいはアウトサイド・スピンだったりするわけです。
神 元:見ている人の予想を裏切るわけですね。それはスイング・ダンスでも同じなのですか?
澄子先生:いいえ。スイング・ダンスでは逆に、見ている人に次の動きを予想させておくのです。が、それ以上に大きく踊ったり、滞空時間を長くしたり、しなりを見せたりなどして予想を裏切る演出をするのです。
健一先生:そうした意外性を表現するために右回転や左回転のテクニックを駆使すると同時に、どんな風に踊りたいのか、どんなふうに演出したいのかを考える必要があります。サークルで踊るときもパーティで知らない人と踊るときも、女性は相手がどんな風に踊ろうとしているのかを感じ取ることが大切です。カップルで踊っている人は、二人でどんな風に踊りたいかを話し合うといいですね。
神 元:ベーシックのステップを踏んでいてもプロの人たちの踊りが「一味違う」のは、そうした所に違いの理由が隠されていたのですね。とても興味深いお話です。
(以上2006年ダンスファン3月号より)
※続きは下のダンスファン4月号に引き継がれます。
タンゴ2回目今月は久し振りに東京に戻ってきました。浅草橋の桜田ダンス教室を訪問し佐藤秀樹先生と山本千恵子先生にお話をお伺いしました。(2006年ダンスファン4月号より。一部編集あり)
ラインは土台から作る。そして丹田は垂直に。
山本先生:じゃあ、右へのランジ・ラインを作るところからお話しようかしら。ここで女性はラインを上半身だけで作ろうとしがちなのですが、脚、腰の下半身からラインを出すのですよ。
神 元:よくカレンダーなどの写真を見てトップの開き方を真似しようとしますが、それでは不十分で、美しいトップを作り出す土台部分がどうなっているかを探らなくてはいけないのですね。
山本先生:そう。私は丹田を「垂直に」伸ばす気持ちを大切にしています。「まっすぐに」ではなくね。
佐藤先生:ランジでは男性の右足の位置がキーポイントで、女性の背骨の下に置きます。次のストップ・ロックでは左足にウェイトを感じ(右足に乗り切らない)、ボディが少し右回転します。頭は女性の右肩の方へ持っていく感じです。
山本先生:女性は男性との接点を大切にしていれば、リードを受けた分開いても構いません。
フォーラウェイ・リバース&スリップ・ピボットの秘訣
神 元:フォーラウェイ・リバースはスローでも取り上げましたので、タンゴではそれを平らに踊ればよいと思うのですが、スリップ・ピボットがうまく行かず、続くフィガーがガタガタになってしまいます。男性はどうすればよいでしょうか?
佐藤先生:分かります。スリップ・ピボット右足の上で右に大きく傾いたり後ろに倒れたりしますね。いい方法があるんですよ。男性はね、右足を抜くとき右ホールドの枠を前方から大きく左回転させる気持ちを持つんです。
神 元:ええっ! ある意味女性を少し押し戻す気持ちですか!?
(図々しく)ちょっと山本先生をお借りして実験させてもらってよろしいですか?
(実験後)これはいい! 左足の上で右ホールドを大きく左回転させようとしながら右足を抜くとバランスが実にいいです。
山本先生:(ニコニコしながら)女性も引っ張られないのでトウ・ピボットがとても楽になりますね。
佐藤先生:もう一つ、右足は爪先を内側に向けようとすると(トウ・ターン・イン)、結構体がねじれてしまうことがあるので、あえてまっすぐ引くといいと思います。そして床に垂直にネジを締める感じでトウを使います。
山本先生:女性はトウ・ピボット(左足)の前の右足に長く留まり、ルンバのスパイラルを踊る気持ちに近いです。それからヴィニーズ・ワルツ・ターンに入っていきましょう。
ヴィニーズ・クロス
神 元:これは基本のベーシック・リバース・ターンを速いテンポで踊り、シンコペーティド・ベーシック・リバース・ターンとも呼ばれるフィガーですね。
山本先生:そうです。男性も女性も前進のステップは相手の脚の間に、右足寄りでも左足寄りでもなく中間を目指して出て行きます。
神 元:先ほど言われた背骨の下を狙うのですね。
山本先生:そうです。次のシャッセはスクエアのまま横に移動。カウントに注意してください、男性は左足(女性は右足)から、(Q&Q&)と4歩、膝を緩めて移動します。進行方向と反対に力をかける気持ちでシャッセします。同じ方に意識が行くと、ヒョイヒョイと軽い動きになってしまうのですね。
神 元:なるほど! そして男性は左足を横にステップし、かっこよくドラッグへ!
そしてスパニッシュ・ドラッグへ!
佐藤先生:でも気をつけてください。シャッセのスピードに乗り、そのまま左足へ移動したくなりますが、ここでも気持ちを十分に右側に残し、女性を置き去りにする気持ちで左サイドを押し出してスパニッシュ・ドラッグの形に入ります。次の(S)でドラッグ、つまり、男性は右足を左足に(女性は逆足を)引き寄せ、そして(&S)でPPになります。
山本先生:ドラッグでの女性の顔の向きが気になると思うのですが、胸の谷間あたりから螺旋を描く気持ちでラインを作ります。これはスクエアに組んだときも同じです。また、「進行方向と反対に気持ちを置く」のはヴィニーズ・ワルツ・ターンでも、他のタンゴのフィガーででもして下さいね。
佐藤先生:前回、青木先生たちも話されていましたが、力を抜き相手を締め付けないで踊ってください。ホールドは、肩甲骨から肘までをホールドと捕らえ、枠は崩しませんが決して固めたまま踊るわけではありません。
山本先生:女性は男性のリードに対して動きますが、決して引っ張られたり押されたりして連れて行ってもらうわけではありません。女性もアクティブな(積極的な)動きをします。
1歩の意味を理解する
神 元:よく分かりました。後は注意事項を確認しながら練習するのみですね。これで8小節完了です。有り難うございます。その他、サークルのタンゴにおける一般的な注意事項というと、なにになるでしょうか?
佐藤先生:1歩の意味を正しく理解することが大切だと思います。
神 元:と、いいますと?
佐藤先生:例えば、(S)で左足前進をしたとすると、この1歩には右足が左足の横を通過して次に出て行こうとする所までが含まれるのです。「足が出た所まで」と考えると腰が引け、動きに遅れた踊りになってしまいます。この様に、ウォークやホールドに対する意識を変えることで踊りが変わりますので、とても大切だと思います。
神 元:分かりました。たくさんの上達法を教えていただき有り難うございます。
(以上2006年ダンスファン4月号より)
最初にも書きましたが、当時の記事を読み返して驚いてしまいました。もの凄く役に立つ情報で溢れているからです。そして、4人の先生に教えて頂いたことを再度体に沁み込ませ、自分の踊りに役立てたいと思いました。
ハッピー・ダンシング!