※ダンスビュー2016年12月号に掲載された記事「タンゴレッスン雑学」を更に詳しく書き直して紹介します。第3弾はLorain Barry、Michael & Vicky Barr, Bill Irvineのお話です。
#003 タンゴレッスン雑学3
ロレインさんが「見たい」と熱望するコンビネーションとは?
ダンスビュー2016年12月号に掲載された記事の元原稿に写真を追加して紹介します:-
ベーシックに潜むタンゴらしさ
Lorain Barry
“Champions Masterclasses”より元スタンダード世界チャンピオンのロレイン・バリーさんは、あるタンゴのレッスンで、
「ツー・ウォークスからのプログレッシブ・リンクは私の大好きなコンビネーションです。それは長い間、『競技会で見たい、見たい』と思い続けているコンビネーションです。つまり 『見ていない』という意味です。でも、これこそが勝利へのコンビネーションなのです」
と話されていました。
ツー・ウォークス~プログレッシブ・リンクを踊り、「次は?」と聞かれ、真っ先に挙がる最優先候補はクローズド・プロムナードに違いありません。なにしろ、ベーシック中のベーシック・ステップなのですから。
では、このベーシック・ステップは初心者専用なのでしょうか? いいえ。どうもそうじゃないようです……。
Michael & Vicky Barr
妻がフィリス・ヘイラー(Phyllis Haylor)さんの教室に通っていた1973年頃のことです。レッスンから帰宅した彼女は私に、当時、アマチュア世界チャンピオンからターンプロしたばかりのマイケル&ビッキー・バー組と偶然フロアが同じだったと教えてくれました。二人はタンゴのレッスンを受けていたのですが、そのレッスン内容に彼女は驚きを隠せませんでした。
「同じことを繰り返し練習させられていたの。1時間、クローズド・プロムナードだけ!!」。
教えていたのはエルサ・ウェルズ(Elsa Wells)さんでした。
ロレインさんやマイケルさんたちの話から、ベーシックの大切さがずっしり伝わってきますが、もしベーシック・ステップの中にタンゴらしさが潜んでいるとすれば、それは(S)と(Q)カウントの使い方にあるのかもしれません。つまり、(S)に含まれる「静的」な動きと、(Q)で表現できる「動的」な動きの……。
Bill Irvine
そういえば、ビル・アービン(Bill Irvine)さんは1991年のレクチャーDVD「ビル・アービンのモダン・レクチャー Part 2 」(スタジオひまわり)の中で、
「以前は日本の中に、素晴らしいダンサーがいた。彼のリンクを終えた時の形が、歌舞伎役者のようで、とても素晴らしかった」
“The Irvine Legacy”より
と、その「静的」な表現を称えていました。
しかし、今日のようにスピード重視の目立つ振り付けで踊る選手に混じり、自分だけがこうしたベーシックや「静的表現」を取り入れることは、とても勇気がいることかも知れません。しかも、ダンスのテキストには、(他の種目もそうですが)「タンゴらしさとは何か」とは、一言も説明されていないのですから!
ここで再び、マーカスさんの「懸念」が脳裏をよぎります。私たちはダンスの未来に向け、何をし、何を遺すべきなのでしょう?
それとも、そうした懸念は、年配者が「近頃の若者は……」とこぼすのと同じ類の話なのでしょうか……。
ロレインさんの話、マイケル&ビッキー・バー氏たちが受けていたレッスンの話、そして、アービンさんの話。楽しんでいただけましたか? 次回は「タンゴレッスン雑学4」で最終回になります。
「タンゴをタンゴらしく踊りたい!」
「そのために、静的表現のもう少し詳しい話を知りたい」
と思っている人がいるかと思いますので、「タンゴレッスン雑学」を終えてから改めてお話しましょう。
ハッピー・ダンシング!