「ダンサーのためのメンタル・トレーニング」(マッシモ・ジョルジアンニ著/神元誠・久子翻訳/白夜書房 原書名:DANCING BEYOND THE PHYSICALITY)を紹介します。
第2章 ニーズ/⑥貢献
Contribution
未来のダンサーたちと知り合い、自分の知識をすべて捨て去ってもよい日が来る ― そうした想像をすることが好きです。それができると、ダンスの組織・社会の改善にとても役立つと思います。
私たちは何をするにしても、自分のためだけではなく、このボールルーム・スタイルと呼ばれるダンスの歴史に精神的に貢献しなくてはなりません。そう思っているので、私は、自分がこの世からいなくなった後の、ダンサーたちが次のような話をしているところを想像することが好きです。
「あのイタリア人ダンサーの踊りは、肉体の動き以上のものがありましたね」
「彼の踊りには感情がこもっていたね」
「あのイタリア人は、人々の感情を揺さ振りましたね」
「彼は、生徒の内面に働きかけて、苦手を克服させてしまう人でしたね」
「一言でいえば、彼は心のこもったダンスが好きでしたね」
何かに貢献する、あるいは、ある目的のために貢献すると、他のあらゆる欲求を満たすことにもなります。つまり、貢献することで、自分は他の人に何かできる人間であることが確認でき、今を生きていることを実感できるからです。与える行為は、他の人々と共にいる感覚をもたらしますから、そうしたことを大切にし続けていると、必然的に、人としてもダンサーとしても成長するのです。
あなたにもダンス人生の中でダンス界に貢献したいと感じる瞬間があると思いますが、その感覚は自ずと、なすべき方へと導いてくれることでしょう。
あなたの人生の中で進む道を私は知りません。
私に分かることは、あなたがどの道を歩もうとも、
人の役に立つことをしなければ、決して幸せにはなれないということです。
(M. ジョルジアンニ)
さて、あなた自身の行動を促す欲求とは何かが分かってきたところで、今まで、そうした自分の欲求を満たそうとの思いに幾度駆られたか、そして、幾度その思いを実行しなかったかを考えてみましょう。幾度もそうした思いを育まなかったがために、どれほど不幸な気持ちになったかを。
カップルが言い争うとき ― 特に練習中ですが ― それは単純に相手に対する自分の欲求(求めること)が何かはっきり理解できていないからです。特に、相手に自分と同じことを求めるときがそうです。だから練習時間が段々と苦痛に変わっていくのです。そうした状況では、自分のことを大切に思えず不安になり、ダンサーとして成長できなくなります。なんと自分を大切にする気持ちが欠落していることでしょう。
それだから、多くのダンサーは練習よりも映画に行ったり、家にいたりする方が良くなってしまうのです。
練習とは、こうした6 つの欲求を促進するチャンスです。まさに練習があなたの進歩に、とりわけ、精神と肉体の両面の健全さに違いをもたらすのです。そうなると、練習は新たな発見や確認、あるいは発展するための時間となり、もはや、何かをしなければならない時間ではなく、何かをしたい時間となるのです。
成長とはトライすることであり、間違いを犯し、リスクを払っていつもとは違う何かをインプットすることです。
成功の秘訣とは、自己の欲求に対して、破壊的手段ではなく建設的手段を通して応えることです。
「MT12 第2章 ニーズ/⑥貢献」
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