※ダンスビュー2016年12月号に掲載された記事「タンゴレッスン雑学3」に出て来た「静的表現」を少し詳しくお伝えします。
#005 タンゴレッスン雑学5
静的表現(モニュメンタル・スティルネス)とは?
先の投稿「タンゴレッスン雑学3」後半に、「以前は日本に素晴らしいダンサーがいた。リンクを終えた形が歌舞伎役者のようでとても素晴らしかったと、その“静的”表現を称えていた」と、ビル・アービンについて書きましたが、今回はその静的表現のお話です。
最初に2017年ダンスファン6月号のJCDコングレスレポートを紹介しましょう。
Marcus Hilton (MBE)
ボールルームは正しい道を歩んでいる
「ボールルーム・ダンスの流れは未来の美しいダンスに向かい、正しい道を歩んでいると思います。タンゴでは歩く、脚部でとるタイミング、ローテーションなどのベーシック・アクションが戻りうれしく思います。それこそが本来のタンゴです。私の好きなカウントの取り方は(1&2&~)で、1はレッグのアクション、&はボディのアクションです。1ですぐにボディを乗せません。
10~15年ほど前から音楽性を重要視し、常に2小節、4小節、あるいは、8小節構成のフレージングで踊るようになりましたが、その重要性がある一方、アクションやダンスの特性を忘れてしまいます。(その特性のひとつとして)ビルから ”Monumental Stillness” (胸像のような静けさ)の表現を聞いたことがあります」。
マーカスさんが2008年に語った「懸念」は、ここでは「正しい道を歩んでいる」に変化していますが、それはさておき(笑)、彼はコングレスの中で、この ”Monumental Stillness” の言葉を一度だけ使いました。実際にはこう話しました。
「彼(ビル)がどこでこの言葉を知ったか知りませんが、たぶん日本だと思います。忘れもしません、その言葉は”Monumental Stillness”です」
それを私は「静的表現」と通訳しながら、「”Monumental Stillness” の補足説明が欲しい」と思い続けていましたが、それ以上の説明は一切ありませんでした。しかし、このコングレスにおける一人の持ち時間は45分、通訳を介すとその半分程度の長さしか話せないので、この一言には、それなりの重要性があったに違いありません。
”Monumental Stillness” を聞いた瞬間、かつて見たビデオを思い出していました。それがこの「ビル・アービンのモダン・レクチャー」(スタジオひまわり/1991年収録)です。その中で、アービン氏は語ります。
Bill Irvine
「ここでステップ・トゥ・ポーズ(Step to Pause/ステップしたら動きを止める動作)の原則について説明します。
たとえばプロムナードをするとき、(1歩目をステップし、両足が開いた形で止まり)わたしはモニュメンタル・スティルネスを感じます。
そこから両足を閉じたときにも、そのスティルネスをボディの中に感じています。(中略)――もしかすると、ある人の目にはオールド・ファッションと映るかもしれません。なぜなら、これは私たちが若かった頃に練習した方法だからです。しかし、いまでもタンゴを完璧なものに見せてくれます」。
次に足の使い方を説明し、彼が1960年代に英国で見た日本人の話に移ります。
「当時のタンゴのコリオグラフィーは今とは全然違います。日本人カップルたちはスムーズなフォックストロットができませんでしたし、快活にスイングするワルツも踊れませんでした。でも、彼らは皆、非常に静かで、強く美しいタンゴを踊っていました。そのときに見たプロムナードの形は、今まで見た中で最も素晴らしいものの一つです。タンゴはある意味、日本の歌舞伎の表現法と通じるものがあると思います」。
(上は歌舞伎の雰囲気を取るアービン氏。ビデオから切り抜きました)
プロのスタンダード・ダンサーたちには当たり前になっている表現かも知れませんが、このブログを読んで下さっているサークルだけで踊っている人たちにも役立つと思い、書き出してみました。楽しんで下さったなら、うれしいです。
【追記 2021/03/26】歌舞伎の見得を切る動画の部分をアップします。
【追記 2021/05/03】上の切り抜き動画をフェイスブックで紹介したところ反応がとても大きく、また、海外からこのビデオを購入できないかとの問い合わせも来ました。残念ながらこのビデオはもう購入できないと思いますので、タンゴの全部分をアップします。動画は「限定公開」ですので、このページだけでご利用ください。
When I introduced the above clipped video on Facebook, the reaction was very big, and I received some inquiries both from Japan and abroad as to whether this video could purchased. Unfortunately I don’t think this video can be purchased anymore, so I’ll upload the whole part of the tango. The video is “private”, so please view it only on this page.
ということで……ハッピー・ダンシング!