MBD 9.ダンスについて

投稿者: | 2020年2月5日

ビクター・シルベスターのモダン・ボールルーム・ダンシングから「9.ダンスについて」をお届けします。

第二章 実習
9.
ダンスについて

On Dancing

 

界中においてボールルーム・ダンスは、最も人気のある余暇の過ごし方です。普遍的な人気を得ているのはダンスがとてつもなく楽しく、そしてソシアルアセット高いからです。

 

標準的なボールルームにおいて、“モダン・ボールルーム・ダンスィング”という言葉は、多くの場合、フロアの上を進んでいく事を意味します。ほとんどのカップルは、もし自分たちを見る事ができるなら、自分たちがたちまちダンスのレベルアップに取りかかるのを見て驚く事でしょう。

 

あなたがダンス技術について殆ど知らなくても、フロアで踊る人たちの中から楽しそうに音楽にあわせて踊っているカップルのみならず、踊りの上手な人を見つけ出す事ができるでしょう。そうした人たちは音楽に合わせ楽々と踊っている人たちです。もしかすると使っているフィガー数は僅かかも知れませんが、それはベーシック・フィガーで1年や2年で変化するものではなく、手際よく簡単に使われるものです。

 

生まれつきのダンサーは殆どいませんが、少し教わると誰もがソシアルアセットになるに充分上達し、一つ一つの動きの中から喜びを見出す事ができるようになることでしょう。

 

今日に舞踏場はそれ程大きくありませんから、踊りの上手な人は素早くフロアを一周することより、そこにあるスペースを最大限有効に使おうとします。つまり、色々なテンポ(遅い、中間の、速い)で演奏されるフォックストロットの曲にはリズム・ダンスを使うと言うことです。フロアにスペースが十分あるときのみ典型的なフォックストロットを踊っても良いのです。

 

多くの人は現代のスロー・テンポのワルツでも、ヴィニーズ・ワルツでも、ワルツを楽しんでいます。こうした踊りの上級フィガーはスペースを必要としますが、一番簡単なフィガーはどのようなダンスフロアにも対応できます。

 

タンゴは初心者をパニックに陥れる傾向がありますが、音楽のリズムは明確なのでわかりやすいですし、踊り自体もそれ程難しいものではありません。タンゴの魅惑的な音楽にあわせて踊れるよう、簡単なフィガーを幾つか覚えておくと良いでしょう。

 

今述べたようなものは英国の標準化されたダンスですが、勿論ほかにも世界中で人気を得たラテン・アメリカンのダンスもあります。

 

英国の多くの場所にはシーケンスやオールド・タイム・ダンスの愛好家がいます。そうした踊りは多くの場合8小節、16小節、あるいは32小節毎に繰り返して踊るため、個々のダンサーがフィガーの組み合わせをその場で作る現代の踊りより易しいです。

 

英国スタイルのボールルーム・ダンスが世界中の上手な先生たちに取り入れられているのは、それが一番優れていると認識されているからです。そしてそれを、本書はあなたが自分で学び始める一歩を踏み出すお手伝いをすることでしょう。

 

これから先のページでは社交場での踊りには細かな技術は必要ありませんので、そうした事を年頭に、初心者に適した踊りを選択して載せてあります。教える際に大変便利と実証済みのヒントも加える事にしました。個々の踊りには簡単なフィガーの組み合わせがあります。私の経験からそれが標準的で、正しく、楽しめる、しかもどのような広さのフロアにも適応できるものです。こうしたフィガーは更に上級へ進みたいと大志を抱くビギナーにも適切な基礎となりますし、個人レッスンをしている教師の方々にとっても、役に立つと思います。

 

 

基本事項

 

●ホールド

各章初めで正しいホールドの仕方について触れています。

 

●バランス

覚えておくべき大切なルールは、前進するときは足を直線状に出すこと。パートナーの足の外側に踏み出そうとしないこと。後退するときも同じように、見えない線上を歩くイメージを持ってください。

良いバランスは正しく歩く練習から生まれます。例えば道を歩いているとしましょう。足を前方に押し出し、次に体を持っては行く ―― あなたはこういう動きをしていないと思いますが、ダンスでも同じです。あなたの体を運んでいき、そこに足が付いて行くのです。後退でも、後退する足のトウから後ろにステップし、前足を使いながら体重を徐々に後方へ移動させます。次の脚に後退するのはその後です。動きをコントロールすることで良いバランスが良くなります。それはあなたのダンスが上達するに連れてさらに良くなって行きます。歩き方についても各種目で触れています。

 

● 頭
多くの人たちは頭の位置の重要性に気づいていません。男女どちらもです。ほとんどの人は下を見る傾向があり、それをすると、カップルとしての外見が悪くなるだけではなく、あるべきバランスを壊してしまいます。なぜなら、頭部は他の体のどの部分よりも重いからです。顔を上げ、顎を自然に保ちましょう。目線をあるべき高さにしておくのも良い考えです。男性の頭は、女性の右肩越しに真っ直ぐ前方を見る所に置き、女性は男性の右肩越しに見るようにします。

 

 

● ボディ(上体)
硬く見える人、コントロールが効かない人を多く見かけます。硬く見えるのはボディを自然に上げておけば良い所で筋肉を緊張させ、ボディの代わりに肩を上げたり胸を張り出したりしています。逆に、落ちてしまった肩、たるんだ腕、締りのないお腹の筋肉をしているとコントロールがきなかいように見えます。両腕両肘は肩を上げずに持ち上げておきます。女性は腕で男性を押し下げたり、つかまったりして男性に依存してはいけません。女性の左手は男性の上腕に軽く置き、指は綺麗に揃えておきます。体全体をコントロールする中心が横隔膜筋にあると考えると良いでしょう。

 

● 脚
ボディに関する誤りは脚に関する誤りに通じます。つまり、必要以上に筋肉を緊張させたり、コントロールがきかなかったりすることです。脚は腰から自由に動かします。膝からではありません。どの1歩でも自然に床を捕まえられるリラックスした動きを使います。すべての英国スタイルのダンスでの話ですが、動くスペースがあって両足が一杯に開いたとき、膝が最大限に伸びていますが硬直はさせません。そして移動する足に体重が乗ったときに僅かにリラックスさせます。

 

● 足
バランスの所で述べましたが、両足は真っ直ぐにします。つま先を外に向けるのは初心者にみられる共通の間違いです。こうした傾向を修正するには、道を歩くときはいつでも正しく歩く練習をしてください。正しく歩けるようになると、かなり上手に踊れるようになるでしょう。ダンスでは前進でも後退でも、足と足がすれ違う感じを試してください。

正しい足首の使い方も大切です。前進する足が一杯に開こうとするとき、後ろ足の足首を伸ばし、トウだけが床についているようにします。ボールではありません。そうしてから、前進する足のポジションがきまります。

 

● リード
かなり勉強している男性でも、多くの人はパートナーから「私をリードしてくれないわ」と苦情を受けます。男性はフィガーをマスターし、アマルガメーションをマスターしない限りリードに集中できません。そうした事ができるようになって初めて、パートナーが安心してついてきてくれるようなリードができますから、パートナーは次に何がくるか勘を働かさなくて済みます。一方男性は、女性が予想で動いたり、女性に連れて行かれたりするようなことを決して許してはいけません。

男性は確固たる決意をもってします。例え、間違っていても、躊躇するより自信を持って動く方が良いのです。間違えても女性は大体ついてきますので、転んだりする事はないでしょう。実際のところ、上手にリードすれば、彼女はあなたの間違えに気づかないかも知れません。

次にステップする方向をボディや脚で示しますが、男性は右手も上手に使って女性をリードします(ラテンではしばしば両手のリードがあるので違いますが)。男性がパートナーに基本の形(ほぼ男性の正面に女性が正対する形)のままいて欲しいときは、女性の背中にあてた右手(自然に丸めている)を通して圧力をかけます。女性を男性の外側にステップさせようとするとき、男性は右指に少し圧力をかけて使いますし、女性をプロムナード・ポジション(これは、カップルが扇のように‘V’に開き、男性の右側が女性の左側と接した、あるいは、近くにある形)にリードとするときは、右手の付け根部分に圧力をかけます。再び正面に戻すには、男性はやはり指に力をかけて使います。こうした事も、しばらく練習を繰り返していると自然にできるようになるでしょう。

 

● 音楽
本書で取り上げる種目には、それぞれ異なる拍子、テンポ、リズムの音楽が使われます。ここで、音が取れない初心者に対してちょっとしたアドバイスをしましょう。まず動き出す前に音楽を良く聞くこと。最低1小節、あるいは、それ以上の小節数を自分自身で数えます。ここで急ぐ必要はまったくありません。次に、動き始めようとする足の上を体重が移動するのを確認します。左足から出なければいけないとか、右足からでなければいけないという決まりはありません。男性は動き始める少し前に、出て行かない方の足に体重を乗せてはっきりさせておけば、どちらの足から出るかは重要な事ではありません。

音を聞き取れるようになるため、音が取れる人にカウントを取ってもらいましょう。次に、自分自身で声を出してカウントを取り、それが体に馴染み、考えなくても音に合わせてカウントが取れるようになるまで練習してください。音を外し、しかもそれに気づいていないカップルを見かけるのは決して稀なことではありません。そうしたことのないように、耳の訓練をしてください。しばらく練習をすると、自然に音に合うようになるでしょう。

 

● ボールルームのエチケット
女性に踊りを誘うのは男性の特権です。男性は丁寧に、次のような言葉で誘いしょう ― 「踊っていただけませんか?」 単に「踊りませんか?」でも良いでしょう。女性は特別な理由がない限り、いつでも喜んで引き受けます。もし女性が、その男性がフロアでのマナーが良くないのを見ていたり、彼にアルコールが入り過ぎていたりした場合には、「いいえ、結構です」と断っても構いませんが、通常、引き受けるのが一般的です。男性があまり上手でなくても、ニコニコして我慢し、彼についていくよう努力をします。

数分間休憩を取りたいとかの理由で誘いを断った場合、その時の音楽が終わるまで、他の男性と踊るようなことをしてはいけません。

フロアの上では他の人にも気を配りましょう。できる限り他の人たちとぶつからないようにし、それでもぶつかってしまったら、例え自分が悪くなくても謝ります。曲が終わると、パートナーに感謝の気持ちで拍手し、楽団にも感謝の気持ちをこめて拍手をします。そして男性はパートナーに感謝の言葉を述べ、席までエスコートします。

男性はフロアの上で一番良く見えるようスーツやこぎれいな略式服装、あるいはディナー・ジャケットを着用します。燕尾服はきわめてフォーマルな場合に使いますが、すべての主要競技会や選手権などで着用します。
男性はフロアに出るときはいつでも、忘れずに上着のボタンを留める習慣をつけましょう。

女性のセパレート着用は踊りの間、上下に離れてしまうので、ワンピースの方が気持ち良く踊れるでしょう。今日、ロングドレスはほとんどいつでも使われていますし、また、シンプルなカットのドレスが一番魅力的に見えるでしょう。ロングドレスでも踊るには支障ありませんが、もし大きく動くのに窮屈なら、横のシーム部を膝の高さまで切ると良いでしょう。バッグを掴んだ手を男性の背に回して踊ったり、右手でバックを振り回したりしながら踊るようなことは、決してしてはいけません。

 

 

 

図の読み方

 

 

殆どすべてのフィガーでは、歩くときのように足は交互に出します。つまり、左足が出たら次は右足です。これから出てくる足型図を見ると気づかれると思いますが、1,3,5,7が左足なら、2,4,6,8が右足になります。その反対の場合もあります。

足型図は、ステップする足の方向へ常に自分が向くように、本を回しながら読むと理解しやすいでしょう。足は、矢印の方向へ出してください。

こうした足型図は正確に描いているのではなく、異なるフィガーのパターンを示すためのものです。足型図の左側は常にフロアの中央を示し、右側は壁を示しています。上の方はLODになります。これで、ステップする方向が理解できるでしょう。

 

 

 

足型図と説明文に用いられる省略記号

 

■印:訳本では省略記号として使われていないもの。
◇印:原書になく訳者が説明を追加したもの。

S(Slow スロー): スロー・カウントのステップ
Q(Quick クイック): クイック・カウントのステップ

■R(Righ ライト): 右
■L(Left レフト): 左

■RF(Right  Foot): 右足
■LF(Left Foot): 左足

■RS(Right Shoulder): 右ショルダー、右肩
本文中では「(右、左)ショルダー・リーディング」の形で出てきます。ショルダー・リーディング(ショルダー・リードとも言われます)とは、通常は1歩踏み出すと両肩が同じように前進しますが、ショルダー・リードでは振り出した足と同じ側の上体を出していきます。ショルダーは「肩」の意味なので、あたかも「肩を出して行く」ような響きがありますが、文字通り足と型だけで出て行くと腰が残り、踊りにならなくなってしまいます。ショルダー・リーディング/リードは、今日「サイド・リード/リーディング」と言う言葉に置き換えられています。

■LS(Left Shoulder): 左ショルダー、左肩 RS参照
■Diag(Diagonally ダイアゴナリー): 斜めに

LOD(The Line of Dance): ライン・オブ・ダンス。反時計回りに進む方向のこと。
PP(Promenade Position): お互いが扇子をV字のように開く形で、女性の左側が男性の右側近くにあるか、接した形。

■CPP(Counter Promenade Position): プロムナード・ポジションの逆の形で、男子の左側が女性の右側近くにあるか接していてV字になった形。
■FAP(Fall Away Position): プロムナード・ポジションの形でカップルが後退するときに使われます。フォーラウェイ・ポジションとも。

■Fig.(Figure): フィガー、フィギュア、複数のステップで構成された動き。ステップとも言います。

◇CBM(Contrary Body Movement): 出した足と反対側 (Contrary) の上体 (Body) の反面が、出した足の方向へスウィングすることです。回転を伴うステップの1歩目(例えば、ワルツのナチュラル・ターンの場合の男性右足)が床につき、そこを体重が乗り越そうとするとき、上体の左半身(腰から肩にかけて)がスイングすることをいいます。この場合、シー・ビー・エムがかかるのは、左足が右足を通過するまでで、通過後は左足と左半身が一緒に出て行くのでシー・ビー・エムがかかるとはいいません。

◇CBMP(Contrary Body Movement Position): 上体を横切る形に置かれた足の位置のこと。 これを理解するには、まず両足を揃えて真っ直ぐに立ちます。片足に体重を載せ、もう一方の足で立っている足の真ん前、または真後ろを横切った所に、回転をしないでステップします。前にステップした場合をCBMPに前進、後ろにステップした場合をCBMPに後退と言うように使います。

Natural Turn(Right-handed turn): 右回転
Reverse Turn(Left-handed turn): 左回転

◇OP(Outside partner): 自分がパートナーの右外側に出ること。
◇PO(Partner outside): パートナーが自分の右外側に出てくること。

H(Heel): ヒール/かかと
T(Toe): トウ/爪先
B(Ball of foot): ボール、足の親指の付け根部分

◇IE(Inside Edge): 足裏の内側のこと。例えばボールの内側を使う場合、英語ではインサイド・エッジ・オブ・ボールと言いますが、わかりにくいため、BのIEとしてあります。同様にFのIEは「足のインサイド・エッジ」になります。
◇WF(Whole Foot): 足の裏全体のこと。フットワークでWFの所では、足の裏全体を一度に床につけます。

 

 

 

 

 

 

 

 


(この項おわり)

 

 

 

「モダン・ボールルーム・ダンシング」
(ビクター・シルベスター著/神元誠・久子翻訳/白夜書房)
2005年12月出版
原書名:Modern Ballroom Dancing (Victor Silvester)

 

 

世界で60万部以上の販売実績を誇る、ボールルーム・ダンス本のトップセラー。1922年の第1回世界プロフェッショナル・ボールルーム・ダンス選手権のチャンピオン、ビクター・シルベスターがダンスの歴史を遡り、スタンダード・ダンスの起源と発達を語る。実習編では、初心者にも適した踊りから上級者向けまで詳しく解説。

 

ビクター・シルベスターは楽団を率いていたことでも有名ですし、同様に、ストリクト・テンポを確立した人としても名が知れ渡っています。私がダンスを始めた時にも、イギリスからビクター・シルベスター・グランド・オーケストラのLPを何枚も買い求めていましたので、そのように著名で偉大な人が書かれた本の翻訳をさせて頂く機会を得たことは、この上なく光栄でした。

 

神元誠・久子