ダンスビュウ2017年1月号に「ワルツレッスン雑学」という記事を書かせていただきました。このブログ「私のダンスノート Part 2」では、その原稿に手を加え、3回に分けて紹介しています。今回はその2回目。
#007 ワルツレッスン雑学2
ウィスクの語源
✅辞書の意味でなかったウィスク?
サークルで教えるとき、「ウィスクは小箒でサッとはくような動き」と、辞書で調べた説明を忘れなかったのに……。
1⃣ ステファン・ヒリヤー (Stephen Hillier)
2000年頃、友人に借りたビデオ「JDSFダンススポーツ教程」を見ていると、講師のヒリヤー氏が、
「ロンドンのサボイホテルで開かれたディナー・パーティーで、ウェイターがスープを床にこぼしました。彼はナプキンでふき取りましたが、その場所で左足からのクローズド・チェンジを踊った男性の右足がスープの汚れで引っかかってバランスを崩しました。とっさに次の左足を後ろに置いたのがウィスクの動作の始まりと言われています」
と話しました。これには続きがあり ――
「次に、右足からのクローズド・チェンジを踊ろうとして、左足が再びスープの汚れで引っかかり、やむなく右足を揃えた結果、シャッセ(フロム・PP)が生まれました」。
「本当かどうか分からない」との断りもありましたが、個人的にはサボイのような一流ホテルで、踊っているフロアを横切るウェイターがいるのだろうかと懐疑的です。ともあれ、愉快な話です。
(※比較的近年に見たブラックプール・コングレスのDVDの中で、司会者はヒリヤー氏がダンスの歴史的なことを随分調べられていると話していました)
2⃣ オリバー・ヴェッセル・テルホーン(Oliver Wessel-Therhorn)
そうこうして時が過ぎた2010年。オリバーが書いた「アービン・レガシー(The Irvine Legacy)」を読んでいると、こう書いてあるではありませんか!
「アレックス・ムーアはウイスキー好きで、レッスン前に1、2杯飲んでいたことは広く知られていましたが、それがダンスに影響を及ぼしたのでした。彼は左からクローズド・チェンジでバランスを崩し、3歩目左足を閉じる代わりに右足後ろにクロスして倒れないようにしたのでした。ウイスキーの災いが転じて生まれた新しいステップには、なんの工夫もなくウィスクと名付けられたのです」
😯「えっ、”Whisky” から “y” を省いただけ!?」
「そうだったのか!」という喜びの一方で、「早く言ってよ~」って感じもありました。何しろ愛読書の「ボールルーム・ダンシング(Ballroom Dancing)」や「リバテク(Revised Technique)」など、ムーア氏の本の中に、そんな話は一言も書いていないのですから!(笑)
<The Irvine Legacy の翻訳版は「ビル&ボビー・アービンのダンス・テクニック」(白夜書房/神元誠・久子訳)>
3⃣ ビル・アービンMBE(Bill Irvine MBE)
「ずば抜けて素晴らしい」と評されるレクチャーがあります。2005年、ブラックプールで行われたビル・アービンのレクチャーです(World Congress Blackpool May 2005)。
その年80才の彼は「これが最後のレクチャーになるだろう」と話されていたようですが、レクチャーで見せた動きは、そんな年をまったく感じさせません。しかし、彼の言葉は現実となり、2008年に他界されました。
彼はこのレクチャーの中で、前述のオリバーと同じ話をしています。観衆にはこの話を知らなかった人が多かったと見え、会場は大きな笑いに包まれましたが、それはまた、私の中でウィスクの由来が “Whisky” だったと、完全決着した瞬間でもありました。オリバーはビル&ボビーに習っていたので、この話を聞いていたのでしょう。
✅その映像
ビルがウィスクの由来を話すシーンをお楽しみください。
撮影はデレック・ブラウン(Dereck Brown)氏。
これまで、この意表を突かれたウィスク語源の話を拙書「「私のダンス用語ノート」、「熱心なダンサーへ贈る読むダンス用語集」、HP「私のダンスノート」、そしてダンスファン誌の連載記事の中で書いてきましたが、今回の「ワルツレッスン雑学」はダンスビュウ誌から依頼された最初のオリジナル原稿だったので、ダンスビュウの新しい読者に向けて書いた次第です。
こうした語源やフィガー名の意味を知っていると、ダンスライフが少し豊かになる気がします。
私が調べた限りのそうした情報を「熱心なダンサーへ贈る読むダンス用語集」にびっしり書き込みましたが、そうした機会があったことが、絶版となった今、一層幸せに感じられます。
ハッピー・ダンシング!