G003 質問2 リルティングって何ですか? 

投稿者: | 2020年2月19日

質問:ブルースの踊り方で「リルティング」というのをご存知でしたら教えて下さい。また、ブルースの前進がヒールではなくボールで踊られていた歴史があるのかどうかもご存知でしたら教えて下さい。

◇ ◇ ◇

 

質問者には直接回答を差し上げていますが、ここではその回答に手を加え、かつ、映像も加えて記録に残します。同じ疑問を抱いている人がいましたら、お役に立てて下されば幸いです。

 

●リルティング (Lilting) はブルースで使われる踊り方で、妻もその昔(1970年代)イギリスで先生から教わったと話しています。

 

●踊り方:‘S’ カウントの足が床につき、‘&’カウント(即ち’S’の後半)で膝を緩め、次の足が通過する際膝を伸ばし気味にします。英語の意味は「軽快に動くこと、陽気に歌うこと」 (出典「私のダンス用語ノート」神元誠・久子著/自費出版 2010年)

 

私がリルティングの踊り方を文字として知ったのは、「楽しく覚えやすいダンスの第一歩」(丹下須美寿著/金園社 1967年発行)だったと思います。そこには次のように書いてあります。

 


ブルースの踊り方には「リルティング」または簡単に「リルト」という運動があります。初級用の教程では、近頃はあまり用いませんが、ひととおりいろいろの足型を覚えてすらすらと踊れるようになった人たちに、研究していただきたいものの一つです。

クオーター・ターンズを例にとって説明すると、第1歩で足前進のとき、その足が床に着いた際に、その膝を少しゆるめて僅かに身体を沈め、次の右足が左足へ引き寄せられて来てこれを通過するとき左膝を伸ばし踵を少し上げて、上体を浮き上がらせるようにします。

このようにスロー(カウント)のステップでは、いつも足を踏み開いたとき少し上体を沈め、次の足が支持足(立っている足)を通過するとき上体を浮かす。これがリルトです。

クイック(カウント)のステップでは、横へ開くステップで上体を沈め、次の足を揃えるとき上体を浮かせます。トゥインクルの女子のステップやオープン・リバース、「Q」の6歩続く部分などでは、2,4,6番目の「Q」に浮き上がることになります。

リルトは、こうしたステップの形で覚えるよりも、足型の一歩一歩をあまり考えずに踊れるようになったときは、音楽のリズム(拍)に耳を傾けて、その第2拍、第4拍で身体を浮かすように踊って下さい。


 

 

■前進はヒール、それともボール?

 

❶ Victor Silvester

現在のブルースはビクター・シルベスターが「Modern Blues」の名称で考案したものであることが、「楽しく覚えやすいダンスの第一歩」に書いてあります。

また、現在私たちが楽しんでいる殆どのステップは彼によって1932~33年頃に考案され、それらは “COLLECTION OF VICTOR SILVESTER’S VARIATIONS”(高松太郎訳補/昭和8年発行)に掲載されています。

そこには、「前進はまず踵から大きく前に出し、直ちにフラットになる」と書いてあります。

 

 

❷ Guy Howard

最新の教師用テキストにブルースは掲載されていませんが、少し前の教師用テキスト “Technique of Ballroom Dancing by Guy Howard (1995)” の最後に “Social Rhythm” としてブルースが掲載されており、そこに記載されているフットワークは、

「Ball Heel throughout. A soft heel lead may be used on frd steps.」とあります。

意味は「常にボール・ヒールで。前進のステップでは軽やかなヒール・リードを用いても良い」。ですから、ボールでもヒールでも良いことになります。

因みに、私が所有する他のどの教師用テキストにもリルティングは出ていません(読み落としがあったら失礼!)。

 

 

❸ Santos Casani

手元に 1930年発行の「社交ダンス独習」(サントス・カサニ原著/瀧本二郎訳補 昭和5年発行)があります。そこに書かれているブルースの説明が興味深いので紹介します。

(注:ブリュース=ブルースのこと)

ブリュースもまた南米ニグロの踊りから創作されたもので、1923年頃に英国に紹介されました。

ステップはエール・ブリュース(The Yale / Yale Blues)と非常に似ていますが、その異なる点はブリュースでは絶えず横振の動揺をしながら浮沈上下動揺をもするにあります。

ブリュースを踊るに当たりて記憶せねばならない主要な点は、

1.足のボールで踊り、体重は前足で支える。
2.動作は前進、側揺、浮降運動を混同して踊る。

  (以下省略)

 

ここにある「側揺、浮降運動」がリルティングの動き方と思われます。 また、「足のボールで踊り」と書いてありますので、初期のブルースではボールで踊っていたことが分かります。

 

 

❹ 私見ですが ―― 

ソシアル・リズム(Social Rhythm)とかクラッシュ・ダンス(Crush Dance)と呼ばれるブルースは、本来、混雑した場所で踊る踊りですから、ホールドは小さめにし、前進はボールで小さく出るのは極めて自然なことと思います。また、ブルースは南米の黒人から発生したので、ラテン系に属すると考えると、そのフットワークには納得がいきます。

 

一方、ブルースが “COLLECTION OF VICTOR SILVESTER’S VARIATIONS” に紹介された時点でボールルームの踊りに変わっていますから、私たちがブルースで「前進はヒールから」と習うことがあるように、前進をヒールから出るのも自然な動きと思います。

 

拙書「サークルで上達するボールルーム・ダンス」も前進のフットワークは意図的に「ヒールから」にしています。そうした理由は、不思議なことに、初心者がボールで出る習慣をつけてしまうと、他のスタンダード種目に移ったとき、「ヒールから前進すべきステップをヒールから出られない」人が出て来ますが、ブルースでヒールから前進できるようにしておくと、「ヒールから前進すべきステップをヒールから出られる」ようになりますし、混雑したフロアでは「容易にボールから出るように変更できる」からです。

 

 

❺ Bill Irvineの最後のレクチャー

ここで、ビル・アービンの最後のレクチャーといわれる映像の一部を紹介しましょう(撮影はデレック・ブラウン(Dereck Brown)氏)。この中で彼は「1917年のフォックストロット」として、”Walks, Trots, Pivots, Jaunty Twinkles ” の動きを紹介し、トニー&アマンダ・ドクマン(Tony & Amanda Dokman)に踊って貰うシーンがありますが、それはいわゆるブルースで、ホールドは小さく、前進ステップは総てボールで踊っています。

踊りはとても粋でかっこよいです。こんな風に粋に踊れるなら「ボール・リード」、大歓迎ではありませんか? 

 

 

※参考までの情報ですが、ブルースはISTDが1926年に正式に決めたモダン5種目に入っています。(出典:The Ballroom History  谷勲氏著/個人出版非売品)

 

ハッピー・ダンシング!