ダンスビュウ2017年2月号に「スロー・フォックストロット雑学」という記事を書かせていただきました。そこで、当時の原稿に少々手を加えて、ここにお届けしようと思います。
#010 スローレッスン雑学(後半)
(Slow Foxtrot Trivia)
音楽にまつわる話
■カウントの取り方を変えるだけで解決!
「スローを踊るとつい速くなり、流れるようなムーブメントができず悩んでいます。スロー・カウントをきちんと取れるコツが知りたいです」
こういう悩みを抱いたり、周りの人たちから聞くことはありませんか?
偉そうなことは言えませんが、もしかするとその問題はカウントの取り方を変えるだけで解決するかも知れません。そうだとすると、グッド・ニュースでしょ?
1.ビクター・シルベスター(Victor Silvester)
ビクター・シルベスターの名著 “Modern Ballroom Dancing” を翻訳していたとき、次の一文に出合いとても感激し、とても説得されました。
「私は生徒たちが、「スロー」と言いつつ「クイック」の速さでステップする傾向があるのを見てきました。こうした傾向がある初心者には「スロー」の代わりに「スローリー」(Slowly ゆっくりとの意味)と言わせると良いでしょう。言葉が長い分、ステップするのも少し遅くなるからです」。
つまり、言葉としての「スロー」の長さが「クイック」と同じだから、踊り方も「クイック・カウント」になってしまう。だから、倍の長さの「スローリー」にして踊ると、その分、足に長くいられるというアドバイスです。
これは、すごく効果的なので、お勧めです。
以前のブログなどでも書いていますが、スローを「ほっかい」、クイックを「どう」に変えても素晴らしい効果は続きます。
これも「オノマトペ」のひとつになりますか? いずれにせよ、言葉遊びをするだけで上達できるのであれば、こんなに楽しく素晴らしいことはありません。
2.ミルコのアドバイス(Mirko Gozzoli)
フォックストロットのスイング感を得るのに、”One Swing, Nothing, Nothing”と教わった人は多いと思います。
これは、(S)でスイングを起こしたら、次の(QQ)は(S)で得たスイングの余韻を使うだけといった意味です。すなわち、(QQ)を「ステップして出て行こうとしない」 ―― と。
これと同じ意味合いですが、元世界チャンピオンのミルコ(Mirko Gozzoli & Allesia Betti)が紹介している別の表現を紹介しましょう。出典は “Accademia della Danza” (王者のテクニック/スタジオひまわり/イタリア語・日本語)
「このカウントの取り方の方が脚部と上半身を使ったより良いスイングができ、よりスロー・フォックストロットらしくなるのが分かると思います。
それは、(S)ではイタリア語で脚部を意味するガンベ(Gambe)、(Q)ではボディを意味するコルポ(Corpo)を使います。私が『ガンベ』と言いながら踊るところではダウン・スイングとなり、下半身により大きなエネルギーを起こしています。
『コルポ、コルポ』と言っているとき、私は足の上にボディを運びスイング・ムーブメントのバランスを取っています」。
ビクター・シルベスターのアドバイスと同じ様なことを世界チャンピオン達は行っているのですね。そして、コーチャーとして、今でもこの「秘訣」を教えているのかも知れませんね。
ユーゴ・ストラッサー&オリバー(Yugo Strasser & Oliver)
シャンソンの名曲「枯葉」はスローによく使われますが、私はユーゴ・ストラッサー楽団の演奏が一番好きかも知れません。そこで、「枯葉」にまつわる粋なお話しです。
ユーゴさんはオリバーさんの2冊目の本 “Music was my first love” に寄せた献辞でこのように語っています(1冊目は “The Irvine Legacy” 「ビル&ボビー・アービンのダンス・テクニック」です)。
「オリバーは「枯葉」の曲でフォックストロットを踊るのが大好きでした。私のクラリネットのソロ部分では、とても繊細、かつ、誰も真似できない程の上品さで踊っていましたので、それが私たちを一層親密にしました」。
これに呼応するかのように、オリバーさんは本書の中で次のように語っています。少し長めの引用になりますが、これを読むと、今度「枯葉」の曲が流れたとき、あなたはきっとこのエピソードを思い出しながら踊ることでしょう。
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私が教わった、あの偉大なカール・ブロイアーが、こんなアドバイスをしてくれました。「自分が出場する競技会でどのオーケストラが演奏するかを事前に調べておきなさい」。
以来、私はずっとそのアドバイスを守り、どの楽団が演奏するのかを調べコンタクトするようにしたのです。これは、昔も今もルール違反ではありません。それにしても、こうしたことをやろうとする人は誰ひとりいませんでした。もしかすると、殆どのダンサーの中で、音楽は大きな比重を占めていないのかも知れません。しかしアドバイスを守った私は、だんだん多くの、そして、より頻繁にバンドリーダーたちと会う機会が増えました。一例が、あの有名なユーゴ・ストラッサーです。
1983年ジャーマン・クローズド・ボールルーム選手権が開かれる1週間前のことでした。私はユーゴ・ストラッサーにお会いし、選手権の決勝で演奏する曲目選定は済んでいますかと尋ねました。すると、まだ決めていないが何が良いだろうと私に聞いてきたのです。私が自分の好きな曲とテンポを記した紙を見せると、彼はそれを受け取りました。そして1週間後、彼は私が紙に書いたそのままを演奏してくれたのでした。
私のフォックストロットの最優先曲目は「枯葉」でしたが、それからというもの、信じられないでしょうが、ユーゴ・ストラッサー楽団は競技会であれショーであれ、私が出場するところでは必ずフォックストロットの枯葉を演奏してくれたのでした。しかも、私の好きな特別なテンポで…。
<写真:UK Open 選手権にてオリバーさんとのツーショット。私は懸命にダンスウイングの販売促進をしていました>
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ユーチューブでユーゴ・ストラッサーの枯葉の曲を見つけたのでリンクします。
私個人の経験
実は、オリバーさんを評したユーゴさんの話のような別の例を個人的に聞いた経験があります。
アシュレー・フローリック(Ashley Frohlic)さんはエンプレス・オーケストラを率い、毎年ブラックプールで演奏をしていますが、彼とロンドン郊外で食事をしていた時のことです。
「舞台から観ていると、彼の音楽的表現は群を抜いている」と、あるラテン・ダンサーの名前をこっそり語ってくれました。妻も一緒にいたのですが、二人でとても驚いたことを覚えています。おまけに、私たちが大好きなダンサーだったので、「やっぱり!」という感じでした!
話がちょっと横道にそれましたが、「音楽つながり」ということでお許し下さい。それにしても、音楽家だからこそ見える部分があるのだと驚きました。
<写真:アシュリーさん。ブラックプール会場にて>
これで、「スローレッスン雑学」は終わりです。楽しんで頂けたなら幸いです。
ハッピー・ダンシング!