MBD 2.ダンスの起こり

投稿者: | 2020年2月4日

ビクター・シルベスターのモダン・ボールルーム・ダンシングから「2.ダンスの起こり」をお届けします。

第一章 歴史
2.ダンスの起こり
How Dances Begin

 

*印:「訳者のノート」参照。

 

1章ではその昔と近代のダンスの違いや、近代のスタイルがどのように発展したかを述べてきました。この章では私達に人気のあるダンスがどのようにしてボールルームに至ったかについて触れて行きましょう。

 

ボールルーム・ダンスは世界から孤立した活動ではなく、物事によって影響され、かつ、世界で起こっていることに敏感な生き物なのです。ファッションの変化、戦争、ある国で起こる何かに関する急激な関心の高まり、ポップ・ミュージック、旅行の機会が増えること、社会の激変、映画やテレビ音楽の人気、そうした総てが踊りのシーンに影響を与えたのでした。

 

ダンスも他の生物同様、発展し、あるいは消えてゆくものなのです。変化せずそのままでいることはできません。例えば、あるポピュラーな踊りの規格化が始まり、それ以上発展できない所まで来てしまうと、その余命は余りありません。そして最後は、一時流行したメヌエットやガボット、そしてポルカなどと同じく棚ざらしになることでしょう。

 

では、新しいダンスが流行る要素は何でしょう? 最初にあげられるのは、分かりやすく耳に残るリズムで今までのボールルームにないことです。なぜなら新しいダンスは新しい音楽のもとに誕生するからです。かつてのリズムが再び息を吹き返し戻ってきた例は一つもありません。メヌエットやガボット、そしてポルカなどの古いダンスも、ワルツやタンゴ、そしてフォックストロットもそうですが、そうしたダンスが出てきたとき、その音楽はボールルームにとって新しいものでした。また、どれも親しみある2/4、3/4、あるいは4/4拍子でした。一般的でない拍子の音楽で人気を保ち続けたものはありません。

 

新しいダンスが成功するもうひとつの特徴は、そのリズムに現存のダンスのステップがそのまますんなり使えるのはダメで、踊り全体の性質を変えてしまうような微妙な変更が必要です。例を挙げると、ルンバはフォックストロットに良く似ているため、楽団が本当のラテン・アメリカンのフィーリングを込めて演奏をするまで普及しませんでした。

 

次に一番重要な点について考えましょう。新しいダンスを作り出すリズムはどこからやってくるのでしょう? 記録で調べられる限り、どれをとっても、すべてフォークダンスから来ています。北米からの影響が入ってくる以前、ヨーロッパでは人々に目を向け、彼らの母国のベーシック・リズムを探しました。何世紀もの間、あらゆる種類のリズムが試され、ある種のものは捨て去られ、その他のものが人気のあるダンスとなりました。

 

宮廷ダンスの中で最も威厳あったメヌエットは、もともとポアトー地方の小作農たちからのものですし、ガボットはプロベンスの人民から起こったものです。ボアトーもプロベンスも両方フランスにあります。ワルツは南ドイツのレントラー、あるいはフォークソングからですし、ポルカはボヘミア生まれです。ヨーロッパでの探求が尽きたとき、北米の白人がそうしたリズムに独自の変化をつけましたし、アフリカ系アメリカ人からはフォックストロットのリズム(もともとアフリカのリズムなのです)がやってきました。

 

それ以来、ラテン・アメリカンの踊りはボールルームですさまじい人気を得たのです。アルゼンチンのガウチョ*のタンゴ、ルンバ、チャ・チャ・チャ、そしてサンバなどが。スペインからは目が眩むほどきびきびした踊り、パソ・ドブレがやってきました。

 

奇妙に思えるかも知れませんが、新しいダンスに使われる実際のステップはさほど重要ではないのです。過去において、新しいダンスと結びつけてボールルームに登場したステップが、そのダンスで使われ続けた例はありません。そうしたステップの殆どは複雑で、時として全く異様なものでした。いかにして元のフォークダンスから取り込もうとも、その時代の洗練されたボールルームに受け入れられるには、相当の変更が必要になるのです。

 

メヌエット、ガボット、ワルツ、ポルカ、タンゴ、そしてフォックストロットが最盛期を誇ったときに使われたステップは初期のステップからかなりの変更がされました。しかし、初期のステップどうのこうのは重要ではありません。勿論、当初の精神は受け継がれるべきでしょうが、今日、メヌエットの気取ったステップを5分間も続けることを誰が望むでしょう。

 

新しいダンスが台頭すると、すぐに何百人もの人や教師達がそのステップを試します。彼らが受ける印象により、ムーブメントが変更されたり省かれたりする事もあるでしょうし、新しいものの追加があるかも知れません。メヌエットの時と同じ事が起きるのです。

 

新しいダンスが社会に広まる方法は興味深いです。発生国では人々のフォークダンスだったものが、それが持つシンプルで魅力的なリズムは形を変え、洗練された人々に受け継がれていくのです。別の国では全く反対の事が起こることもあります。その国のダンスを、休暇を過ごしにやってきた旅行者が自国に持ち帰り、そこで人気を得るケースです。

 

これが過去4、5百年の間、成功したボールルーム・ダンスに起きたパターンなのです。

 


(この項おわり)

 

 

 

「モダン・ボールルーム・ダンシング」
(ビクター・シルベスター著/神元誠・久子翻訳/白夜書房)
2005年12月出版
原書名:Modern Ballroom Dancing (Victor Silvester)

 

 

世界で60万部以上の販売実績を誇る、ボールルーム・ダンス本のトップセラー。1922年の第1回世界プロフェッショナル・ボールルーム・ダンス選手権のチャンピオン、ビクター・シルベスターがダンスの歴史を遡り、スタンダード・ダンスの起源と発達を語る。実習編では、初心者にも適した踊りから上級者向けまで詳しく解説。

 

ビクター・シルベスターは楽団を率いていたことでも有名ですし、同様に、ストリクト・テンポを確立した人としても名が知れ渡っています。私がダンスを始めた時にも、イギリスからビクター・シルベスター・グランド・オーケストラのLPを何枚も買い求めていましたので、そのように著名で偉大な人が書かれた本の翻訳をさせて頂く機会を得たことは、この上なく光栄でした。

 

神元誠・久子